1月3週目 前編

千咲の誕生日が間近に迫っていることを知った俺は、またも西野に連絡を取り居酒屋に集まっていた。




「いくら森田さんの誕生日が近いからって焦りすぎとちゃうか?」




「そんなわけあるか。もうあと5日しかないんだぞ……」




「5日か。ていうことは土曜日か?」




「ああ。だから平日のうちにプレゼントとかは準備しておかないといけない」




「ふーん。だからあんなに焦って連絡してきたわけや」




「ま、まあな……」


そう答えるとニヤニヤしながらこちらを見てくる西野と目が合う。


「おい……なんでにやけてんだ……」




「いやー、森田さんは愛されてるなーと思ってな」




「おい……俺は真剣なんだが」




「そう怒るなって。で、今日はプレゼントの相談ってことでいいのか?」




「ああ。なにが喜んでもらえるのかさっぱり分からん……」




「ん?でもお前クリスマスは自分で選んだんだよな?」




「まあ……そうだな」




「何を渡したんだ?」




「アロマランプだ」




そう答えると、西野が一瞬固まる。なにかまずいものを渡したのかと心配したが杞憂だったようで


「……意外に洒落たもの渡してて驚いた」


となんだか失礼なことを言ってきた。




「なんだそれは。俺のことなんだと思ってるんだ……」




「そういうことには疎いと思ってたぞ……」




「いや、まあ。それは事実ではあるんだが……」




「ま、そういうことなら話は早い。前回と同じように探せば問題ないと思うぞ、候補とかあるのか?」




「それが……」




「なんだよ?」




「なにを贈ればいいのかさっぱりなんだ」




「はぁ!?」




「いや……いくつか候補は出したんだがどれがいのか考えていたらどれも微妙に見えてきて……」




「なるほどな。まあ気持ちは分からんでもない……がそれにしても深く考えすぎだ。もっと気楽に考えたらいい」




「気楽にって言われたってどうすればいいんだよ?」




「言ってしまえば、お前が森田さんにあげたいものをあげたらいいんだよ」




「いや、それじゃあ多分微妙な顔されると思うぞ。俺センスないし……」




「そう言うなって!とりあえず考えてたものを言ってくれ。そこから俺が客観的な立場として微妙かどうか言うからさ」




「そうか……それはありがたい。候補しては、タオルとハンドクリームのセット、フラワリウム、あとは有名店のチョコレート辺りで考えているんだがどうだ?」




「おお!いいんじゃないか!あんなこと言うからもっと反応に困るものだと思ったぞ」




俺はそう言われてホッと一安心するが、どうにも腑に落ちない。


「おおむね好評で安心したよ……安心したがなんだが、いまいちどれもピンと来なくてな……別方向のプレゼントとかないか?」




「うーん。モノ以外だろ?そうなると難しいな……」




「そうだよなぁ……」


二人して考え込む。




そうしてしばらくすると、西野が何かを思いついたように手をたたく


「分かったかもしれない!」




「なんだよ?」




「お前、年末の温泉旅行は楽しかったか?」




「そりゃあな」




「それだよ!それをプレゼントしたらいいじゃないか?」




「どういうことだ?」


いまいち西野の言っていることが分からず、聞き返す。




「だから、デートをプレゼントするのはどうだ?」




その言葉を聞き、いままで心にあったモヤモヤが溶けていく感覚がする。


「それだ!」




「解決したみたいやな。よかったよかった。それで、どこにするかも問題やな」




「そうだよなぁ……どうしたものか」




どこにすべきか悩んでいると


「よし!それじゃあちょっと探りを入れてみるか」


西野がそう言いスマホを取り出す。




「どうしたんだよ急に?」




「まあ、ちょとまっててな……」


スマホを操作する西野を横目でみながらお酒をチビチビ飲んでいると


「お!森田さんは生き物とかが好きみたいやな」


そんなことを言われてその意味にハッと気が付く。




「お前もしかして……」




「ああ。彼女からの情報やから信憑性は高いと思うで」




「毎度すまない。助かるよ」




「気にすんなって。おごってもらってる分は働くよ」




「それにしても、生き物か……それなら最近できた水族館がよさそうだな」




「あー、あそこかー。冬季限定でライトアップとかしてるみたいやしいいんじゃないか?」




「そうだな。そうと決まればすぐにチケットを予約しなくては……」


そうして水族館のホームページを見ると、ギフト用のペアチケットがあるようで、俺はそれを飛びつくようにして購入するのだった。

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