第28話 弱者の強さ

 世間から完全に『敵』とされた俺は、なすすべもなく、町をブラブラと歩くことしかできなかった。


「なあ、本当にいつか終わるよなこれ」

「まあ、多分……」


 俺とクリスの会話はほぼこれに関して。もう飽き飽きだ。


 そんな中、俺に声を掛けてくれた一人の女性がいた。

 それはピノでもなく、チェルシーでもない。


「あの……」

「えっと……誰だっけ?」


 誰かは分からない。しかしどこかで会ったことがあるのは確かだ。

 この謙虚な感じの……誰だったか……。


「リリです。覚えて、無いですよね……」


 その女性の名は『リリ』。


「悪い。誰ですかね?」


 リリ……聞き覚えのない。

 ミミと語呂が似ていて分かりずらいなあ。


「前、ランク戦でボコボコにされたDクラスの111111位の人です!」


 俺に向かって少し頑固に言葉を放つ。


「あー!」


 1111111位。その場では流したが、案外覚えているもんなんだな。

 リリと出会ったきっかけはランク戦だった。

 その時俺のランクは7、60000位くらいであったのに対してリリはランク100000を切っていなかった。

 理不尽ではあるが、俺が弱そうというただそれだけの理由で俺にランク戦を挑んできた女性。もちろん俺が圧勝したわけなのだが……。


「えっと……私今、依頼を募集中なんですけど……よかったらサクトさん。協力してくれませんか?」


 リリからの発言に俺は耳を疑う。

 俺は今、世間から敵視されている。世間というのはランクに入っている人。つまりリリもその一人だ。


「そんなことより、俺のこと敵視しないのか?」

「はい……」

「それは、なんでなんだ?……」


 俺は心の疑問をそのままリリに聞いた。


「だって……サクトさんはサクトさんですもん……どちらにせよ悪いことはしてないと思いますし……」


 リリは少し下を向きながら話した。


「……あ、ありがとう」


 正直、俺はもう部外者から敵視しない人間は存在しないと思っていた。

 しかしリリは違った。


「ちなみにどんな内容なんだ?」


 せめてものお礼(?)に、俺が引き受けられるほどの依頼なら受けよう。


「えっと……私、サクトさんと戦ってから一回も勝てなくて……それで戦いを教えてほしいんです……」

「一回もっ⁉」


 俺は思わず声を荒げる。

 俺は慌てて口元に手をやり、気まずそうに頭を少し下げる。


 つまりまだ111111位をキープ……。

 なんかかっこいいなぁ。


「それでもし、今月までにランクが少しでも上がらなかったら追放するって……」

「そんなことあるのか?」


 俺はクリスの方を向く。


「そうだね。稀だけど無いとは言い難いよ」


 まあどちらにせよ辞めなければいけない時が来るわけだろうが。


 そういえば、リリと戦って何か月たったのだろうか。それなのに一回も勝ててないなんて。

 というより数か月もランクが上がっていないという事は……。


「お前、ちゃんと飯食ってるのか?」

「ああ、それならまだ大丈夫です。私、ランクに入るまでにかなりの額貯金してたんで……」


 それを聞くと俺は直ぐに関心を覚えた。

 それだけランクに入ることに憧れ、意思を持っていたのかひしひしと伝わってくる。

 まあただ両親が金持ちだという場合も考えられるが……。

 そんな意思を俺は無駄にさせたくない。


「分かった、俺で避ければその依頼受けるよ」

「本当ですか!」

「ああ」


 俺は一瞬クリスにアイコンタクトを取り承諾を得た。

 もちろん主導権は俺にあるが、一応クリスの反応も見ておきたいと思ったからだ。


「早速始めるか」

「はい!」


 気迫よく返事をしたリリだったが、内容はボロボロ……


「ちょ……」


 俺はリリの弱さを改めて実感する。

 振り下ろす刃は、鍛えてすらいない俺の体すら通らず、反動でリリが吹っ飛んでいく。


「こりゃ勝てんわなぁ」


 そう呟くと、リリは悔しそうに下を向いた。


「やっぱり……諦めたほうが良いんですかね」


 リリが申し訳なさそうに、こちらを向きながら震えた声で聴いてくる。


「いや、大丈夫だ。その代わり毎日トレーニングしてもらうからな」


 リリは一瞬嫌そうな表情を見せたが、すぐにキリっとした表情を見せる。


「はい、頑張ります!」


 リリは直ぐに剣を構えなおし、俺に立ち向かう――。



「はぁ、疲れましたぁ……」


 あれから俺たちは2時間ほど剣の練習をした。

 いまいち上達したかと言われると、していないと言わざるを得ないが、改めてまたリリの執念さには感心した。


 リリは大量の汗をかき、地べたに座り込んだ。


「サクトさんってなんでそんなに強いんですかね?」


 正直俺が強いというより、リリが弱すぎると言った方がしっくりくるような。

 だが俺は、その言葉を一度胸にしまっておくことにした。


「何でだろうなぁ。別に俺、そんな強くないぞ……」

「そんなに私が弱いってことですかね……」


 あ、やべえミスった。


 リリは分かりやすく落ち込んだ。


「いや、違う! というより、何というか……俺も強い人と比べたらそりゃ弱いだろうし、リリだって練習すれば強くなれるよ!」

「……やっぱりサクトさんは良い人ですね。それに強いですよ!」

「そう……かな」


 違う。


 俺は良い人なんかでもないし、強くなんかもない。


 リリのように、自分がいくら不利な状況に陥ったとしても立ち向かう勇気なんて無かった、ハーリーアーサ―に苦戦したという事実があったのに、練習なんてしようとも思わなかった。大切な人を失ったという前例を聞いていたにも関わらずだ。


 あれ、リリの方がよっぽど強いじゃねえかよ……。












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