第18話 修行

 ピノとは俺がリョークという男に殺されそうになっていた時に助けたくれた人であり、三桁大会で華麗に勝利していた女性である。三桁大会の時のランクは129位であった。


「えっと、明日から始めるからね」

「了解でっす!」


 確かクリスはピノと接点があると言っていた。理由こそ言っていないが、こんなにも仲がいい感じだとは思わなかった。


 次の日、俺はピノと対面した。


「改めて、私の名前はピノ。今日からよろしくね」

「よろしくお願いします」


 ピノは弓使いだったはずだが、ピノ腰には剣が刺さっていた。


「あれ……弓じゃないんですか?」

「あー私、剣も使えるのよ。弓を使い始めたのは最近」

「ちなみに今のランクは……?」

「98位よ」

「98! という事は極位生?」

「まあそうね」


 こんな短期間で二桁にまで……早すぎる……。


 極位生とは、二桁のランクを持つ人につく名前だ。

 身近にいる中で一番強い人だ。確かクリスも昔ランクに入っていたと言っていたが……。そういえばどこまで行ったかとかは聞いてないな。


「じゃあ、始めるわよ」

「あ、はい」


 颯爽とピノは剣を構える。俺も剣を構える。


「【ハイハイパー】!」

「【ファースト・リコレーション】!」


 俺は赤と緑に体を光らせた。ピノはそれに全く動揺する気もなく、突っ込んできた。こんな反応されたのは初めてだ。


「速い――」


 スキルを二つ発動している俺に対し、ピノは何も発動させてない。けれどもスピードは俺と同等。いや俺以上のスピードで剣が飛んでくる。

 俺は一旦距離を置く。


「驚かないんですね」


 俺はピノに向かって正直に疑問を問いかけた。


「スキル二つ掛けとはもう戦ったことはあるからかな」

「……」


 俺は言葉が出ない。


「【スピアキャロッシュ】!」

「っ――!」


 ピノは俺の剣を華麗にはじき返してくる。これが極位生の強さ……。


「それなら……」

「【ハーリー・ブラット】!」


 剣を捨てて拳でピノに対抗した。するとピノは、クルリと回転しながら俺の手を目掛けて切り裂く。


 俺は余りの痛さに蹲って声も出ない。


「あっ! ごめんごめん! いつもの癖で……」


 ピノは俺に駆け寄ってくる。

 そうだった。ピノはハーリーアーサ―と沢山戦っていると言っていた。【ハリー・ブラット】とはハーリーアーサ―の技。受けられるのに無理はない。


「【ヒールアロー】」


 俺の腕はすぐさま回復する。


「それって――」

「魔術ね」


 俺は初めて魔術を見た。あまりの回復の速さに驚きを隠せない。


「となると……俺もそれ使えるのか……」

「【ヒールアロー】!」


 俺は試しに【ヒールアロー】を発動してみる。


「……出来てるよなこれ……」

「本当に一瞬でコピーできるのね……」


 俺たちは妙な空気感に包まれた。流石のコピー能力に鳥肌がすごい……。


「実力は大したことないけど……」


 そうピノがぼそっと言ったのを俺は聞き逃さなかった。だがそれは事実だ。否定できない。


「じゃあ、続き続きー!」

「はい!」


「じゃあ取り合えず今日から僕は来ないから、二人でやっといてね――」


 クリスがこういう。もちろんこの後、クリスは来なくなった。


 そして俺は、一週間。みっちりとピノにしごかれた。ピノは異次元の強さで、俺の指一本も触れさせてくれない。正直一週間たった今でも、全く変わりなく手も足も出ない。技を使ったところではじき返されて、隙をつかれてこっちが刺される。もうこりごりだ。

 だが、そんなとき、クリスがやってきた。


「さあ、どんなもんになったのか見してもらおうかなー」


 クリスは、テンションを上げながら俺に言ってきたが、正直期待はしないでほしい。以前と変わらず手も足も出ない状態だ。


「結構マシになりましたよ!」

「……」


 マシになったったという言い方が少し気に食わないが、違いが自分では感じられない。身長や雰囲気など、小さいころ近所の人に、変わったね変わったねと言われ続けていたが、自分では全くよく分からない、というのと同じなのかもしれない。


「じゃあ、早速やってみてよ!」


 クリスがそう言うと、ピノが構える。『いつでも来ていいぞ』という合図だ。


「【ファースト・リコレーション】!」

「【ハイハイパー】!」


 俺はいつも通りに赤緑に光らせる――。



「ぐっ……」


 そしていつも通りにやられた。


「【ヒールアロー】」


 いつも通りに回復を自分でする。

 これの繰り返しだ。何も変わっていない。だが、クリスの反応は意外とそうでもなかったらしい。


「おお。やっぱりいい感じになってるねー! ピノに頼んで正解だったよ」

「でしょ!」


 ……。


「いや、でも、何にも変わってないじゃないですか!」

「まあそうなんだけどね、これから分かるよ!」


 ピノがこちらを向いてニコッとしながらいった。クリスもこちらを向きながら、頷いている。どういう事なんだろう。俺は首を傾げた。


「えっとね。サクトに足りなかったものってなんだと思う?」

「……実力ですかね?」

「んー。まあ間違ってはいないかな」

「どういうことですか?」

「サクトって今まで何回くらい戦ってきた?」

「多分20回くらいですね……」

「それだよ! 問題は」

「少ないってことですか?」

「少ないってレベルじゃない! そのランクなら何百回は誰かと、あとは小さいころに練習するからそれ以上ある。だから経験が少ない。戦いに慣れていない」

「……」


 事実、俺は超々平和な世界にいた。戦いなんてしたこともない。戦いをしたのなんて、この世界に来てからだ。確かにこの世界は完全強さ主義。小さいころから修行をするのは妥当だろう。


「だからみっちり一週間。私と稽古したわけだ」

「なるほど……それで、何が変わったんですか?」

「サクトは、最初単純な攻撃しかしてこなかった。でも、途中からどうすれば攻撃が通るか試行錯誤していた。けど、結局技は通らなかったんだけどね」

「それで……どうすればいいってことですか?」


 少し、沈黙ができた。

 そしてピノは、こう掲げる。


「自分のオリジナル技を覚えよう!」


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