俺の“義妹”は愛らしい。

唯月

第1話 プロローグ

朝は嫌いだ。

夢という異世界から突然に連れ出される。

そんな朝が嫌いだった。


でも今はそんなことはない。

朝は大好きだ。


何故か。


それは去年の出来事に遡る。




母親は俺を産むと同時にこの世を立ち、俺は父親と2人で15年間生きてきた。

これからもきっとそうだ、と当たり前に捉えていた。そりゃ俺も母親が欲しいとは思ったこともあったが口には決して出さなかった。

出してしまったら母親が本当にいないことを痛感することになるから。だから俺は決して言わない。

漏らしていたとすれば姉や兄もしくは弟が欲しかったな。と口に出してたぐらいだ。



俺が16歳の春を迎えた頃、

父親が再婚した。

俺は特に怒りの感情も何も湧いてこなかった。

むしろここまで男一人で育ててくれた。という

感謝の思いの方が強かった。

だから俺は素直に祝福した。


父親が新しい母親を連れてきたのは

それから3日後だった。


新しく母親になる人はとても綺麗な人な人で服装からも伝わる上品な人だった。歳も30代前半と若く、少し童顔で俺はお姉さんができたみたいで少し嬉しかった。


「はじめましてだね。この度義隆さんと結婚することになりました。紺野 夕菜(こんの ゆうな)です。これからよろしくお願いします。」


いい終わると頭をペコペコさげにこやかにこちらに視線を向けている。

ちなみに義隆(よしたか)とは俺の父親の名前だ。男らしい名前で羨ましい限りだ。

父親からの視線も相まって俺は口を開く。


「はじめまして。俺は神田 楓夏(かんだ ふうか)といいます。これからよろしくお願いします。」

「楓夏くんか〜。いい名前だね!私は好きだよ。これからよろしくね!!」


一瞬”好き“と言われてドキッとしてしまった。


それもこれから母親になる人相手に。俺もまだまだ思春期なんだなと思うとなんだか和らいだ。


いい名前。


これを俺はよく言われる。確かに言う時の響きはかっこいいと思うし俺も好きだ。でも一見男か女かわからないので俺はあまりそう言われるのが好ましくなかった。

だがしかし、夕菜さんに言われるとなんだか素直に嬉しかった。この人は多分裏表があまりない人なんだろう。本心から言ってくれている。そう思うだけでとても嬉しく思えた。



その時、夕菜さんの後ろに隠れている俺と同じぐらいの女の子の存在に気がついた。

俺は遠目に様子をうかがうと、その子は少し照れながら俺に向けて自己紹介をしてくれた。


「......私は紺野 有栖(こんの ありす)。歳は今年で15歳。好きな食べ物はオムライス。......あ、あとお兄ちゃんが欲しかった...から、嬉しい..........。」


俺は同じ生物に見えなかった。


な、なんてかわいいんだ妹とは!!


歳は今年で15歳と言うことは俺の一個下のようだ。あとオムライスが好きらしい。


俺の大好物じゃないか!!


作って貰いたいかも。それにお兄ちゃんが欲しかったとは..........。俺はどうやら勘違いしていたようだ。俺が本当に欲しがっていたのは.....


妹だ!!


俺はこの後心から父親に感謝した。


俺が暮している家はとても広く空き部屋もあるぐらいなのだが何せ男2人暮らしで15年なのだ。家政婦さんを雇ったりもしなかったのでお世辞にも綺麗な家とは言えなかった。だから男友達はもちろん女の子なんてまさか入ると思わなかったので俺は今から入ろうとしている有栖を見てドギマギしていた。

俺のその視線に気がついたのか有栖が俺に話しかけてきた。


「もしかして....私、お邪魔でしょうか......」

「いやいや!そんなことないよ!!」

俺は慌てて否定した。

その様子を見て有栖は失笑し、お邪魔します。と柔かな笑みを浮かべ入っていった。



家に入ると父親に“大事な話があるから先上あがってて“と言われたので俺はおとなしく自室のある2階にあがる。有栖は俺の後ろをついてくる。まあ俺の部屋に見られて困る物とかは無いので普通に部屋に通した。しかし有栖の様子がおかしい。その場で立ち尽くしている。俺は一瞬わけがわからなかったが部屋を見渡して納得した。


そう、俺の部屋は完全なるヲタ部屋だったのだ。


部屋の中にはライトノベルの人気タイトルを始め、マンガなども合わせ約2000冊ほどの本たちが収納されており、白い壁にはそれを埋め尽くすようにタペストリーが飾ってある。

そんなヲタクにとっては神部屋なのだが普通の人ならどう思うのだろうか。

父親もヲタクなのでそんなことは考えたこともなかった。

これでは埓があかないと思い、有栖に告げる。


「他の部屋も見てみるか?」

「……………」

「.......有栖?」

「.......すごい.......」

「.............え?」


それ以上聞くつもりはない。

俺にはわかった。

有栖の目は輝いていた。


そう、紺野有栖はヲタクだった。


そこからの打ち解け合いは早かった。

俺たちはたった1日で仲良し兄妹と呼べるようになっていた。

そして次の日には


「お兄ちゃんおはよ!」

「おお有栖。おはよう。」


“お兄ちゃん“と呼ばれていた。


俺のシスコンの旅はここから始まったのでは。

と今なら思う。




今では有栖は朝俺を起こす度にベットにダイブしてくる。

正直痛い。でも怒る気にはならない。そこがやはり妹との距離感であり良いところなんだと俺は思う。

俺が目を開けるとかわいい妹の顔があった。性欲などは湧いてはこないがとてもドキドキしている俺がいる。目が合うと有栖は頬を赤らめる。それにつられ俺の頬も赤く染まる。



ーその理由が何なのかを今の俺はまだ知らないー

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