第22話 魔凶の日3

 マックスに置いて行かれ、俺は一人ぼっちになってしまった。

 フリスト村辺り一帯はもうハーリーアーサ―は見当たらない。すでにマックスという男が駆逐したのだろう。

 それにしても何故ランク9位がこんなところにいるんだろう。確か魔凶組に甕は参加してないらしいから、魔凶組の中で最も強い人だと言える。というか、なんでこんな大事な魔凶の日に甕は参加しないのだろうか。魔凶の日よりも優先しなければならない用事とは、逆に知りたいものだ。こちらは世界が掛かっていとうのに。


「確かマックスはこっちに行ってたよな」


 俺はマックスを追いかけるようにして歩き出した。ランク9位という事もあり、戦いに学ぶこともあるはずだ。けれども、マックスはボスと戦うと口にしていた。ボスという事は正ハーリーアーサーの中でもかなり強い部類に入るという事。あんな今でも化け物染みた……いや、化け物の正ハーリーアーサ―なんて、今までと比べ物にならないくらい異次元のレベルだろう。恐怖や震えを抑えながら、ゆっくりと進んでいく。



「くっそ、全然いねえじゃねえかぁ」


 10分くらい歩いても、全く見つかる気配がない。そして、今まで出てきていたハーリーアーサ―がバッタリと減った気もする。


「えっ、サクト?」


 そこにいたのは弓を持った女性、ピノであった。

 するとピノは驚いた表情を見せて、俺に向かってこう言う。


「何でこんなところにいるの! この先はボスがいるんだよ!」


 ピノが言った言葉に俺は少し安心した。なんてったって辺り一面は森。方向が分かりずらい。道が間違っていなかったことを確信し、俺はもっと奥に進む決意をした。


「ちょっと、サクト?」

「俺も行きます」

「いやっ、ボスだよ!」

「分かってます!」

「だったら私も行く」


 ピノがキリっとした表情を見せ、こちらを凝視する。


「……行きましょう」


 俺は少しの間だった沈黙を破り、再び歩き出した。

 少し後ろでピノは俺を追いかける。



「なんか、静か過ぎませんかね……」


 辺りはより薄気味悪くなり、ハーリーアーサ―の気配もゼロだ。


「んー。この辺はもう誰かが片付けたか、それとももうすぐボスだからか……」


 もちろん片付けたというなら、その人物はマックスでほぼ間違いないだろう。


「……」


 そして辺り一帯がより静かになると共に、違和感が走る。


 おかしい。デジャヴ……。

 間違いない。ハーリーアーサ―に囲まれた時と同じ感覚。


「走ってください!」


 俺はピノに向かって叫び、走り出した。


 しかし俺たちはハーリーアーサ―に囲まれてしまった……


「いやぁ困ったなぁ……」


 数は先ほどと同様に5体。

 ピノがいるとはいえ、5体はあまりにも多すぎる。


「どうする……」

「倒す」


 ピノは迷うことなく弓を構える。


「じゃっ、いくよー!――」



 俺はピノの活躍を見る事しかできなかった……。

 ピノの強さはやはり別格で次々と正ハーリーアーサ―がぶっ倒れていくのが伺える。

 ピノは俺を必要としなかった……。


「ふはぁ、ちょっと休憩ー」


 ハーリーアーサ―五体を華麗に倒した後、流石のピノも疲れた表情を見せる。

 ピノはバタンとその場に腰を下ろして地面に手を付いた。


「何で……そんなに強いんですかね」


 俺はついつい聞いてしまった。


「やっぱり……努力したもん」


 ここで「いや、私なんてまだまだ弱いよー」と言わないあたり、本当に努力してきたんだと身に染みて感じる。


「立派ですね」

「それは違うよ」


 物音一つなく、ただただ木々が擦れる音が響く。

 暑くも無く、涼しくもない。


 ピノは空を見上げた。

 その横顔は、俺でも分かるほど勇敢で、美しい。


「えっと……クリスとはどんな関係なんですかね?」


 なぜこんな言葉が出たのか俺にも分からない……。

 だが、俺は口に出していた。


「彼氏だよー」

「ええええ⁉」


『嘘でしょ』という単語が頭に永遠と流れる。

 確かに……クリスの顔は悪くないし……優しいのは言うまでもないけど……。


「冗談だよー」

「何だ……ふぅ」

「ってなんでそんな焦ってるのー?」


 俺はホッと胸を撫でおろす。


 というか、確かになんで俺は焦ってたんだ……。


「はいっ! 休憩終わり! 走るよー」

「了解です」


 ピノはさっきまでの疲労が嘘のように飛びながら立ち上がり、一、二っと準備運動を始める。


 俺たちはマックスの方向へ突っ走る。


 走りながら喋ることはほぼ不可能。

 沈黙の中、俺はとある事が突っかかってしまう。


 クリスとの関係を結局流されてしまった事だ。


 タイミング的にたまたまだったかもしれない。しかし、何かやはりおかしい。

 二人は何かを隠している……。


 それか本当に付き合ってたりして……。


 いやいやそれは無いと首を一人で横に振る。


 どちらにしろ俺に秘密があるのは確かだ。

 いずれか経ったら分かるよな……。


「サクト! 見つけたよ」


 少しぼーっとしてしまった。

 気付いた時にはもう着いていたようだ。


「はい! どこですか?」

「聞こえない?」


 そっと耳を澄ませる。


 いや……風の音しか聞こえないんだが。


「全く聞こえないです」

「えぇ。じゃあもうちょっと近づこっか」

「はい……」


 ……。

 強いと耳も良くなるのか?

 それか何かを感じ取っているというのか?


 ピノと一緒に歩く中、俺にも何か音が聞こえ始める。



 だがその時にはもう、マックスはほぼ目の前にいた。


 これがピノとの差……か。








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