梅の恋

美和子

第1話 邂逅 その一

「もう少し‥‥あとちょっと‥‥ 」

 お梅は小さな手を枝を這う木通あけびの蔓の先へと伸ばす。

 それと共に彼女を支える木の枝がぎしりとたわむ。

「お梅様、危ないよー もう諦めなよ」

 ここまで道案内をしてきた村の子供達が心配げに

彼女を見守っている。

 それもそのはず、お梅が登っている木は切り立った

崖の際に生え、崖の下には急流の川が轟々と音を立てて

山の麓を目掛け流れ落ちていた。


 同じ頃、ちょうどその崖の反対側を二人の修験者風の

出立をした男達が山を越えようと峠道を歩いていた。

 ふと片方の年若い男の方が足を止め、川向こうを

仰ぎ見た。

「若、如何なさいました?」

もう一人の年嵩の男が同じ様に足を止めて、若い男に

問いかける。

「若と呼ぶな、源平。」

 若い男が微かに苛立ちを見せて、年嵩の男を睨む。

しかし直ぐに視線をまた川向かいに戻し、呟くように

源平に問う。

「のう源平、九度山のましろはあの様な愛らしい出立を

しておるものか?」

 問われた源平は何の事かと、主人の視線の先を追った

その刹那、若い男が急に川に向かって走り出した。




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