カクヨムに書く小説。

@yookis

カクヨムに書く小説。

ここは亞堕あだ地区の亞良あら川土手……だった筈だ。

何故、それなのに自分はこんな所に居るのだろう。


そうだ、あの人は、あの人は何処だ?

自分はあの人と一緒だった筈。


あの人を探さなければ。


そう思い、私は周りを見回す。

確かにここは川の様だ。

しかし、とてもではないが亞良川には見えない。

亞良川にしては砂利が多すぎる。


川沿いを歩くと、向こう岸には子供が何人も見えた。

それらの子供は、ほぼ例外なく河原の砂利を使った石積み遊びをしている様に見える。


しばらく歩いた辺りで、小さな小屋が見えた。

見ると、「渡し船」と書かれたのぼりが立っている。


もしかしたら、あの人は船に乗って先に行ってしまったのかもしれない。

かなり自分勝手な人だからな、と私は思った。


小屋に入ると、しわがれた声が聞こえた。


「毎度、乗るなら渡し賃は六文だよ。」


その声のした方向を見ると、眼光の鋭いぼろぼろの長衣に身を包んだ老人が立っていた。


「ろく……もん?」


私は老人の言葉を繰り返す。


「銭だよ銭。ああ、最近の奴らは六文も持っていないのか。」


老人は吐き捨てる様に言った。


「そうだ! お爺さん、私、人を探しているのです。」


「人ぉ? ここには毎日毎日沢山の人間がやって来る。何千、何万もだ。そんなのをいちいち覚えていられやしない。」


私は落胆して小屋を出た。


どうしようとは思うものの、私は川沿いを歩くことにした。

すると、しばらくの後に洞窟が見つかった。

周囲を見回すも、他に何があるでもない。


もしかしたら、あの人はここで休んでいるのかも。

そう思い、私は洞窟に入ってみることにした。


しばらく歩くと、先に明かりが見えた。

私はまるで蛾の様にふらふらとそこに吸い寄せられた。


明かりの発生源は、大量の蝋燭だった。


「え……何、これ。」


私はその内の一本に目を止めた。


その蝋燭には名前が書いてあった。

そうあの人の名前が。


「これは、一体……。」


私は蝋燭に見入っていた。


胸騒ぎがする。

只事では無い。

そんな気がした。


どれくらい経った頃か、


「ああ、そいつをお探しなのかぃ?」


後ろからしわがれた声が聞こえた。

振り向くと、さっきの老人が立っていた。


「え……あ、はい。」


呆気に取られた私は、それこそ呆けた様な返事をしていた。


「そいつはなぁ、作家だったんだよなあ。ただなぁ、何人もの女を誑かしては、ここに連れて来た。」


「ここに?」


「ああ、そうだ、ここにだ。しかし、いい加減やり過ぎたんだな。」


「やり過ぎた?」


「これは、寿命を表す蝋燭さ。そして、そいつの物が消えている。後は分かるだろう?」


その言葉を聞いて、私は自身の蝋燭が気になり、蝋燭を見回した。

そして、私の蝋燭の火は……




ーーい!


……音が聞こえる。


こーーーい!


……何の音だろう。


どすこーーーい!


どすこーーーい! どすこーーーい!




気が付くと、私はお餅に包まれて……違う。

これは……何……柔らかい……でも、お餅じゃない……これは?


「おお、気が付いたでごわす。」


「良かったでごわす。」


はっきりとした声が聞こえ、目を開けてみると、そこには大巨漢。


見ると、お相撲さんが一、二、三、四、五……二十人。


「お嬢さんが川に飛び込んだ所に、ちょうど我々が来て良かったでごわす。」


「川に……?」


そうだった、段々と、思い出して来た。

私は、あの人と。

あの人と。


入水自殺したのだった。


「そう、あの人は、あの人はどこですか?」


その言葉を聞いたお相撲さんが暗い顔になったのを私は見逃さなかった。


「そう……なんですね。」


「男の方はお陀仏になっていたので、波の花で清めて弔ったでごわす。」


お相撲さんが指差した方向には、あの人の大量の塩が撒かれたあの人の死骸が転がっていた。


「あの人と、本当は……霊河たまがわ上水に飛び込もうと言う話をしていたのです。」


誰に聞いてもらうでもなく、私は語り始めた。


「でも、昨日は大雨だったでしょう。」


お相撲さん達は私の言葉を噛み締める様に聞いている。


六三四野むさしのの方よりも亞堕地区の方が水位が高くなっているだろう、ってあの人が言って、こちらに変えたんです。」


ああ、私は生きているんだ。

気が付けば、私の中に悲しいと言う感情は無くなっていた。


「私は、角界の方々に、黄泉の世界から救って頂いたんですね。」


「神事を司る角界は黄泉と表裏一体でごわす。」


角……黄泉……カク……ヨミ……カクヨム。


お後がよろしいようで。

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