第8話 林家パーティー2日目

前書き

琴音と望月の部屋(リーダーたちと会議をしている部屋)を、「会議室」と名付けました。把握よろしくお願いします。

_____________________________________________


翌朝、制服を着た琴音ことねが仕事場に顔を出した。


奏多かなたさんいますか?」


山本やまもとと一緒に発信機のモニターを見ていた望月もちづきは返事をし、琴音のいる扉の方へ向かう。

琴音は望月を仕事場の外へ誘導し、扉を閉めた。


「今日は学校があるので、あとのことを頼みます」


望月は琴音の真剣な目を見て頷く。


「何かありましたら、連絡をください」


望月はもう一度頷く。


「…今日は大きな動きは無いと考えています。当日…明日の詳細も、林家に潜入している森川もりかわさんが戻ってきたら、話し合います」

「了解」


それから琴音は、真剣な表情のまま


「では、いってきます」


と言って望月に背を向け、歩き始めた。


「琴音さん。いってらっしゃい」


望月の声掛けに立ち止まり、そして振り返った。


「はい、いってきます!」


今度は満面の笑みで応えて、軽い足取りで桜花おうかのビルをあとにした。


______________________________________________


4限目の授業が終わった後の昼休み。購買で買ったパンを自席で黙々と食べていると、弘人ひろとがお弁当を持って琴音の前の席に座った。椅子を動かし、琴音の方を向くと、お弁当を琴音の机の上に置く。


「今日は弁当じゃねぇんだ?」

「うん、寝坊しちゃって」


ふーんと言いながら、弘人はお弁当のフタを開ける。


「だから今朝、家から出てこなかったんだ」

「うん…ごめんね、待たせちゃったよね」

「いや大丈夫」


琴音は、弘人の色とりどりなお弁当を覗いた。卵焼きやウィンナー、ミニトマト、ピーマンとベーコンの炒め物、鶏肉、そして


「もしかしてのり弁?」


弘人が嬉しそうに笑う。


「そー!しかもおかか入り!俺の大好物!!」


幼い子供のようにはしゃぐ弘人を見て、琴音は思わず微笑んだ。

今朝の望月といい今の弘人といい、ちょっぴり温かくて何気ない平和な出来事に、琴音の、緊張で張り詰めた心が癒されていく。


「弘人のお父さん、すごいね。毎日お弁当を作るのって大変だよ?」


ああ、と弘人は少し落ち着いた様子で目を細めた。


「俺、一人息子だしな。母親がいない分を埋めようとしてくれてるんだよ」


なんとなく、しんみりとした空気が2人を包む。

ちょうどその時、琴音のスマホが震えた。見ると、望月からのメールだった。


『明日の取り引きを行う場所がわかりました。パーティー会場から少し離れた場所にある、第三応接室です。時間は、22時です。』


一気に現実に引き戻された。


「…弘人、今日も一緒に帰れそうにない。それと、明日学校お休みするかも」


弘人の顔が険しくなる。


「体調、悪いのか…?」

「ううん、ちょっと朝から用事があるの」

「用事って…」


弘人の声を遮るように、昼休み終了のチャイムが鳴る。


「次、教室移動だよね、行こっか」


琴音は逃げるように席を立った。


「あ、あぁ……」


______________________________________________


日が暮れて、森川もビルに戻ってきていた。


「ただ今戻りましたぁ…遅くなって申し訳ないです」


琴音は会議室に荷物を置いて、みんながいる仕事場に入った。


「おかえりなさい、琴音さん。気にしなくて大丈夫ですよ」


望月は素早くお茶を入れ、琴音に渡す。琴音はそれを受け取り、全体を見渡した。


「今、どんな感じですか?」

「はい。メールでもお伝えしましたが、拳銃の受け渡しが明日の22時に第三応接室で行われることがわかりました。それから、事務課が近隣住民への聞き込みを行ったところ、毎年パーティーの日に不振な車が路上駐車をしているという話を聞いたので、奴らは車で会場まで行く可能性が高いです。それと、潜入していた森川が、屋敷の間取りとパーティーのタイムテーブルを入手してきました」

「わかりました。では、明日の詳細を話し合いましょう」



会議室にリーダーたち4人と、琴音、望月が集まった。


「明日の詳細について作戦会議をします。まず、パーティー会場に行くのは、当初の予定通り、潜入隊数名と私で異論はないですか」

「問題ないと思います。私も、会場に入りますね」


峰崎みねざきはそう言って、森川が持ち帰った間取りとタイムテーブルを手に取る。


「了解です。次に、例の組織が車で会場に行く可能性のことですが、逃げられてしまった時のために突入隊と奏多さんに外で待機して頂いてもいいですか?」

「了解しました!!」


島本しまもとは、紙を1枚取り出し、屋敷の外の構図を作り始めた。そこに望月も加わる。

峰崎は先程から、タイムテーブルと間取りを使って、潜入のシュミレーションを行っている。


そんなリーダーたちの頼もしさに琴音は胸をなでおろした。半年ぶりの現場だが、この桜花のメンバーとなら上手くいく気がしていた。


「武器の手配と車の手配をしておきます。島本、車の台数が決まったら言ってくれ」

怪人かいとさん、ありがとうございます」


「私たちは、モニターの監視を最後まで続けますね」

ゆきさん、よろしくお願いします」


当日の動きが決まった。情報も集まっている。あとは明日、ミスなく事が進めばよい。


「みなさん、本当にお疲れ様です。各々の事が終わったら、もう今日は休んでください。明日、全力で仕事をしましょう!」

「はい!」


こうして例の組織との初めての対峙前、最後の会議が終わった。


(大丈夫。きっとやれるよ。だって私、変わったんだもん。)




会議室をあとにする琴音たちの背中を、月明かりが静かに照らしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る