第15話 生贄
「お待たせしました」
城に連れられた私は、城内にある客室の様な場所で寛いでいた。
そこにシェナスが現れる。
馬車での話の続きをするために。
「仕事でしょ?気にしてないわよ。それより話の続きをお願い」
「魔神器という物をご存じでしょうか?」
シェナスの口にした魔神器という単語を、私は初めて耳にする。
当然それが何かなど知らない。
「いえ、知らないわ」
「魔神器はかつて魔王が身に着けていた装備の事です」
「魔王の装備?」
魔王と言うと、触手のイメージしかない湧かないのでぴんと来ない。
私が目にしたのは触手だけなので、それは仕方のない事だろう。
「魔神器はこの首都クロンより南にある、封印の祠に厳重に封印されています」
厳重に封印か。
まあ魔王の使ってた武器を適当に放っておくわけにも行かないので、当然の処置と言えば処置なのだろう。
魔王の体が引き裂かれ、各地に封印されているとカルアが言っていた事を思い出す。
魔王はきっと配下を使ってその封印の解除を行なっている筈だ。
そうなれば、当然それも回収対象にはなっているだろう。
「祠は少し前、魔物の大群に襲われています。何とか撃退こそしましたが、多くの血が流れ、攻撃の影響で封印もまた解けかかっています」
「その守りを手伝えって事?あたしなんかより、信頼できる国の騎士や兵士が守った方が良いんじゃないの?」
彼女はあたしを信じるとは言ったが、仮に魔女でなくとも異分子には違いない。
そんな人間が下手に加わるよりも、国の人間だけでしっかり固めた方が良い筈だ。
「聖女であった貴方なら、封印の儀の事は当然ご存じでしょう」
「ええ」
勿論知っている。
それも死ぬ程。
実際死んでるし。
「我が国で行われる封印の儀は特殊で、巫女であるレア姫様が行われます」
「え?そうなの?」
聖女が封印を施すのがガレーン流だが。
どうやらこの国では王族を巫女に見立てて、儀式をする様だ。
まあ封印されているのが武器なら、再封印の際私の様に命を落とす心配はないので、その辺りを王族が取り仕切っているのだろう。
「再封印の儀式の際には、巫女姫が自らの命と引き換えに封印を行なう様になっているのです」
「は?」
思わず変な声が漏れる。
安全だから王族が取り仕切っているのだとばかり思っていたが、実際はその逆だと彼女は口にする。
王族が生贄を率先して差し出す事に、私は驚きを隠せない。
「この国の成り立ちは、王族が魔神器を封印し魔物を追い払った事から始まっています。その為、王族が命を賭してその封印を守る事で王家の権威は守られているのです」
命を賭して国を守る……か。
そういうのはあまり好きではないが、まあ立派と言えば立派だろう。
少なくともあのバカ王子に比べれば遥かに。
「どうか、貴方にはレア様を守っていただきたいのです」
「え~っと、言ってる意味がよく分からないんだけども?」
「再封印の儀は命と引き換えに行われると言いましたが、実際は死ぬ必要などないのです。命を落とすのは力が足りない為。ですので、足りない力を貴方の神聖魔法で補って頂きたい」
成程、と納得する。
封印に使われる儀式の力はきっと、神聖魔法に性質が近いのだろう。
だから私が補助を行なえば、姫様が命を落さずに済むのかもしれないと彼女は考えた様だ。
「まあそういう事なら」
「出来ればその後、私と共に姫様を連れ出すのを手伝って頂きたい」
「は?」
今日は変な声を上げてばかりだ。
まあ命を捧げるだの、お姫様を連れ出すだの言われればそうなるのも仕方ない。
「仮に儀式で死なずとも、レア姫は命を落とす事になるからです」
そう口にするシェナスの表情は深刻そうだ。
そこでピンとくる。
王族が命を賭して権威を守っていると、彼女はさっき口にしていた。
つまり逆に言えば、権威を守る為には生き延びられては困ると言う事だ。
「謀殺されるって事?」
「はい」
「まさかそこまでやる?」
死んだ事にして表舞台には出てこなくなる位はありそうだが、流石に血族を手に掛ける様な真似はしないんじゃ?
そう思わなくもない。
「レア様の母親は庶子なのです。レア様だけではありません。巫女として命を落とした物は代々庶子の出が担います」
「それって……生贄として用意されてるって事?」
王族は普通庶民と結婚したりはしない物だ。
偶に火遊びの隠し子ぐらいはできるだろうが、代々となれば話は別だ。
明かにそれ用に用意されてるとしか思えない。
「はい。レア様は姫として扱われていますが、正確には現女王様の弟君が庶子との間に作った子を、女王様の娘と偽って戸籍を与えられています」
胸糞の悪い話だ。
権威を守るため、王族が犠牲を払う必要があり。
その犠牲を担わせるためだけに適当に作った子を宛がう……腐ってるとしか言いようがない。
「無茶な願いというのは分かっております!どうか、どうかレア様をお守りする為に力をお貸しいただきたい!」
彼女が少数で王都に向かっていた理由を察する。
例え途中で死んでも、封印の儀自体は他の人間にやらせればいいだけの事。
終わればレアが尊い犠牲として発表されるという分けだ。
「いいわ、任せて頂戴。でも逃げた後はどうする積もり?」
追手は確実にかかるだろう。
王家としては、生きている事が露見しては大問題なのだから。
ノープランで連れ出すには無理がある。
「それならばミディアム様が手筈されていますので」
「ミディアム様?」
「レア様のお父上です」
「そっか」
今回の一件と言い。
ガルザス王子と言い。
王族には碌なイメージがないが、どうやら少しは真面な人間もいる様だ。
どれ、いっちょ頑張るとしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます