12月2週目 中編

まずいまずいまずい……


現在の時刻は14時。完全に遅刻である。




延々と通知の来るスマホに恐る恐る目をやると


『先輩。今どこですかー?』




『私もう集合場所で待ってますねー』




『あのー……もう時間なんですけど……』




『せんぱーい!遅刻ですかー!?』


そう最後に送られてきてからは電話の嵐である。




電話に出ていてはさらに遅れてしまうと判断し、しばらく無視していたがこれ以上放っておいたら後がどうなるか分かったものではないので電話に出る。




「……はい」


すると、耳をつんざくような大声がスピーカーら発される。


「せんぱい!!!今どこですか!電話にも全然出てくれませんし……どうしちゃったんですか?」




そう聞かれてしまうと正直に答えるか迷ってしまう。


「あー。いや……なんといいますか」




俺が言い淀んでいると千咲が確信を着く質問をしてくる。


「え……?もしかして、まだ家とか言いませんよね?」




「ま、まさかー。そ、そんなわけないだろ……」


これには俺も返答に窮してしまい、だれが見てもすぐにわかる苦しい返答になってしまった。




「ですよねー。あんなに仕事で頼りになる先輩がそんな初歩的なミス犯すはずがありませんもんね!……で、今どこなんですか?」




こわいこわい……これ以上の誤魔化しは逆効果だと思った俺は正直に白状する。


「……す、すまん。まだ家だ……本当に申し訳ない……」




「「…………」」


気まずい沈黙が流れる。




すると、そんな沈黙にしびれを切らしたのか千咲が口を開く。


「はぁ……そんなところだろうと思ってましたよ。じゃ、駅前で待ってますんでできるだけ早く来てくださいねっ!!」




「ああ……この埋め合わせは必ず……」




ブツッ。言い切る前に電話が切れる




これは相当怒ってるな……機嫌を直してもらうには……仕方がない……本当に不本意だが、こんな時に頼れるのはあいつしかいない。


俺はそう考え、とある知り合いに連絡するのだった。




☆☆☆




あれから急いで準備をし終えた俺は全力で駅へと向かう




「はぁっ……はぁっ……」


息を切らしながらなんとか集合場所に着くもあたりを見回しても千咲の姿はない。




「ど、どこにいる……?」


きょろきょろと探していると突如視界がふさがれる。誰の仕業か一目瞭然だが、相手の今の感情が分からない以上下手な行動はできない。




「……」


しばらくその状態で何も言わずにいると




「遅かったですね!先輩!!」


と雑に手を取り払われる。




そしていつのまにか目の前に現れた千咲は、白のワンピースとデニムジャケットという王道の格好をしていて不覚にも見とれてしまっていた。




しかし、そんな俺の心情はつゆ知らず


「ちょっと先輩!私の言ってることきいてるんですか!?」


と腰に手を当て怒った様子で言ってくる。




「いや、本当に面目ない……まさか寝坊してしまうとは……」




「本当ですよ!せっかくのお出かけなのにこんなのありえないです!」


ぷんぷんと怒る千咲




「返す言葉もございません……埋め合わせはさせていただきますのでお許しいただけませんか?」


とかなりの低姿勢で頼むとさすがに答えにつまったようで




「ま、まぁ?先輩にはお仕事でもお世話になってますし今回はこれくらいで許しておいてあげます!とは言っても、埋め合わせはお願いしますよ!」




「はい。お任せください……」




「そうですか!それじゃあお任せします!ではこの話はここまでにしてそろそろ向かいましょう!」


そう言い駅に向かって歩き出していくのだった。




電車に揺られること約10分。


向かったのは全国チェーンの家具店。




あらかた買うものは決まっているので不要な寄り道はせず机コーナーに向かう。




「おっ。ここみたいだな」




「そうですね!先輩どうですか?買おうと考えていたものありました?」




「うーん……まったく同じものってのはなさそうだな。似ているものならいくつかあるみたいだが……」




そんなことを言いながら机コーナーをああでもないこうでもないと言いながら、見ているとお店の店員さんが話しかけてきた。




「いらっしゃいませ。どういったものをお探しでしょうか?」




その質問に千咲が嬉々として答える。


「二人で使えるサイズのローテーブルを探しに来ました!今使っているものが少し小さくて」




「なるほどー。それで彼女さんとお買い物ですか?いいですねー!」




そう言って微笑んでくる店員さんの発言をすぐさま


「いや、彼女ではないんでしけど……」


否定しようとするが


「そうなんですー。久しぶりのデートで!」


と俺よりも素早く大きな声で千咲が肯定してきた。




俺はギョッとして千咲を見るが、当の本人は俺の視線などお構いなしに店員さんと話を続ける


「それでちょうどいいサイズのものを探しにきたんですけど」




「大きさはどれくらいがご希望ですか?」




「120センチ×50センチ以内で考えてます!」




「120×50ですね。それでしたらこちらの商品などいかがでしょう?」




そう言って店員さんが指さしてきたのは金属製の脚と木製の天板をした机だった。




「おー。シンプルでいい感じですね!どうですか先輩、店員さんおすすめのこれにしませんか?」




「確かにそうだな……うむ。サイズ感も価格もちょうど良さそうだ」




「ですね!じゃあこれにしましょう!」




「ああ、そうだな。それじゃあ、この机ください」




「はい。かしこまりました。ありがとうございます。こちらの商品はご自身でもって帰られますか?宅配も可能ですが」




「あー。徒歩来たので宅配でお願いします」




「かしこまりました。では、明日中にお届けさせていただきますので到着までしばらくお待ちください」




「了解しました。よろしくお願いします」




一通り手続きと支払いを終え店を後にする。




「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております」


見送られながら店を後にする。




「いいもの買えてよかったですねー!」




「ああ、そうだな。これでかなり置きやすくなるだろうな」




「ですねー。ていうか、私が言い出したのにお金まで払っていただいてすみません」




「気にするな。俺自身も使いづらく感じてたんだからちょうどいいんだよ。それにほとんど使うことないからこういうところで使わないとな……」


とそんなことを言いながら自分の発言に落ち込んでいると




プルルルルルル……




突如スマホが振動する。




「すまん、ちょっと出るな」


千咲に一声かけ電話に出る。




着信相手は”斎藤美月さいとうみつき”俺の大学時代の先輩である。




いまだに連絡をたまに取りあう俺の数少ない大学時代の知り合いであり、大学時代にもお世話になった先輩でもある。




美月先輩の詳しい話は置いておくが、今回はこの先輩に力を貸していただいた。




「あ!もしもしー?あんたがさっきよこせって言ってきたお店の予約、なんとかねじ込んどいたから」


その言葉を聞きほっと胸をなでおろす。




「ほんとですか。すみません無茶言って。ありがとうございます」




「あんたがいきなり電話かけてきたときは何事かと思ったけどそれならよかったわ」




「ほんと助かりました。持つべきものは実家がお金持ちの先輩ですね」




「ちゃかすな!ていうか、これ貸し一つだからね。ま、誰と行くか知らないけど楽しんできなよ」




「はい。貸りの件はまたこっちから連絡しますので。それでは」




「はいはい。じゃあね」




ツーツーツー




そう言い残し電話が切れる。




スマホから耳を話すと千咲が話しかけてくる




「電話の相手誰です?お仕事の連絡ですか?」




「あ、いや。知り合いからちょっとな……それより、いきなりなんだが今夜時間あるか?」




「ええ。まあ大丈夫ですけど……どうしたんですか?藪から棒に」




「それならよかった。それでいきなりなんだが、遅刻の埋め合わせとして今晩のご飯ごちそうさせてくれないか?」




「なるほど!それならいいですよ!ちなみに何時からですか?」


そう言われて時計を見ると時刻は16時。




予約の時刻は19時なのでしばらく時間があるなどこかで時間を潰すか……とそんなことをのんきに考えていると、ふとあることに気が付く。


あれ?今日行くところってドレスコードとかあったりしないよな……?それなりに敷居の高い店だったような……。


不安になり調べると嫌な予想は的中。どうやらしっかりドレスコードのあるお店のようだった。




遅刻したことで慌てており、ドレスコードを考慮した服装をしていないことに気が付くと


「すまん千咲。一度帰ってもいいか?」


両手を合わせ頼む。




「え、どうしたんですか急に?いいですけど、なにかありました……?」




「ああ。どうやら今夜行くところはドレスコードがあるみたいでな」




「ええっ!そんなの聞いてませんよ!それなら私も着替えたいので一緒に帰りましょう!」




「そうだな。予約は19時だから、少し時間がない。申し訳ないが18時半にマンションの前に集合で頼む」




「了解です!今度は遅れないでくださいよ!先輩」




「当たり前だ……と強く言えないのがつらい」


そんなことを話しながら急ぎ足で自宅へと戻るのだった。

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