第17話 学園の姫と遠足へ行く 

 健人は、翌日もその翌日も欠席した。具合が悪くなり早退したのが水曜日で、その後二日間欠席することになってしまった。欠席した翌日だけは、母親が仕事を休んでくれて、寝ている間に食事を作ったり看病したりしていた。茜はその間は一人で登校していた。流石に二日目からも一緒にいてもらうのは悪い。その代わり、家にいる間何度もメールが送られてきた。土曜日になり、もうずっと布団に入っている必要がない位回復してきた。茜から来たメールには遠足の事が書かれていた。


『来週は遠足があるから、しっかり治しておいてね。一緒に遊べるよ。楽しみでしょう』


―――そうだった。


―――来週は、学年の親睦を深めるために遠足に行くことになっていたのだ。


―――すっかり忘れていた。


 遠足といってもみんなでバスに乗って行くわけではなく、現地集合、現地解散だ。遊園地に集合し昼食はみんなでバーベキューをし、好きな乗り物に乗ったりして園内で過ごす。


 健人はスマホでその遊園地について調べてみた。目的地までの交通手段や、どんなアトラクションがあるかなど下調べをした。


 その遊園地は、健人と茜の家からは電車に乗り継いで約一時間ほどのところにあった。周囲は自然に囲まれて広々とした公園のようだった。ファミリー向けにミニカーや小さな列車に乗るアトラクションもあれば、ジェットコースターのような絶叫系のアトラクションもある。ストーリーに沿って企画されているお化け屋敷もあり、早く治そうという気持ちが強くなった。


『来週までには元気になりそう。考えているだけで元気になってきた! 来週が来るのが楽しみだあ!』


 健人は茜にメールを送った。


『週末はお見舞いを遠慮しておくけど、その元気なら行けそうよ。しかも遠足は来週の金曜日だから、充分日数はあるから、慌てないで大丈夫』


 と返事が来た。健人は急いで返信した。


『月曜日には学校へ行けそう。心配かけて御免。それから金曜日は申し訳な―い! 執事としては失態だった……』


『ドンマイ! 具合悪くなることもあるわよ。月曜日に会おうね。バイバーイ!』


―――ウォー! 早く週末よ終われ! 


 と念じて、健人は土日を過ごした。



―――♦―――♦―――♦―――♦―――♦―――


 そしてやって来た遠足当日。こういった行事は大抵休日の前に企画されることが多かった。翌日が休みだと、生徒たちも気兼ねなく楽しむことができるから、と学校側が考えて設定されているのだ。


 茜と健人は近隣の駅で待ち合わせ、一緒に行くことにした。家からだいぶ離れたその遊園地に行くのは二人とも初めてだったので、執事見習いの健人としては茜が道に迷ってしまわないようにと提案したのだ。行ったことがないのは健人も茜と同じなのだが、一応執事としてエスコートするつもりだった。


 金曜日の電車は空いているはずもなく、他校の生徒達や仕事に行く人々でそこそこ混雑していた。空いた席を見つけ二人で並んで座っていると、知った顔もちらほら見えた。


 二人は付き合っていることになっているので、並んでお喋りをしていても不自然ではないだろう。生徒たちは、気がつくとちらちらとお互いの顔を見合っていたが、声を掛けてくることはなかった。赤の他人にバカな会話を聞かせたくない、という気持ちが手伝っているのだろう。みなすまし顔で電車に乗っている。


 

 人ごみにもまれながら遊園地へたどり着くと、入り口付近には大勢の生徒たちがおしゃべりをしたり、マップを見たりしていた。担任の先生が出席を取っているので、来たことを報告した。クラス全員の出席が確認できるまで、そこで待っているらしい。


「こういう時に遅れてくる奴って、迷惑だよなあ」


 大月の顔があった。大勢でいる時も図体が大きいのでひときわ目立つから便利だ。


「僕は郊外に住んでるから、ここからは近かった。おお、茜さん。好かったら僕のうちに遊びに来て。自然が豊かでいいところだよ」


 篠塚が茜さんに言い寄ってきた。


―――こいつが言うと嫌味に聞こえる。


「へえ、素敵なところに住んでるのね。私なんか、街のど真ん中に住んでるのよ。羨ましいわ」


―――優しい茜さんは、こんな時にも話を合わせてあげている。


 生徒だけになるとこんな会話になってしまう。電車に乗っていた時の、借りてきた猫のような態度とは一変した図々しい言葉ががポンポンと飛び出す。


「ランチは一緒に食べることになってたんだね。茜さん」

「そ、そうだっけ……」

「六人一組だから、一緒の班になったんだよ」

「……あ、そうか……。よろしく……」

「楽しみだなあ、バーベキュー。一緒にランチが食べられるなんて」

「そう、お」


―――ウォ―っ!


―――先週俺が休んでいる間に、班決めが行われたのかあ―っ! 何たる失態!


「君も一緒だけどね、健人。休んでたから、決めといてあげたんだ」


―――六人一組とは! 


「そ、そうなんだ……」


 健人はがっかりした素振りを隠して答えた。


 全員がそろった一年A組は、アトラクションの方へと移動を始めた。

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