第18話 家族たる者言いたい事があるならはっきり言え
俺は今、困惑していた。
「モラン!モラン!?そんな……嘘だと言ってよォォォォォォォォォォォォ!!!」
「あ…あ……あひ…………」
「まずいぞカナデ!救急車……かかりつけ医……誰かー!どなたかお医者様は居ませんかー!?」
何をどうすればこうなるか、君達には理解できるか?……俺は分からない。
「あわわ……!ど、どうしましょう御影様!?」
「家に帰って寝たいなぁ」
「御影様!?しっかりしてください!」
現実逃避したくても、時間は常に進み続けて俺を現実に戻してくる。そしてSNSで「〜で涙が止まらない」という構文があるが今の俺はそれだ。ガチのマジで涙を流していた。仁王立ちで。
「……とりあえずモランの家に運ぼうか」
俺は無心でそう言った。
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「…うぅ〜ん……海外ドラマ……シーズン多過ぎなのよ…………ハウアッ!?」
「なんだその寝言」
変な寝言を言いながらモランは目覚めた。いや、本当に変な寝言だったな。何故寝ている時に海外ドラマ視聴者特有の悩みを……?
「ああ!良かった!目が覚めたのねモラン!」
ガバッとメアリーはモランを抱きしめた。実際はピエロ姿の女がドアップで迫って気絶しただけなのに大げさな……いや、俺でも気絶するかちびるだろう。ピエロ姿の女だぞ?恐怖でしかない。
「それで?フランはどこにいるんだ?目的は?」
俺はちゃんと把握できてるかどうかメアリーとモランに聞いた。
「それはね……かくかくしかじかよ」
「いやそれじゃ分かんないからちゃんと言えよ」
「長くなるでしょ!?」
メアリーはぷんぷんという謎の擬音を放ちながら彼女達が何を見たのかをある程度は聞くことができた。
モランの妹であるフランは遂に自分の身体を手に入れ、姉の偉業を超えるためこの国、サンゼーユの人間に彼女が作った魔法を使えない人間でも魔法を使えるようになる謎の粒子を撒き散らしてメタヒューマン…ならぬマジックヒューマンを作ろうとしているということだ。
「早く説得しに行かないと。場所はわかってるんだろ?」
「ええ、ちゃんとこのスマホに表示されてるわ」
そう言ってメアリーは自分のスマートフォンを見せてきた。画面には簡略化された地図とピンマークがあった。つまりはG〇〇gleマップだ。
なに?隠しきれてない?ちゃんと丸で誤魔化しているだろう。それが露骨?そんな小さい事を気にするほどお前のケツの穴は小さいのか?
「いやぁ、でもいいのかなぁ……」
天使が突然疑問を口にした。
「ん?何がだ?」
「この国は魔法を使える人間と使えない人間とはっきり分かれてるんですよ。それゆえに魔法を使えない人間達は不当な扱いをされている事が多いんです」
「……そうなのか?」
俺は天使の話を聞いて少し心が揺らいだ。
「たしかにその子の言う通り、この国では魔法を使えない人達をイジリと称して精神的苦痛を与えるマジックハラスメント、通称『マジハラ』なんて言葉が流行ってるくらいだしね」
「うわ、陰湿だなオイ」
マジかよ、そんな日本でも起こっている似たような言葉があるのか。
「あまりに耐えられなくて身体を壊したり精神を病んだり、最悪自殺なんて事も起こってるみたい。だからモランの妹ちゃんがやろうとしてる事も、分からなくは無いかなって思うの……」
メアリーは複雑そうな困った表情で俯いた。
確かに、人は自分より下だと思っている人間に対して酷い事を平気でしてしまう。全ての人間がそうではないが、半分以上はそうなのかもしれない。
「…だから?関係ない人間を捕まえて拘束して実験台にするの?そんな事が許されると思ってるの?」
「モラン…」
ただ、5人の中でただ一人はっきりと否定したのはフランの姉であるモランだった。
「私はフランが大好きよ。可愛い妹だし、妹がしたいと思ってることはなんでも尊重してあげたい。さっきまではそう思ってた」
モランは吐き出すように言う。先程まで過保護気味だった姉とはまるで雰囲気が違う。この短期間で何故ここまで心変わりが……?
「でもそのために関係ない人間を捕まえて、酷いことをして間違った方法でやろうとしたことは許せない。ちゃんと面と向かって怒ってあげなきゃ」
彼女はもう決めたようだ。妹と会って顔を見て叱る。ただ甘やかすだけが家族じゃない、俺はそんな当たり前な事を改めて理解した。
俺は一人っ子だから兄弟姉妹の楽しいこと悲しいことは分からない。だが、彼女の瞳からは家族として、姉としての矜持のようなものを感じた。
「モラン……俺はアンタを誤解してたよ。妹大好きなサイコシスターでコイツらと同じく人間としての常識が欠如してたかと思ったけど、ちゃんと善悪の区別は出来るんだな」
「ちょっとそれモランに対して失礼でしょ!?」
「流石に女性に対してそれはないだろう。謝った方が良いぞ」
「僕もそう思います」
「えぇ…?」
俺以外の全員が侮蔑の目で俺を見た。
自分のことは良いのか……
「まぁ乗りかかった船だ、最後まで付き合うさ。で、場所は?」
「付き合ってるのは私とカナデでしょ!?この女たらし!」
「お前それ以上事をめんどくさくしたら地中海に沈めるぞ」
いつも通りの漫才をしながら俺はスマホの中のフランのいる場所を見る。なんとその場所は……
「あのタワー…か?」
場所はこの王国サンゼーユの中でも一番高い建物のマテンロータワーだった。俺はスマホだけでなく実際にあるマテンロータワーを見つめる。様々なビル群や家の中でも群を抜いて高くそびえ立っていた。
「変な名前だな」
「マテンロータワーは我が国サンゼーユを一番高い場所から見渡せる塔。私の先代の王が計画し、カナデのような別の世界から来た技術者の手を借りて設立した我が国の象徴的塔だ」
ダンゲルはしみじみと鑑賞に浸りながら言う。
「あそこは私が子供の時からある塔だ。あの頂上に登るたび、私はこの国の人々の生活している姿、生きている姿を見て私は心を引き締めていた」
俺にとってはただのバカでかいタワーだが、ダンゲルにとっては思い出であり大切な場所というわけか。
「あそこからばら撒く気か。実行に移す前に早く行かないと」
「そうね、恐らく向こうも私達の存在を感知してるだろうし」
「だな。それじゃあ早速……おい、お前今なんて言った?」
今、メアリーがおかしな事を口走った。なんで俺達の存在を……?
「言い忘れてたけどあの儀式はね、対象の記憶や五感をジャックする事が出来るけどそのかわりに相手にも同じ事が一瞬起きるのよ」
「ふむふむ」
「だからフランはもう知ってるだろうから計画を早めちゃうかも!だから早く行くわよ!」
「は?」
えっ何コイツ、そんな大切な情報を今の今まで言わずにいたの?ほうれんそうって知ってる?
「お前さぁ……」
俺は怒りを抑えるべく深く呼吸をした。だが、何故かするたびに怒りはみるみる溜まっていく。
「もー!こういうのは連携が大事なのよ?あなた一人がぐずぐずしてると皆に迷惑がかかるんだからね!」
「は?」
「ごめんなさい私のミスですもうしません」
コイツはやる時はやる奴だと思わせといて結局なぁ……褒めたら褒めたで次は致命的なミスを犯してしまう。本人は頑張ってるつもりなんだろうが……
「お前次こういうミスしたら2時間鼻うがいさせてやるからな」
「拷問じゃない!?」
俺は警告も含めてメアリーに言った。ちなみに鼻うがいとは、液体を鼻腔から入れ口や鼻から出し、鼻腔内を洗浄する方法のことである。さらに生理食塩水鼻スプレーまたはネブライザーを使用して粘膜を湿らせることを指すこともある。
俺は一体誰のためにこんな説明をしているんだ?
「じゃあ場所もわかったし今度こそ彼女を止めに行くか」
ようやく場所を特定し、準備もモランも復活したので出発できるようになった。目指すはマテンロータワー。どうして俺がこんなアクション映画の後半みたいな状況になっているのかは分からないがもうかなり深く関わってしまった。後には引けない。
そして展開が遅すぎると読者に言われていないか不安な作者のためにも、俺達は足早にタワーへと向かうのだった。
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