第23話 信を知り、未熟を知る
家に居ても退屈なので休日だがエルネシア達の冒険についてきた。
戦闘参加する気はないが、武具は装備してある。
「8階の牛には楽に勝ててる?」
「これでも若くして騎士になった優秀な才媛ですからね、あの程度の突進はそよ風みたいなものですよ」
……余裕で1トン超えてそうな猛牛の突進がそよ風……もしかして怒らせてたり恋人に成れてなかったりしたら、くるみ割りされてた可能性ががが。
暴力を振るう性格じゃないから杞憂なんだけども。
「2体同時に出てきても?」
「その時は私が1体ずつ戦えるように援護してるから」
「そうか。エルネシア、ネネの援護に問題は?」
「何かあればその都度話し合ってますよ。戦闘での下手な遠慮はパーティーの全滅に繋がりますから」
俺より2年は生死を賭けた戦闘経験が豊富なエルネシアなんだし大丈夫か。
あん?
「あそこ、鳥かモンスターが飛んでんな」
家ダンジョン間の道路から見て海側に、南西方向の空に小さな影が見える。
「私には見えませんね、ネネさんは?」
「私も見えないわね」
光属性なら届くだろうけどアイテム回収できないしな、無視でいいか。
「超長距離用の狙撃方法とかも必要かもな」
「まったくもう、休日なんですから仕事の事なんて考えずにリラックスしていてくださいよ」
「ん、ああすまん。なら別の、趣味とか考えてみるか」
「是非そうしてください」
ダンジョンに向かいながらファンタジーの王道について考える。
魔法とその使い方だ。
普通魔法はゲームみたいに固定された魔法しか使えない。
しかし魔力を余分に込めれば威力やサイズが際限なく増していく。
それに想像力とそれを実現できる魔力操作技術さえあれば、数の制限はあれどオリジナル魔法が作れる。
だったら魔法剣は作れないか?
武器、この場合は剣身に火や雷を纏わせて敵を斬る魔法剣なのだが。
普通に考えて剣が痛むし金属だから熱で持った手が焼ける、それに雷ならグリップの材質次第で通電する可能性もある。
岩や氷なら硬い敵相手への鈍器になるが、どうだろうか?
水は相手が濡れるだけなので無駄、風はイメージ次第か? 相手が切れるのか暴風を纏って弾くようになるのか。
光には邪悪を払う力もあるので悪魔とかが居るなら効果はありそう。
闇は重力で相手を押し潰す超重量鈍器を剣で再現できそうだが、これも剣身が持たずに砕けるんだろうなー。
なら魔法をそのまま武器の形にするのは?
さっきと同じ理由から火と雷はダメで水も無駄。
岩と氷は最初から鈍器を装備すればいいだけ。
風は不明でイメージ次第。
よく考えたら光属性はその速さが最高の持ち味なんだから、武器にすると弱くなっちまうと思うので却下。それを試すためだけに誰かのオリジナル魔法枠を潰せない、近場だとネネ。
ネネなら良いよと言ってくれそうなんだが、一生物なので甘えられない。
闇なら魔法使いのパワー不足を補える武器になりそうだが、よくよく考えたら魔法使いが接近戦しなきゃならない段階で安定して戦える相手じゃないんだから逃げるのが正解か。
だったら曲がる魔法は、通常魔法を曲げる方法はないのか?
前衛の頭上を超えてから落ちて敵を攻撃する魔法とか不可能なのか?
異世界でも考えた魔法使いは居ただろうけど、その魔法使いは魔法の曲射をどれだけの期間研究した?
資料がないからわからない、エルネシアに聞けば知っているかもしれないが、趣味でやってみるだけなので答えは聞かなくてもいいだろう。
ロックタワーだって魔力増し増しにしたら、円塔のはずが倒れないように円錐型になったのだから、何かしらの変化を与えるのは不可能じゃないはずだ。
あとはさらなる魔法の発動短縮についてだが、ダンジョンに到着したので冒険見物しながらにしよう。
△△▽▽◁▷◁▷
8階にダンジョンワープしてボス部屋へ案内する。
2人が安定して牛を倒す姿を見ながら魔法の曲射の続きを考える。
どの魔法も発動したら魔力の繋がりはなくて、ロックタワーなんかを消す時も魔力が繋がる感じはしてない。なのに消せる。
この事から通常では感じられない何かしらの繋がりは残っていると予想できる。
魔法で出した水は飲んだ相手との繋がりになるから遣った魔法使いでも消せなくなるし、自分が飲んだ場合でも自分の魔力ではなく自分の肉体との繋がりができるからではないだろうか?
ふとおもいつき、ロックシールドを発動し落下した物を倉庫に収納する。
それから取り出して消せるか……消せる。
から2枚結合させてからなら消せるか……消せない。
魔法の魔力は最も近い魔力と結びつきやすい?
使用しただけなら安定していて、加工して魔力が流れ2つのシールドが結合した事で、シールド2つの魔力も結びつき俺から離れたとかか?
魔力を原子や分子モデルとして考えたら?
余計複雑そうになるから止めるか、ゲーム的検証はできても原子分子までいくと中学生の考えが及ぶ範囲じゃない。
見えない繋がりがあるっぽいと、なんとなく証明できた感じのする実験が終了し、ボス部屋へと到着した。
△△▽▽◁▷◁▷
「これまでの感じ、ボスはノーマルより1階分強いし1体受け持とうか?」
「私達なら平気ですよ」
「うんうん、シバ君はもうちょっと恋人の事を信じてみてね」
「へい、お嬢様方の仰せの通りに」
「なんです、それ」
「うふふふ」
2人に心配事解除させられ2人がリラックスしたので、改めてボス部屋に入る。
ボスは各階の最大数が出てくるので、8階は2体の牛が出てくる。
壁にもたれながら2人の戦闘を見物するしようか。
部屋の中央に魔法陣が現れるとネネが手前にロックウォールを発動、それを足場にしてエルネシアが魔法陣の奥まで跳んだ。
そして牛が現れると魔法陣が消えるより速く向かって左の1体の腿に剣を深く突き刺し引き抜いた。
出現したら目の前には壁があり後ろ足には激痛が走る。
負傷し叫ぶ牛から引き抜いた剣を今度は向かって右の牛の腿に突き刺し、引き抜きながら飛び退った。
「ほう、やるねぇ」
違うターゲットへの高速二連続突きに感心していると、走りながら詠唱していたネネがロックウォールを回り込み、負傷したモンスターが一列に並ぶ位置で立ち止まり。
「我が心の求めるまま雷よ槍となれ、サンダーランス」
魔力を込めてサイズと威力を増したサンダーランスを放った。
放たれたサンダーランスは2体のモンスターを貫通しダンジョンの壁にぶつかって消えていった。
サンダーランスが先に当たった個体はまだ動けるようだが、奥に居た個体は麻痺したようで床に倒れ痙攣している。
「こっちよ!!」
麻痺していない牛の注意がネネに向かうのを、反対側に移動したエルネシアが騎士の敵意集中を使い自分に向け直す。
ネネの方へと向きかけていた牛は反転しエルネシアへの向くのだが、もう1体の倒れた牛が邪魔をして直進できない。
後ろ足も負傷しているので倒れた牛を避けて回り込むにも時間がかかる。
そうして手間取っているうちにロックウォールの後ろを通りエルネシアの隣に移動したネネに魔法を連発されて消滅。
その後倒れていた牛も麻痺が解けぬまま首を切られ失血死した。
魔法の威力と連射速度でゴリ押しする俺とは違う、非常に戦闘慣れしていて連携の取れた華麗な勝利だった。
これは本当に思っていた何倍も2人は強く、俺のしていた信頼は独りよがりの上辺だけのものだったと理解させられた。
「ふふんシバさん、どうでしたか私達の戦いは?」
布で剣の血を拭いて鞘に収めたエルネシアに感想を聞かれる。
「いや正直脱帽した、俺の思ってた何倍も強いし戦闘慣れしてるし、視線すら交わらせない無言の連携も信じられないくらい上手いし、俺こそ魔法の威力に頼った素人だと思い知らされたよ。なんだったら師匠と呼んだ方が?」
「や、止めてくださいよ、そんなに褒め倒しても何も出せませんよ」
「シバ君、これからは私達に任せて、休日はしっかり休んでくれるわよね?」
「ああ、こと戦闘に関して2人に任せられない事はないと思い知ったよ。だから安心して任せて、部屋でゴロゴロさせてもらうよ」
こうして俺は本当の意味で2人を信頼し、自分はまだまだ子供で知らない事ばかりなのだと思い知らされたのだった。
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