第11話 成長の違い

 剣を捨てた俺に対して、チェルシーは激怒する。


「何こんな時にふざけているのよ!」


 無理はない。戦闘途中に剣を捨てるなんて、テスト中にシャープペンと消しゴムを全て投げ捨てるのと同じだ。だが、これしかない。


「【ハーリー・ブラット】!」


「それって……」


 俺の拳は、緑色に光る。それと同時に俺は腕を振りかぶり、フルスピードで拳をハーリーアーサ―の胸にぶち当てる。

 ハーリーアーサ―の体は大きく揺れ、崩れ落ちる。だが、そんなことで死ぬほどハーリーアーサ―も甘くない。直ぐに立ち上がり、俺に向かって攻撃を仕掛ける。


「【ハーリー・ブラット】!」


 俺はもう一度、ハーリーアーサ―に【ハーリーブラッド】をお見舞いする。


「【フォースカット】!」


 チェルシーは倒れたハーリーアーサ―に対して、技を繰り出す。


「もう一度それを!」

「【ハーリー・ブラット】!」


 俺の拳は、大きい胸を捉え、ハーリーアーサ―は吹っ飛んだ。

 直ぐに立ち上がったハーリーアーサーは森の奥へと逃げていく。


 俺たち二人は、息を荒くし、汗がだらだらの状態で倒れこんだ。


「サクト……ハーリーアーサーの技をコピーするなんて、お前……初めて見たぞ? 人間が……」

「ほんとです。それに何? あの技の量は。異次元よ」

「まあ……いろいろあって……」


 俺の技のコピー能力は、ハーリーアーサ―でも通じるようだ。

 それに二人は俺の行動に明け暮れている。


 どちらかが欠けていたら、必ず死んでいただろう。

 これを一人で倒す上位生はまだまだ程遠い。それにしても倒せてよかった。

 まあ倒してはないけど。


「って言うか、準ハーリーアーサ―って言ってたよな? これは完全に正ハーリーアーサ―だよ」

「何でこんなところに正ハーリーアーサ―が……」

「何か妙な異変を感じるわ……」

「ひとまず、喫軌本部に行って、運営に状況を説明しよう」


 俺たちはチェルシーとともに、急いでマゼラ森林を出た。


「おー。帰ったか。どうだったか?」

「どうだったかじゃないですよ! あれはれっきとしたとした正ハーリーアーサ―ですよ」

「まさか! そんなわけは」

「いいえ、本当です。準も正も見たことがあるので違いは分かります」

「嘘をついているとは思わないけど……もし本当だとしたらどうしてこんなところに……」

「それは分かりませんが……」

「というか、本当に正ハーリーアーサ―が出たというなら、それを追い払った、又は倒したという訳ですか?」

「はい。ここにいる二人が追い払いました」

「嘘……二人はまだ下位生のはずじゃ……」


 やはり俺たちが倒したと言うと驚かれるか……

 ハーリーアーサ―の技の【ハーリー・ブラット】でぶっ倒しました。なんて言えないしなぁ。


「その通りです。でも倒した事実に変わりはありません」

「……信じがたい話だが、一度政府に問い合わせますね。もし本当と分かったのなら、相応の謝礼と、ランクアップを約束します」

「本当ですか! ありがとうございます! では、失礼します」


 俺たちは喫軌本部を出た。


「まあ結果オーライってところかな」

「そうね。どのくらい上がるのかしら」

「んー。少なくとも700000ランクまではいくだろうね」

「まじかよ! そんなに!」


 俺は思わず声を上げてしまった。


「本当にそんなうまくいくのかしら」

「さあね」

「じゃあ、私はここで失礼するわ」


 チェルシーは去っていった。


「本当に、こんなことあるんだな」

「んー……何かがおかしいんだよなぁ。準ハーリーアーサ―が突然現れたのはまだしも。正ハーリーアーサ―がマゼラ巣窟にいるだなんて……」

「そんなにおかしいことなんですか?」

「ああ。この辺には正ハーリーアーサ―がいない。だから低いランクの人でも安心して狩りに行ける」

「ってことは誰かが俺たちに?」

「さあ――」


「今日は疲れただろ、もう帰れ」

「ああ」


 俺は寮に戻った。


 後日俺たちは、クリスと一緒に喫軌本部に呼び出された。


「誠に申し訳ない。こちらのミスだったかもしれない」

「いえいえ、喫軌側の問題だとも思いませんし」

「これが謝礼だ」


 俺とチェルシーは一人ずつ、400000ゴールドの謝礼を受け取った。


「あとは、正ハーリーアーサ―をそのランクにもかかわらず倒したという事実も確認できた。よってその功績を称え、サクトはランク68091位。チェルシーは69920位とする」


 クリスの言っていた通り、俺たちのランクは莫大に上がった。俺よりも低いランクを与えられたチェルシーは少し不服そうだが……。


「それでは、今回の事がこれ以上起きないよう、こちらも最善の注意を払う。本当に申し訳なかった」

「いえ、ありがとうございました」


 そうクリスがお礼を言い、俺たちは喫軌本部を出た。


「それにしても、こんなお金とランク、もらっちゃって良かったのかな」

「何言ってるんだサクト。正ハーリーアーサ―が緊急依頼として出る場合は、報酬が500000ゴールドは超える。それに前も言ったが正ハーリーアーサ―は上位生が倒してやっと。5000位くらいの人がやっと倒せるのに、100000位すら一定いない君たちが倒した。二人だとしても、凄いことに変わりはない」

「なるほど……」


 あたりを見ると、チェルシーの姿はなかった。もう帰ったのだろう。


「っていうか、100000位を超えたという事は……」

「そうだ! 寮が個室に変更されるんだ!」


 別に誰かと同室だったところで、なんの不便もないし、むしろ楽しいくらいだった。でも、個室になったことにより、ランクが上がってきているという実感が湧いてきて、ワクワクする。

 俺は直ぐに寮に向かった。


「お! サクト、ハーリーアーサーを倒したんだってな!」

「いや情報速いな」

「あったりまえだ! しかも正の方。化け物かよお前」


 いきなり話しかけてきたのはガントだ。多分この部屋で一番仲良くしてくれたメンバーだ。


「しかも女の子と一緒に狩ったんだってな! お前まさか、付き合っているんじゃないだろうな……」

「いや、付き合ってないから……」

「付き合えよーサクト―」


 この修学旅行のような何気ない会話が好きだった。いざこの部屋から出るとなると、やっぱり寂しい。

 そして俺は、この部屋を今日から出る。という事を切り出すタイミングを失った。


「……」

「手伝おうか?」

「ん、何がだ?」

「いや、今日から個室に移動になるんだろ?」

「……知ってたのか?」

「もちろん、そりゃーね」


 切り出すタイミングを失っていたため、知ってくれていたのは嬉しい。


 俺は、同室のメンバーと一緒に荷物を片付けた。


「お前がいなくなるのは寂しいけど、旅立っていくわけだもんな」

「まあな」

「辛くなったらいつでも戻って来いよ」


 同室のメンバー全員が、笑顔で頷いていた。


「ああ。じゃ、またいつかな」


 そして俺は、個室に移動した。




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