1月2週目 前編

千咲への気持ちを自覚してしまった俺は、変に意識してしまい距離感を図り損ねていた。




今まで何の気もなくしていた行動一つ一つに妙な気恥ずかしさを感じてしまい、避けるような行動をとってしまっていた。


そんな行動をするたびに、千咲からお怒りのメッセージが送られてくる……そんな毎日を送っていた。




こんな状態では告白どころではないと感じた俺は、解決のため数少ないこの状況を知っている人物に連絡をするのだった。




☆☆☆




「いやー!思ったよりも早かったなぁ!」


ガハハと笑いながら俺の横でジョッキを片手に座るのは、西野である。




千咲について相談しようと事情を説明したところでこの有様である。




「おい……こっちは真剣なんだが……あまりふざけてるとここの驕りなしにするぞ……」


西野の態度に思わず怒気があふれてしまう。




「それは勘弁!ついついからかいたくなってもてな」




「はぁ……今回は許してやる。それは置いておいてだ……俺はどうしたらいいと思う?」




「まあ、落ち着けよ。高杉が解決したいのは、森田さんと今までみたいに接したいってことででいいんやんな?」




「ああ。会話をしていても恥ずかしくなって目線をそらしてしまう……」




「はぁ……まさかこんな年になってこんな中学生みたいな相談されるとは思わんかったわ」


あきれた様子でため息をつく西野。




「失礼な!俺は真剣にだな……」


その邪険な扱いに抗議しようと声を上げるも西野に遮られてしまう。




「わかったわかった。お前が森田さんのことを真剣に思ってるのはわかったから」


そう言い手をヒラヒラとさせる。




扱いが完全に見下されていることに憤りを覚えたが、話を進めるためにグッと堪える。


「で、どうなんだ?そんなこと言うからには目が合っても照れない方法があるんだろうな!」




「うーん。まさかそんな段階からだとは思ってなかったからなー」


それに続く言葉を固唾をのんで待つ。


「……正直そんなもん知らん!」




その言葉を聞いた瞬間、俺はとっさに西野のシャツを掴むと前後に揺さぶっていた。


「ちょ、ちょっとやめ……」


苦しそうな西野の言葉を聞き我に返る。




「ああ、すまん。咄嗟に……」




「咄嗟にってなんや咄嗟にって!」


するどいツッコミを入れながら


「ていうか、目が合うだけで恥ずかしがるような人間が告白なんてできるんかいな」


痛いところを突いてくる。




まさかのカウンターにうまく返答できないでいるとこれを好機だと感じたのかさらに口撃してくる。


「ま、お前がそうやって目も合わせられないとか言ってグズグズしているうちに森田さんが別の男のところに行ってまうかもしれんがなー」




その発言を聞いた瞬間


「それはダメだ!」


自分でも驚くほど大きな声が出ていた。そのためか、周りにいたお客さんがチラチラとこちらの様子を窺うように見てくる。


カーッと恥ずかしさから顔が真っ赤になったことを感じながらうつむく。




「高杉がそんな大声出すなんて珍しいな……ま、それだけ真面目に考えてるってことか」


そう言うとガシッと肩を組んでくる。




「うるせ……変なフォローするんじゃねぇ」


組んできた腕を払いのけながら返事する。




「まあでも真面目な話、会話もうまくできないなんて結構な重症だぞ」




「そんなことわかってるよ……だから相談してるんじゃねぇか……」




「こんな状態のお前はなかなかお目にかかれないから放っておいても面白いんだがなぁ……」




「おい……心の声が漏れてるぞ……」




「ああ、すまんすまん!うーんでもなぁ……正直俺はそんな状態になったことがないからなぁ……」




「お前に期待した俺がバカだったよ……」




失望を包み隠すことなく露わにすると西野が慌てた様子になる。


「そんな落ち込むなって!俺が今の彼女と付き合う前にしたデートコースとか教えてやるからさ!」




「本当か!?さすが西野様……」


ガバッと顔を上げ西野を崇める。


それと同時にあることに気がつく。




「お前彼女いたのか……?」




「なに驚いた顔してんねん。言ってなかったか?」




「言われた記憶なんてないぞ……」




「そうか、言ってなかったか。あ!大事なこと言い忘れてた!」


手を叩きなにかを思い出したような仕草をする西野。




「なんだよ……?」


今までの流れからして良くない事だろうとジト目で睨みつける。




「いやー。俺の彼女が森田さんと知り合いみたいでさ、千咲の事よろしくお願いしますって」




「はぁ?なんだそれ?」




「ま、でもこれはいい事なんじゃないか?彼女経由で森田さんの好みとか聞いてみてもいいんだぞ」




その魅力的な提案に思わず


「た、頼む!」


と西野の手をとり両手で握手する。




「ほんま、森田さんのこととなると必死やなぁ……仕方ない、俺の方からそれとなく聞いといてやるよ!」




「本当か!ありがとう!」




「ああ、なにかわかったらすぐに連絡してやるよ」




「恩にきる!」




「じゃあ、前払いとしてこの酒頼んでもいいか?」


そう言って指差してきたのは、少しお高めの日本酒。




「そんなんで足りるならじゃんじゃん飲んでくれ!」




すっかり我を忘れてしまった俺は


「もういいもういい!」


と西野が止めるまで注文し続けるのだった。

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