第24話 魔凶の日5

「……じゃあ、落ち着いたことだし! 絶対兄を取り換えずぞ!」


 暗い空気をぶち壊すように、ピノがそう切り出した。

 マックスも振り切ったような表情を見せて、いつもの調子を取り戻したようだ。


「すまん。取り乱したな、もういっちょ、やってくるわ」


 俺たち三人は顔を合わせ、笑顔を取り戻した。

 ここの暗い雰囲気に、少し明るさを取り戻した。


「【ハイハイパー】!」


 俺たちは全力でボスのもとへ向かった。



「んー。流石にもういないよねえ」


 ピノがそう呟きながら、あたりを見渡す。

 さっきと同じ場所に戻ったが、もうボスはいない。


「……」

「いや……」


 マックスは上を向きハンマーを構えた。

 それと同時に俺も剣を構える。


「さっきの仕返しだああ!」


 ボスが上から降ってきた。


 それに対してマックスは、ハンマーを思いっきり振りかぶり、着地する寸前にボスに向かってフルスイング。

 だがそれを華麗にかわし、ゆっくりとボスは着地する。

 思いっきり空を切ったハンマーは、マックスとともにクルリと一回転。


「ちっ――」


 さっきよりも大きい風圧が走る。


 当たれば確実に死ぬだろう。

 自分だけで閉じこもっていた悩みを共用することができ、振り切れたマックス。さっきとは比べ物にならないくらい普段より強くなっている。いや、これが本来のマックスの強さだ。


「【タイタニックプレイス】!」


 叫びながらハンマーの遠心力で回転する。

 回転したマックスは竜巻のような突風を起こし、目にも止まらぬスピードで回転する。


「す、すご、すぎる……」


 俺は一旦遠距離で狙撃しているピノのもとへ退避した。


「うおおおおおおおおおおお!」


 そのままボスの元へ突っ込む。

 


 ブォオオオオッ!



 物凄い音とともに、ボスは吹っ飛んでいく。

 吹っ飛ばされたボスは、見えなくなるほど遠くへ行ってしまった。


 しかし、またまたマックスの攻撃を受けようとも避けようともしなかったボスに違和感を覚える。


「ふっ! やってやったぜえぇ!」


 マックスはハンマーを地面に置き、そこに座り込んだ。


「流石! 次元が違いすぎる……」

「……」


 暗い雰囲気とは一変。なはず……。

 なにかがおかしい。


「っ――!」


 後方から全力でボスが猛スピードで突っ込んでくる。


「マックス、危ない!」


「【リストロプロテクチャ―】」


 咄嗟にマックスはガードをする体制に入る。

 マックスは俺が使っている【ガードブロック】の何十倍もの分厚さの障壁を作る。


 だがそれをぶち破る勢いで槍のように、ボスは突っ込む。


 マックスは、吹っ飛んだ先にある大きな木に激突する。


 困惑し、動揺する俺に対して、ピノはすぐさまマックスに駆け寄り、声を掛ける。

 流石ピノ……俺よりも人が出来ている。


「大丈夫? ……ダメだ! 反応がない!」


 ピノは俺の方に向き、あわてて声を掛ける。


「まさかっ!」


 俺の頭の中で最悪の展開が繰り広げる。


「意識はある。けど……当分意識は失ったままだよ……」

「ふう。一安心……」

「なに安心してるの! ここにいるのはボスだよ!」


 そうだった……ここにいるのは正ハーリーアーサ―の何十、何百倍も強いボス。そしてマックスも気を失っている。

 た、倒せるわけ……


「【フラッシュアロー】!」


「倒せるの……か?」


 確かにピノは強い。しかし、マックスでも苦戦した相手だ。簡単に倒せるものでもない。


「多分無理……けど、持ちこたえるしかない!」

「……そうだよな……」


 俺はいつもピノに元気づけられている気がする。


「【デス・デバット】!」


 俺はすかさず、ボスに向かって【デス・デバット】を繰りだす。


「……ですよねー」


 俺の【デス・デバット】で攻撃しても、ボスの体に刺さりすらしなかった。


 俺は一旦距離を置く。


「また……出すしかないのか……」


「【フラッシュチェンジ】!」


 ボスに突き刺さっていた矢が爆発した。


 しかし、全くと言っていいほど効いていない。


「……」

「【ダブリングチェンジ】!」

「っ! それは――」



 でもごめんピノ。もうちょっと前に使っていたんだ。



 俺は思いっきり剣を突き刺した。


「よし、今度は通った!」


 遅延して爆発させる。


 ボスは小さくノックバックした。がしかし致命傷にはならない。


「……サクト!」


 俺は完全に体力を失い、倒れこんだ。やはり数を打ちすぎた。

 地べたに這いつくばい、顔を上げボスに目をやる。


 ボス俺は目が合った。


「あ、俺死ぬかも――」

「だ、ダメ!」


 ピノが俺の前に立ちふさがった。


「それじゃ!」


 俺はピノの危険を察知し、残りの力を振り絞って立ち上がろうとする。

 しかし俺は立ち上がることが出来ない。


 ボスが大きく後ろに身を引き、振りかぶる。


 ピノがボスの方を向きながら、俺よりも小さい体を大きく広げ、歯を食いしばっている。


 情けないなぁ。


 猛スピードでボスが突っ込んでくる。


「――っ!」


 するとその瞬間、空から降ってきた何かがボスを地面へ沈めた。


 化け物でもハーリーアーサ―でもない。人間だ……。

 あれほどのボスを一撃で。


「な、なにが……起きたんだ……」

「あちゃー……少し遅れてしまいました!」


 上から降ってきた人は、少し笑顔を見せながら服に着いた砂埃をせっせと払いながら踏みつけられているボスに圧力をかける。


「……あなたは……」


 上から降ってきた奇妙な女性は、ボスを踏みつけ続け、ボスは身動きが取れないよう拘束を続ける。


 その女性から醸し出されるオーラの偉大さは、俺でも分かるくらい顕著なものであった。


 ピノは以前から知っていたかのような反応を見せる。

 ピノと知り合いなのだろうか。

 いや違う。明らかに知り合いと出会った反応ではない。


「どうやら私の事を知っているみたいね。そう。私は……喫軌指揮官大甕きっきしきかんおおがめのミミ・ロゼリックよ」


















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