第12話 別れ

「な!?貴様正気か?王子が折角下さった温情だぞ?」


「温情?」


そもそも聖女という肩書を言いがかりで奪ったのは、他でもないガルザス王子本人だ。

それを返してやるから喜べとか、鼻で笑わせてくれる。


「どうせ、追い込まれた上での苦し紛れでしょ?」


自分が魔女認定して追い出した女の力を必要とするぐらいだ。

ガルザス王子も苦しい立場に立たされているのだろう。

カルアの言葉が事実なら、魔王を復活させたのは王子という事になる。

場合によっては、王位継承権あたり剥奪されていてもおかしくはない。


「ぬ……く。口のへらぬ魔女め!」


遣いの配下の反応からもそれが分かる。

大体そんな状態の王子の元で魔王討伐に参加するなど、何をやらされるのか分かった物では無い。

無茶な作戦を言い渡されて、捨て駒にされるのが落ちだ。

だれがそんな話に乗る物か。


「さっさと帰ってガルザス王子に伝えなさい。自分の尻は自分で拭えってね」


私は椅子から立ち上がる。

アーニュもハイネもそれに続いた。

それは彼らから、殺気に近い敵意が発せられたからだ。

掛かって来るというのなら、返り討ちにするまでよ。

お店には悪いけど。


立ち上がった私達が本気で睨みつけると、二人はたじろぐ。

所詮は調査員、もしくは只の小間使いだ。

多少の訓練は受けてはいるのだろうが、私達の敵ではない。

本人達もそれが分かっているのだろう。


「今のままでは……お前は世界への反逆者として――」


「人の心配をするより、今後の自分の身の振り方でも心配したら?」


王子がこければ、その手駒は全員職無しだ。

勿論働こうと思えば幾らでも働き口はあるだろうが、王家から他所へ移れば当然環境は数段階グレードダウンする。

高慢な態度をとる連中にとっては、耐え難い屈辱だろう。


そしてそれは王子も同じ事。

それまで次期国王として踏ん反り返っていた男が、これからは弟に頭を下げる事になる。

いい気味だ。


「まあいいわ、付いてきなさい」


彼らが二人だけで動いていたとは思えない。

私達が動いた事でバレたと気づき慌てて接触しては来たが、直ぐに接触してこなかったのは、応援を待っていたからに違いないだろう。


一々応援の相手をしていてはキリがないので、私達はさっさと店を後にする。


「ま、まて!」


店から二人が追って来る。

易々と逃がすわけには行かないので、当然の行動だ。


私はそのまま路地裏に入る。

別に巻く為ではない。

人目のある所で大立ち回りをしたくなかったからだ。


「に、逃がさんぞ」


「逃げる気は無いわよ」


徐に間合いを詰めて、腹部に拳を叩き込む。

身体強化の補助魔法は歩きながらかけておいた。

男は私の強化された一撃であっさりと崩れ落ち、気絶する。


「ひっ!?」


続いて女の方にも当身を入れて眠らせる。

後二人……


「私はこのまま国を出るわ」


二人を見る。

居場所を知られてしまった以上、もうこの国には居られない。

普通に考えれば、ここでハイネやアーニュとはお別れだ。


「勿論、ついていくわよ」


「仲間は見捨てないって言っただろ?」


普通に考えれば有り得ない選択だ。

だが二人は笑顔でそう言ってくれる。


「ありがとう。二人に出会えて本当に良かった」


「へへ、気にすん――」


私は時間を止めて、手刀を彼女達の首筋に叩き込んだ。

アーニュは兎も角、ハイネは頑丈であるため念の為にもう一発叩。

時間を動かすと、二人はその場に崩れ落ちた。


「ごめんね」


二人に謝り、魔法を詠唱する。

神聖魔法の中には禁呪と呼ばれる、人の記憶を操る魔法があった。

高い魔法抵抗を持つ者には勿論聞かないし、精神力でも弾かれてしまう為、対象が気絶していなければ使えない魔法だ。


この魔法で4人の記憶を操作する。

私が本当に魔女で、アーニュとハイネが騙されて利用されていたと。

そして、本性を現した私に4人はこの場でやられたと。


「短い間だったけど……楽しかったよ。今まで本当にありがとう」


アーニュとハイネに回復魔法をかける。

二人が意識を取り戻しかけた所で時間を止め、私はその場を離れた。


さよなら。

バイバイ。

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