第1話 フリスト村

「ここは……森?」


 見たことのない植物に動物……。いまいち状況が理解できない。森に吹く風は、なんとも言えない安心感を奏でている。空気がおいしいとはまさにこのことだろう。

 冷静になっていろいろ考えてみるが、実際のところ何もピンとこない。


 そこへ、一人の厳つい男がやってきた。少し錆びた鎧に、鋭く尖った剣。見慣れない光景に、思わず声が出てしまった。


「そこに誰かいるのか!」


 どうやら声に反応して気付かれてしまったらしい。面倒なことになっても嫌なので、取り合えず素直に出ることにした。


「お前その服……。喫軌きっきに入っていない?」

喫軌きっき?」

喫軌きっきも知らないのか……となると転移人かそれとも……まあひとまず、フリスト村に来い。案内してやる」

「ありがとうございます……」


 男は直ぐに俺の状況を理解したようだ。

 俺は異世界転移をしてしまったかもしれないらしい。確かにこの世界に来た瞬間、多少なりとも違和感を感じた。というかむしろ、家で寝たのに森で起きている時点でおかしい。本当に異世界転移など存在するのか。疑問を整理していく俺とは真逆に、迷うことなく森をズカズカと歩いていく。


「ここがフリスト村だ。ひとまず村長に挨拶しに行こう」

「あ、わかりました」


 フリスト村はどこか懐かしい気配を感じた。それもそのはず、歴史でやった竪穴住居にそっくりだ。どこの世界も、考えることは同じなのかもしれない。教科書で見たほぼそっくりの景色に、俺は感動すら覚えた。

 村の中心にある家。つまり村長の家へ案内してもらい、歳をとったいかにも村長感のあるおじいさんに会った。


「わしが村長のリシアムじゃ。んでこっちがフロリス。あんたの名前は?」

「俺の名前はサクトです」

「ほっほ。珍しい名前じゃ。こりゃー転移人でほぼ間違いないかのぅ。まあこの辺なら珍しくもない」


 フロリスとはここまで案内してくれた男の事だ。それと、今まで全く気付いていなかったが、言語は日本語だ。多分なんらかの仕組みで翻訳されているのだろう。


「そのようですね……」

「それなら、わしが一からこの世界について説明してやろう」

「ありがとうございます!」


 どこの馬の骨かも分からない俺に、一から丁寧に説明してくれた。


「この世界は喫軌きっきという組織に支配されている。まあ支配って言っても、みんなで入ってるグループみたいな感じじゃ。ほんでその喫軌きっきはランクという制度があってな、ランクは強さによって決まる。ランクは権力そのもの。つまり、ランクの高さですべてが決まる。」


 つまり、強ければ強いほど権力も上だし、生活も安定する。

 だけど俺は戦うという概念を知らない。多分戦いが全てなこの世界の人に比べれば、俺なんて下の下だろう。なにせ元居た世界は平和すぎたからな。


「この世界はざっとこんなもんじゃのぉ。あとは直接喫軌きっきへ行った方が早い。それと、転移したっちゅうことは、何か理由があるのが普通なんだが、何か心あたりはないかね?」

「心あたり……?」


 正直全く心当たりがない。俺は寝て起きたらここにいただけだ。


「まあ、いずれわかることじゃろう」

「あ、あの……喫軌きっきに入らないっていう選択肢はないんですか?」

「あー。それはほぼ無理じゃの。この世界に、喫軌きっき以外の文明がない」

「じゃあ、村長さんたちも喫軌きっきに入ってるってことですか?」

「あぁ……正直に言うと入っておらん。だが、あまりこの村に関して詮索しないでくれ」


 どこか言葉が重たい。何か深い理由でもあるんだろう。教えてくれないのは当たり前だ。得体のしれない俺に相談するメリットもないしな。


「じゃ、あとは直接喫軌きっきへ行って話を聞くんだな。この村から北に向かっていくと、オカランドっていう大きな街がある。そこで喫軌きっきに入れる。しかも喫軌きっきに所属するほぼ全員がそこに住んでおる。あまりの大きさに腰を抜かすかもな」

「いろいろありがとうございます!」

「ああ、また困ったらここに来るといい」


 村を出ようとすると、村長とフロリスの他に、数人の人が出迎えてくれた。この村の住人は優しすぎる。喫軌きっきに入っていない理由は何なんだろう。争いが嫌い。とかでは無いよな……。


 俺はこうして、この世界の法則にのっとり、喫軌きっきに入ることを決めた。正直乗り気ではない。本当にこの世界で俺は、生活していくことはできるだろうか。

 俺はこの世界が何故、強さこそが全てなのか真実をしりたい。異世界転移した理由もだ。

 そうすればもしかすると――。


 俺はオカランドへ向かった。

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