第9話 殴られ続けたこと

 母は基本、虐待というか暴力は振るいません。

 ですが、一度(もしかしたら私が忘れているだけかもしれませんが)かなりボコボコにされた事がありました。


 それは小学校一年生の時です。


 私が何をしてそうなったのかは憶えていません。


 ただ、何か危ない事をしたとか、やってはいけない事をしたとか、そういうのではない事だけは記憶しています。


 その頃住んでいた家では、布団を押し入れにしまわずに部屋の隅に積んでありました。

 その布団の方に突き飛ばされて、ボコボコに数分間殴られました。

 途中からは枕のようなもので殴られていたかもしれません。


 母は何かの怒りをぶつけているような、そんな感じでした。


 私はもう、その当時は親の前で泣く事は無かったので、その時も泣かなかったはずです。

 私がぶつかった事で雪崩れた布団に寄りかかりながら、頭や顔をかばい耐えていました。

 まだ小学校一年生の頃だったので、逆らう事なく、ひたすらに謝り続けていたような記憶があります。

 謝り続けていた記憶はあるのですが、自分が何をしてそうなったかは憶えていません。


 母と二人きりでした。

 謝っても許してくれない事で、痛み以上にどうしたらこれを止めて治まるのかが分からずパニックになっていました。


 私は叱られて責められた時に、今でもパニックになって物事が考えられなくなることがあるのですが、もしかしたらこの時の影響かもしれません。


 もしかしたら、私が泣かなかったので数分間も止めてくれなかったのかもしれません。

 けれど泣かないのは、私が私自身を守るための最後の砦なのです。


 小学校一年生になって、私は鍵っ子になりました。

(とはいえ、我が家は鍵などかけられておらず、いつも開いていましたが)


 なのでそこから私は、幼稚園児だった頃と違って母からも大人として扱われていたような気持ちでいたのかもしれません。

 だから余計に泣けなかった。


 母は私を殴りつけながら、怒っていたというより泣いていたような気がします。

 私は泣いていないのに。


 何かを言いながら、大振りでバシンバシンと。


 そこだけはずっと消えない記憶として残っています。

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