第20話 魔凶の日

 あたりはいつもよりも薄暗く、緊張感がどことなく走っている。


「よし、サクト! 絶対乗り切るよ!」

「ああ!」


 今日、人々が恐れる魔凶の日が始まった。


 俺たちは、魔凶組の集合場所である、オカランドの門へ向かった。


「何人くらいいるんだろうなー」


 そうなようなことを考えながら、俺たちはオカランドを出た。

 だがそこに待っていたのは、異様な風景……。


「え、これだけ……」


 ハーリーアーサーの数の予想は10000とされていた。それに対し魔凶組はというと……。


「100人くらいだよな……」


 パット見て少ないのは明らか、数えられるほどの人数しかいない。見たことがある人も何人かはいるが、少なすぎる。

 そういえば、受付の人も参加人数を教えてくれなかったっけか……。

 背筋が凍る。


「う、嘘だろ……こんなんで対抗できるわけ……」


 絶望に明け暮れ、逃げ出すものもいた。

 中にはピョンピョン飛び跳ねて、いかにも身軽そうな男もいた。


 その終止を見ていると、つい逃げ出しそうになる。

 すると、一人の女性が駆け寄ってきた。ピノだ。


「大丈夫! 大丈夫! 練習だってあんなにしたんだし!」


 そう俺たちを元気づけるために言ってくれたのだろうが、ピノも明らかに震えていた。なぜこんなに少ないのか、見当もつかない。

 甕も出席できないとなると……。

 本当に身の危険を感じる。


「ふぅ」


 俺はふと空を見上げた。

 正直怖いし逃げ出したい。でも結果は一緒だ。こんなに人数が少ないのであれば、一人抜けるだけでかなりのダメージを受けるだろう。俺は喫軌を任されたという訳か……。いざとなったら甕が飛んできてくれるような構想を描きつつ、俺は肩の力を抜き、リラックスする。


「いくぞー!」


 一人の男が声を上げた。

 そして魔凶組が一斉に走り出す。

 その波に乗り、俺も走り出した。予想が10000として、魔凶組が100人だと仮定する。すると一人当たり100体近く倒さなければならない。正ハーリーアーサ―では、上位生でやっと倒せるほど。準ハーリーアーサ―では下位生でも問題ないくらいだ。正は、上位生に任せるとして、俺は準ハーリーアーサーを狙う事にした。


「一体目か……」


 これは準ハーリーアーサ―だろう。見ればわかる。前戦った正ハーリーアーサ―の二倍以上小さい。


「【デス・バデット】!」


 この戦いは丸一日も掛かる長期戦になる。出来るだけ【ハイハイパー】や【ファースト・リコレーション】は体力の消耗に繋がるため、極力避けなければならない。


 準ハーリーアーサ―は、【デス・バデット】一撃で倒すことが可能だ。


 よし次だ――。


 人数が少ないのは置いておいて、俺は絶好調。次から次へと準ハーリーアーサ―を倒していった。

 奥に進むにつれて、まばらに表れていたハーリーアーサ―が集団で襲い掛かってくることもあった。それもなんとか【デス・デバット】で何とか対応していた。


 そしてここで一つ、最悪ともいえる事を耳にしてしまう。


「おい! 奥の村が襲われているぞ!」


 この世界の村なんてそう多くはない。そしてここはマゼラ森林……。奥の村というのは……。


 フリスト村……。


「【ハイハイパー】!」


 俺は必死に駆け抜けた。全力で。フリスト村は俺がこの世界に来た時に、どこの誰かも分からない俺に優しくしてくれた。謎が多い村なのは確かだが、俺は最初の恩を忘れたりなんかしない。


 途中で出てくるハーリーアーサ―を避けながらかけていく。

 フリスト村に着くと、焦りがさらに絶望へと変わる。

 村全体には準ハーリーアーサ―が群れている。

 そして村の中央でレイピアを持った女性が戦っているのを見えた。


 俺はフリスト村に突入し、女性の応戦に向かう。


「サクト!」


 その女性はチェルシー。過去二人でハーリーアーサ―を戦ったこともある仲だ。向こうはこっちの事をライバル視してきている。確かチェルシーもこの村と関りがあるらしいしな。


「チェルシー俺も戦うぞ!」

「分かったわ」


 チェルシーは余り気が乗らないらしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 俺たちは、村の人たちを安置に避難させる。


「【デス・バデット】――」


 俺たちは、二人に対し、信じられない量の数に対し対抗した。

 そして、恐れていた敵が現れる。


 あれは――。

 正ハーリーアーサ―だ。


 間違いない。前と全くと言っていいほど同じ形だ。あたりにはチェルシーの他に誰もいない。

 だが俺たちも成長したのは確か。一体だけなら問題ない。


「ここは、私にやらせて」

「……分かった。周りの準は俺が対処しておく」


 前の正ハーリーアーサ―との戦いを、未だに根に持っているのだろう。正直倒せるかどうかは分からないが、いざとなったら俺も協力すればなんとかなるだろう。

 俺は準を倒しつつ、チェルシーの戦いに目を向ける。


「【フル・スピード】!」


 チェルシーは【ハイハイパー】が発動している状態で、さらに【フル・スピード】という技を発動していた。もともと光っていた赤色が、さらに濃く、眩しくなった。つまり、【ハイハイパー】の強化バージョンという事だろう。やはりチェルシーも成長している。

 その速さは【ハイハイパー】の二倍。いや、三倍と言っていいだろう。

 俊敏に動くチェルシーに、ハーリーアーサ―もついていけていない。


「【フォースカッター】!」


 チェルシーは、前使っていた【フォースカット】ではなく、【フォースカッター】という技を最後にハーリーアーサ―にぶち当てる。パット見、何も変わっていないように思えたが、ハーリーアーサ―の衝撃を見ると、【フォースカット】よりも制度が上がっていることが分かる。

 だが、ハーリーアーサ―は倒れない。

 ハーリーアーサ―は、今か今かと待っていたチェルシーの隙を見逃すはずもなく、右手を大きく振りかぶり、チェルシーに向かって殴り掛かる。


「うぉあっ!」


 間違いない。【ハーリー・ブラット】だ。それをチェルシーはもろに受けてしまった。


「チェルシー!」


 俺は直ぐにチェルシーに駆け寄った。


「【ヒールアロー】!」


 俺は急いでチェルシーに【ヒールアロー】を掛けるが、チェルシーはまだ動きだせない。

 そしてハーリーアーサ―は、こちらに向かって走り出してくる。


「……」


 チェルシーを抱えて逃げるわけにもいかない。ここはフリスト村だ。俺たちが逃げればフリスト村は救われない。それは俺もチェルシーも望んでいない最悪の事態だ。

 あの技を……出すしかないのか……


 俺は頭の中で必死に策をひねり出す。

 しかし一向にそれ以外に思いつかない……。


 ならば……出すしかない。



「【ダブリングチェンジ】!」





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