第42話 新たな関係、新たな呼び方

 訓練生のダンジョンでの冒険は順調ではないが無問題もうまんたいで着実に進んでいる。

 順調ではない理由は両チームの抱える爆弾がいつ爆発するのか不発弾なのかが不明な点だ。

 ヒーローズはアンディとパトリオットの自己中心的な行動に、ポチョムキンの信仰由来の勝手な戦闘方法の選択。

 いつ誰が負傷、大怪我、重体、死亡となるか、その理由次第ではチームの不和だけでなく解散かそれ以上の事態もありえる。


 バルキリーの爆発は村人からスカウト参加した戦士のガルデニアだ。

 彼女は戦闘向きの人間性、瞬間的な状況判断能力、瞬発力、筋持久力、剣と盾を扱うセンス等を持ちながらも、戦闘に向かない性格をしているので、自分が冒険をする必要がある状況を作ったアンディとパトリオットを激しく憎んでいる。

 今は無視してるだけで、2人が近付いて来たら強く睨んで離れていくだけに留まっているが……


 最初こそ騎士と戦士の多さで安定した戦いを見せたヒーローズが上の階へと進んでいたが、アンディより先にバルキリーのリーダー・サマンサが探索者になった事で逆転。

 ダンジョンワープによりダンジョン内での移動時間が短縮されたので、上の階に長時間滞在可能になり戦闘回数が増えて早くレベルアップしていった。


 その日の夕方から毎日アンディが家を訪れ、親しげと言えば聞こえは良いが、無礼千万な態度で転職石を使わせてくれよと言ってくる。

 会話するのも面倒なので倉庫に収納しモハメド達の前で出して、あとは3人に任せて帰宅する日々が続いた。

 途中の休日に転職石を使ってみても奴に探索者は現れず、ありえない、おかしい等と不満を垂れ流し周囲の不評を買っている。

 どう考えても不発弾じゃ終わらない爆弾を前にして、今日も3チームのメンバーにストレスが溜まっていく。


「大丈夫、いやほんと大丈夫だって、今日こそ探索者出てるはずだって」


 当然、出ていなかった。


 △△▽▽◁▷◁▷


 俺達のチームはまだ名前がなく、ヒーローズとバルキリーからはシバチームと呼ばれている。

 モハメドチームよりもヒーローズ、サマンサチームよりもバルキリー。

 呼び方1つでメンバーの士気も少しは増えるらしいので、家にゲストのミツミを招いて俺を除いたメンバー7人でチーム名を決めている。


 俺は会議をBGMにしながら部屋の隅で新武器の開発にいそしんでいる。

 目指す完成形は片刃の直剣の背に銃身を、柄後部には魔力射撃の内部機構を持たせた遠近両用武器、その試作品だ。

 メカの素人が射撃用の変形機構を作れるわけもなく、この形からスタートするしかなかった。


「柄内部をどうこうしたところで魔力は貯めれないから、使用者の魔力を吸い取るか使用者が込めるしか思い浮かばんが、どうやったら吸い取れるのかわからないから使用者に魔力を込める練習してもらうしかないか」


 試作第1号だからといってガバガバである。

 そもそも魔力は集めて放つだけで攻撃力を持つのか、それとも手間をかけて変化を与えなければそよ風すら起こせないのか、そこから調べなければならないらしい。


 よく考えたら純粋に魔力だけを放ったのは転職石の1件だけだ。

 オークの干し肉を作った時は魔力をイメージで消防車やダムの放水ようにして水の出口を作っただけ。

 ニブルヘイムも魔力に複数のイメージを上乗せしてから放っている。

 攻撃魔法の曲射も片方は魔力とイメージの追加だ。


 大回復。

 改めて大回復を使ってみて魔力がどう変化している等を観察していく。

 2度3度4度と理解できるまで繰り返す。

 燃費は悪いが回復量が多いために魔力の動きも大きい、なので魔力を観察するには丁度良い術だ。


「シバ君大丈夫ですか、私も超回復を使いますから、気をしっかり持ってください、必ず治して見せますから!!」

「へっ?」


 見るとヴェルカが隣に膝立ちで寄り添っていて、アブラカタブラじゃないが超回復の詠唱をしているし、他の5人も心配なのか俺達2人の近くを囲んで眉を寄せて立って見守っている。

 あのミツミですら、遠くからこちらの様子を伺っている。

 あー、大回復連発したからか。


「すまんみんな、俺は無傷で無事だ。新武器の開発に必要な魔力の変化を観察するのに便利だったから大回復を使って観察してただけなんだ」

「はぁー、もう心配させないでくださいよ。急に回復術を何度も使い出すから何があったのかと心配したんですからね」


 エルネシアさんは大事だから2回言ったんですね、心配って。


「急に自分に回復を連続使用する等と我等に心配させる悪い彼氏が居るのだが、これはお仕置きしなくてはならないか?」


 レオーナ、めっちゃニヤニヤしてるぞ、本心を隠そうとしようよ。


「心配させた、お仕置き、罰、必要」

「そう大それたものでないが心に残り、もう2度としたくないと思える罰なら問題ないだろう」


 アマルディアもゼオラも賛成している。

 そして頷き合うネネとヴェルカの2大精神母性的彼女。


「シバ君には今夜私とヴェルカちゃんをママと呼んで貰います」

「それから今後は恋人兼母として接しさせて貰います」

「ちょっ、それは断固拒否する」

「そなたには無茶をせぬよう枷が必要だ、だが恋人だけでは逆に無理をしてしまう事もあっただろう、だから案外母というのも良いのかもしれん。そういう訳だ、賛成の者は挙手をしろ」

『賛成』


 ちょっとレオーナすわぁーん!?

 そして無慈悲にも挙がる6本の腕。

 挙げなかったのは拒絶を示していた俺と、蚊帳の外だったミツミだけだった。

 女神はウサギ獣人だったのかな?


「私は恋人同士の話しには無関係ですから」


 単に恋人じゃないから無難な対応をしただけだったミツミは、言い終えるなり部屋の隅に逃げ出していった。

 所詮村最強の男と言えど、和を以てたっとしとする日本人よ、民主主義の名の下に決めれた件に関しては従わざるをえない。

 例えそれが、不公平な多数決だったとしても。


「ほらほら今日はもう全部終わりにしてお風呂に入りましょう。シバ君は体を大きくするのに、今夜もママのおっぱいをたっぷりと吸うんでしょ?」

「ひっ!?」


 ミツミには誤解されたかもしんない。

 俺が恋人をママ呼びして母乳プレイをする変態だなんて。

 75日くらい逃げ出して隠れていたいよ。


 なおミツミはゼオラに風呂に誘われたが後からと辞退して、言葉通り後から入った。

 そして部屋の隅で客用布団に潜り込み、俺達の行為をガン見していたらしい。

 俺はママ呼びが恥ずかし過ぎてこれまでで初めてマグロになっていて、自棄やけになって求められたらなんでもかんでも聞いていた。

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