2章

第5話 林家パーティー 1日目①

青い顔をした事務課の部下が、リーダーの緑川みどりかわのところへ駆け込んできた。


「緑川さんっ大変です!」


部下は息を切らし、メモを見せた。


「『ダイ、ルリ、林家のパーティーに出席』…何?これ…」


「先代No.2の亜由美あゆみさんによって書かれたであろうメモです。ここに書かれているダイとルリは、琴音ことねさん曰く、例の組織のメンバーだとか…」


事務課のブースが一気に静まり返る。


「……それで、琴音ちゃんは、何て…?」

「ダイとルリ、林家について調べるようにと仰っていました」

「わかったわ」


緑川は立ち上がって、事務課のメンバーに向けて言った。


「今の話、聞いていたわね?今、過去の資料を整理していた人達は、その資料の中にダイとルリについての情報がないか探して。残った人達は林家について調べること!」

「はい!」


その指令を聞き、事務課の者たちは各々の担当につく。緑川も着席し、パソコンの電源を入れた。急な展開に気持ちが追いつかず、指先が震える。変に緊張して、背筋も伸びていた。


「林家のパーティー…ね」


ブラウザの検索ホームに文字を打ち込み、カタンッとEnterキーを押した。画面が切り替わって検索結果が一覧になって出てくる。


「あ、あった」


1番上に、


『林家ホームページ』


と書かれたサイトを見つけた。


「ホームページとか作っちゃうんだ…」


お金持ちのすることはわからないなぁと思いながら、カーソルを合わせ、サイトを開く。

本当に今年のパーティーにダイとルリが参加するのか、どう調べたら手がかりが掴めるのか検討もつかず、どうしたものかと頭を抱えていると、部下の1人がプリントを持ってやってきた。


「林家のパーティーの参加予定者の名簿を見つけました」


プリントには、大量の氏名が載っていた。


「さすがね。でも…」


緑川は一通り目を通し、呟く。


「コードネームで登録はしないよね」

「そのようです…」


名簿を持ってきた部下は落胆する。


「その名簿、保存しておいてくれる?いずれ何かに使えるかもしれないし」

「わかりました」


そう言って部下は立ち去った。

緑川は再びパソコンの画面に目を移し、記事を読んだ。


「へぇ…林家って貿易会社を持っているのね」


取引会社一覧を開くと、いくつかの会社名が出てきた。それを一つ一つ読んでいくと、1社、見覚えのある名前を見つけた。


「あれ…この会社って確か…」


記憶を辿る。あれは3ヶ月ほど前のこと。この会社に、桜花の潜入隊が潜り込んでいた。その目的は確か…


「拳銃…」


緑川は、ハッと目を見開く。突然彼女の頭の中に1つの仮説が立った。それから、近くのデスクの部下たちに指示を出した。


「ねぇ、林家とフクダ商の関係について、詳しく調べてくれない?」

「フクダ商、ですか?」


聞き慣れない言葉に、彼らは首を傾げる。


「そう、3ヶ月前に潜入隊が送り込まれた貿易会社よ。林家の取引先リストに載っていたの。急いで」

「は、はい」


3ヶ月前、海外から拳銃を密輸している疑いのある貿易会社を、リストアップしたことがある。リストアップされた会社に、潜入隊が入り、確信が持てる会社を2.3社特定した。その中にフクダ商もあったのだ。


「緑川さん」


過去の資料から、ダイとルリについての情報を探していた女の部下が、緑川のデスクにやってきた。


「どうやら、例の組織の人物と思わしき者が、毎年林家のパーティーを出入りしているようです」


理由はわかりませんが、と彼女は自信なさげに言う。


「ありがとう、有力な情報だわ。引き続きお願い」


なぜ、毎年パーティーを出入りしているのか。それがわかれば、今年も彼らが参加するのかどうかがわかるかもしれない。

優秀な部下たちだと、緑川は誇らしげにメンバーを見渡していた。

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