第20話 俺が倒したのか剣が倒したのか、それが問題だ
俺は何をしているんだろう。
ちょっと前まで幽霊が見えると自称する痛い高校生として現世を生きていたはずだ。なのにどういうわけか、俺はまるでコミックの世界のような奴らとばかりつるんで、あまつさえ共に戦っている。まったくもってどうかしているとしか思えない。
ちなみに今の俺の姿を教えてやろうか?かのハルクのような筋骨隆々で短パン姿の狂人だ。笑えるな。いや、笑うな。
「なんだコイツら!?面白人間が過ぎるだろ!」
「そんなに捲し立てたら舌を噛んじゃうぜ全力少年!」
俺は飛んで跳ねて逃げ回る魔法人間のうちの一人を追いかけながらブルートに文句を言った。あいつら安直に炎とか氷とかの能力かと思っていたのに全然違った。
フードの後ろに1号の文字が入った時空間移動できるやつ、そして次に俺とダンゲルが戦っている2号と書かれた身体を伸ばしたり固くしたりできるやつ、さらに3号のいろんな魔物?とかいうのに変身できるやつ、4号の魔法陣を作って殴ったり飛ばしたりするやつ、5号の指や目、胸から破壊光線を放つやつなど、サーカス団もびっくりの玩具箱だ。
そうだ、市民のことなら心配は無用。彼等は俺達が奴等と戦うと分かった途端、急ぎ足で急いでエレベーターの中へと入って逃げていった。(ちなみに「我が市民達は思慮深いな」などとダンゲルは満足げに言っていたが)なぜ彼等がこのように冷静に対処出来たのか疑問だが、今の俺達には都合がいい。これで少しは集中して戦える。
1号と5号がブルートとルミールに襲いかかった。
ブルートは銃身が俺の腕と同じ太さのリボルバーを1号に向けて撃つが、予期していたかのように瞬間移動で避けられてしまう。
ルミールは移動先の1号を迎え撃つべく、左腕を変形させ、しなやかに唸る鋼鉄の刃の鞭を這わせる。だがすんでの所でまたもや瞬間移動で躱されてしまった。
5号は目から両指から光の弾を放つ。
拳銃を模した指の形で撃ちまくり、ブルートとルミールはアクロバティックな動作で飛んで回避する。
「すばしっこくていやね」
「ああまったくだ。しかも指から花火を出す手品野郎までいると来たもんだ。おい!他には無いのか?もっと面白いモン見せてくれよ!退屈で死にそうだ!」
「……」
「……」
1号は黙ったままルミールは観察するように見る。フードの下から見えたその瞳は焦点が合っていない薬物中毒者のような目だった。5号もまたそうだった。
「まったく、俺の街にも似たような薬中見たことあるぜ。気味が悪ぃな」
「ホント、うんざりするわ」
ブルートは右手でサングラスを外し、1号を見据える。瞳は監視カメラのレンズのような黒い光沢の中に機械があり、人間の眼球ではなかった。
「あと少し戦闘データが必要だ。ルミール、もうちっとだけ奴の相手をしてくれ」
「ダーリンの頼みは断れないわ」
ブルートの頼みを受け、ルミールは再び、1号の前に立ちはだかる。
「アナタには特別に、色んなわたしを見せてあげるわ」
左手に再び金属の鞭を、右手には両刃の剣、そして両足にはロケット噴射の火と煙が噴き出した。
「逃げられるものなら逃げてみなさい」
ルミールはメタリックな口元を三日月の如く鋭利に尖らせて笑った。
「うわっ!何こいつ!私並みに魔法が使えるじゃないのよ!」
一方、メアリーは魔法使いの4号と対峙していた。4号は両の手の魔法陣からカラフルな飛翔体を出し、メアリーに当てようとグミ撃ちするかのようにけたたましく放っていた。
「リフレクト・ラブ!」
メアリーが異能力系バトルマンガのような名前で叫ぶと、紫色の膜が彼女を覆う。俺だったら恥ずかしくて言おうなんて思えないが、彼女は堂々と言い放っていた。良いメンタルだ。見習いたくはないが。
なんて考えていると4号の放ったエネルギー弾は吸い込まれるように消えた。
「お返しよ。半沢直樹!」
今度はなんとメアリーの右手から4号の放ったエネルギー弾を繰り出した。しかも奴のよりもずっと巨大で光度の高い代物だった。カウンター系の技だろうか。名前以外は完璧な魔法だ。本当に。名前以外は。
4号は想定外だったのか、慌てて両手の魔法陣を大きくしてガードしようとした。だが間に合いそうにない。これが決まれば1人敗退が決定する。
「あっ!」
しかし、そこに何者かが割って入った。ゴ、ゴリラだ。ゴリッゴリのゴリラだ。全身の毛の色は黄金色だったが、ゴリラが間に入って4号を守った。そうか、3号か。3号が変身して攻撃を食い止めたのか。
「クソ、4対5か。少しキツいな」
俺は内心苦戦していることを吐露した。こっちは5人いるが戦える奴は4人。もう1人は非戦闘員。そして向こうは5人。しかも全員特殊能力持ち。さらに打ち上げを阻止するためにもう1人必要だ。このままじゃ時間切れになってしまう。もう1人戦力が増やせれば……
「ミエイさん!少し早いけど、報酬を渡すわね!」
その時モランが俺に対して何か言った。なんだ?何をするつもりだ?
俺はモランに対してクエスチョンマークを頭に浮かべた時、モランは右の人差し指で天を指した。
俺は空を見上げると、ある飛翔体に気づいた。しかもそれは俺達の元に向かってきている。お、俺だ!俺の元に向かってきている。このままだとミンチになる!
「うわああああ!?」
俺は身体の制御権をダンゲルから無理やり奪い返し、その場を飛んで回避した。飛翔体は俺のいたすぐそばに着陸し、ガパリと空き、液体窒素のような煙と共に白い人型の人形が出てきた。
「その中にダンゲルさんを入れちゃって!最新型よ!必ず成功するから!」
モランの言葉を聞いた俺は人形の元に近づいた。だがどうすればこの中にダンゲルを入れればいいか分からない。そもそも俺は幽霊を人形に入れた経験なんかない。勝手に入ってくれれば良いのだが。
「なぁ、どうだダンゲル、入れそうか?」
「ああ、なんとなくこの人形が入れ入れと催促している気がするぞ」
俺とダンゲルが話している時、背後に2号が襲いに来ていた。2号は足をとろけるチーズみたいに緩慢な動きで足を伸ばし、俺達の元に迫っていた。近づき方が怖い。ホラーゲームや映画で出てきそうな化け物みたいだった。
「おい!早くしろよこのままじゃお前は良くても俺が死ぬ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺だって人形の中に入るのは初めてなんだ」
「来てるって!もうすぐそこまで来てるって!」
「分かった分かった!」
やばい!もうすぐそばまで来てる!奴は拳を黒く硬化させて伸ばし、俺目がけて殴りに来ている。こんな所で死んでたまるか──!
俺の願いが届いたのか、煙の中から巨大な手が2号の拳を止めた。
「お前の身体も悪くなかったが、この義体も悪くはない」
煙が空気と溶けて消え、そこからダンゲルが出てきた。おまけに黒と赤を基調としたヒーロー然としたタイトでピチピチな伸縮素材の伸びる服を着ていた。
「奏よ、お前は下がっていろ。コイツは俺がやる」
ダンゲルは首の骨を鳴らし、2号を豪快に全身をのめり込ませる形でぶん殴った。ゴムだからダメージが通らない、とはいかず、パンチの威力が凄まじかったのか、物凄い速度で吹き飛び、タワーから消えてしまった。飛ばされてから数十秒経ったが、戻ってくる気配はない。
2号はともかく、これで俺の身体は無事元に戻った。だが全裸だ。何か服を着たい。
「ベイビー!いつもの頼む!」
「はいはいはい!」
一方、ブルートはルミールに『いつもの』を頼んだ。するとルミールは四足歩行になり、身体を変形させた。胸や背中、腕がガバリと開き、中には追尾ミサイル、胸にはガトリングガン、両腕にはグレネードランチャーがギッシリと入っていた。
「最高だぜベイビー」
そして今度はブルートがジャケットを脱ぎ、上半身を露わにした。身体の中にはあらゆる箇所に目玉のようなカメラが仕込まれており、ギョロギョロと動きながらブルートの身体から続々と虫のように出て行き、宙に浮き始めた。
「スダーナ・スダーナ・マッツ・ダ……」
俺達とブルートが応戦してる間に、メアリーは反撃の為の呪文を準備していた。するとメアリーの胸から黒い鎖が蛇のように這い出てきた。
「ドラッグア!」
胸の中に鎖が入っているのに器用に呪文を発し、それは彼らの元に向かった。3号と4号に鎖が行き、彼らを拘束した。首から下まで鎖で覆われ、身動きが一切取れなくなっている。
「もう寝てなさい」
メアリーがそう言うと、鎖から悍ましい紫炎の闇が滲み出た。すると3号と4号がバタバタと足掻き始め、痙攣にも似た震え方だった。次第に動きが緩慢になり、やがて動かなくなった。
「あっ、魔界の邪気に耐えられなくて気絶しただけよ。死んでないから安心してね♡」
メアリーは俺に語尾に♡を入れたような猫撫で声で俺に言った。別に聞いてないのに。
そして、ブルートとルミールは迎撃する準備が整い、1号と5号にありったけの弾丸と爆弾をぶち込んだ。1号は瞬間移動でそれを躱し続ける。だが、今までとは違い、1号の移動する場所を予測して、撃ち続けているので、連続で能力を使わなければならなかった。
次第に1号に疲弊し、苦悶のの表情を見せ始め、次に移動した空中で、ミサイルが直に当たった。爆発し、空中から力なく地面に1号は落ちた。ミサイルが直撃したのにローブがほぼ破れた状態だったが五体満足であった。
「へっ、ベイビーのミサイルを受けて気絶しただけだなんて、頑丈な野郎だ」
「私とダーリンのコンビネーションは誰にも打ち破れないってまた証明されちゃったね」
ブルートとルミールは身体を密着させ、熱い抱擁とキスを交わした。戦闘中なのに何故こんなにも余裕があるのか。いつもこうなのだろうか?
「……」
残された5号は空中に浮かんだまま硬直していた。だが直ぐに顔をこちらに向かせた。こちら、つまり俺。ということは狙われるのは、あれ?俺?
理解した瞬間5号は空中浮遊しながら俺にターゲットを向けた。
「あっ!ヤバイわカナデがヤられちゃう!」
「マズイ!カナデよ!いま待っておれ!」
「あっ、ちょっとこんなところで……♡」
「その方が興奮するんだろ?」
ダンゲルとメアリーが俺を守ろうと走り出した。一方ブルートとルミールは未だイチャイチャしていた。
「う、うわあああああああああああ!!」
5号は目と指から黄の光を放つエネルギー弾を俺に近づきながら発射しようとしていた。確実に俺を狙っている。ゼロ距離で俺を殺す気だ。
俺は咄嗟に腰に携えていたダンゲルの霊体が入っていた剣を引き抜き、それを一心不乱に振り回した。
ブンブン振り回していると、なぜか、偶然に、運良く、俺の剣が5号の肩にまともに当たった。闇雲に振ったせいで当てたのは刃ではなく剣の腹だった。
その瞬間、軽く当たっただけなのに剣が衝撃波を発して5号の身体を揺さぶり、俺の剣の一撃よりも剣の発する衝撃波だか超音波で5号は地面に倒れ伏した。
「お、俺が倒した……!?正真正銘、俺の力で倒したのか!?」
「いや、俺の剣のお陰だろう。俺はほとんど使ってこなかったが性能だけは超一流だからな」
「ま、まぁ初のカナデ自身の勝利よ!よくやったじゃない!」
「あん♡本当に私のクロームのボディが好きね……♡」
「君は生身の時に出会った時から美しいが、改造すればするほど美しくなるよ……」
「お前らもう他所でやれ」
俺の初白星は愛想笑いで讃えてくれる仲間と乳繰り合うサイボーグコンビに囲まれて幕を閉じた。
「なにこれ」
俺はせっかく生身で敵を倒したのに何も感慨深い物を感じなかった。無味乾燥な眩い勝利が俺を男として、一人の人間として成長させてくれたかどうかは、誰にも、俺にもわからない。
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