第14話 両親の怒鳴りあい

 私が子どもの頃はまだ昭和だった事もあり、子どもたちの間では親が離婚するというのは『恥ずかしい事』という感覚でした。


 親が離婚したために、名前が変わる同級生。

 親が離婚したために、転校していく同級生。


 そんな子たちを見ながら、少し憐れんだような目で見ていました。


 そして小学校低学年の頃には、母とパパ(今回のシリーズではあえて父親の事をパパと書いています。母に対する感情との差です)の怒鳴りあいが頻発するようになりました。


 うちでも親が離婚するかもしれない。

 その覚悟をするようになってきました。


 母は事あるごとに私に

「離婚したら、どっちについていく?」

 と尋ねました。


 私は毎回、母の方だと即答していました。


 パパが大好きで、母の事は好きじゃないのに。


 それは打算でした。


 母以上に家事が出来ないパパ、借金があるパパについていっても生活苦は目に見えていると八歳ぐらいの頃から分かっていました。


 私が母を好きで、母についていくと答えたわではないのを分かっていた母は

「母についていく」

 と答えているのに、私に嫌味やパパについて行って不幸になればいいと毎回のように言いました。


 小学校低学年の時なので、さすがに私もその言葉を言われる事のダメージが大きくて母の靴を舐めんばかりに母を取り繕い、おだてて私を連れていくようにお願いしていました。


 もう本当に毎日が疲れ果てていました。


 なので、怒鳴りあう二人を見てもう離婚すればいいのにと思うようになっていました。


 学校で恥ずかしい思いをしたとしても、もう面倒くさいし、早く楽になりたいと思いました。


 生活が変わってしまうかもしれない恐怖はあったけれど、もう怒鳴りあいが嫌で嫌で。


 でも母の見えるところで耳を塞ごうものなら、後から

「お前がいなかったら、一人でとっくに夜逃げしてるわ」

(母は夜逃げという言葉が大好きで、口癖のように使っていた)


 と私のせいだ、それなのにお前は他人事で耳を塞ぐのかというような感じで罵られるので、無表情で少し離れたところで二人の怒鳴りあいを見守るしか出来なかったのだ。



 結果的に両親は私が小学校四年生の頃に別居(と言っても、パパが長期出張に出ただけだった)正式に離婚したのは、もう少し私が大きくなってからだった。


 私は名前も変わらず、引っ越しもしなかったので学校の同級生には知られる事なく、何も変わらない生活を送っていくのだった。

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