第5話 パーティー

「そういや聞いたか?アリーネ」


ギルド備え付けの食堂で食事を摂っていると、トレーを持った筋肉質な女性が私の前に座る。


私は今、アリーネと名乗っていた

流石に本名のままでは不味いので。


「何の話? 」


主語のない彼女の言葉に聞き返す。

此処で軽い女子高生辺りなら、適当に当りを付けて「聞いた聞いた」と軽々しく返しそうなものだが、私にはそういうノリは合わないので止めておいた。


「魔王だよ!ま・お・う!」


彼女の名はハイネ。

冒険者である彼女は農村出身であるため、姓は無く、赤髪のハイネが彼女を通り名となっている。


ハイネはその通り名の示す通り、真っ赤な髪を持ち。

その眦は吊り上がり気味で、勝気な目つきをしていた。

実際彼女は気の強い女性であり。

短気で男勝りも合わさって、よく他の冒険者と喧嘩していたりする。


「ああ、その話」


ガレーン王国で最近魔物の数が急増し、その陰には魔王の復活があるのではと実しやかに囁かれていた。


だがそれは下らない噂話でしかない。

何せ魔王は私が命と引き換えに封印している。

そう簡単に復活されては、死に損という物だ。


「魔物の増大に魔王の復活。燃えると思わないか?」


血の気の多い彼女は、下らない噂話を楽し気に口にする。

魔王復活でワクワクするとか、何処の戦闘民族よ?


「全然」


以前の私なら「魔王復活なんて不謹慎ですよ」と窘める所だが。

今の私はもう、聖女ではなく只のしがない冒険者だ。

一々詰まらないゴシップ話に、突っ込みを入れる様な野暮な真似はしない。


「相変わらずクールだねぇ、アリーネは」


「冒険者たる者、常にクールであれ。よ」


私が口を開くよりも早く、ハイネとのやり取りにローブを身に纏った少女が割って入ってくる。


長い黒髪をした彼女の名は、アーニュ。

おっとりとした目つきに、可愛らしい顔立ちをした黒目の少女だ。

彼女は開いている私の隣の席に腰を下ろす。


「なんだよアーニュ?お前飯食わねぇの?」


今はお昼時だ。

にも拘らず、何も手にせず席に着いたアーニュにハイネが尋ねた。


「ダイエット中なのよ。最近また……」


彼女は自分の胸元を見つめ、溜息を吐く。

本来、厚手のローブを身に着けていると体のラインが分かりずらい物だが、彼女の場合、胸元が大きく膨らんでいるのがローブ越しでもよくわかる。

どうやら最近、また一段と大きくなってきている様だ。


「何とかならないかしら……これ」


同じ女としては羨ましい限りの造形なのだが、彼女はその胸の大きさが悩みの様だ。

まあ確かに肩がこるとはよく聞くので、冒険者としてはマイナス面も大きい。


「ははは、いいじゃないか。男うけるする体なんだから」


「やめてよね。そういう下品な言い方」


楽しく談笑を続け、食事を終える――アーニュはダイエットの為見ているだけだったが。


「そろそろかしら」


「ああ、依頼者が来る頃か」


これから私達は依頼主と合流する。

相手はカルアという女性で、仕事内容は遺跡調査のための護衛だった。

向かう先はここから東に馬車で三日ほど進んだ場所にある、セベックの大滝だ。

どうやらその裏側に、特殊な遺跡が残っているらしい。


「しっかし。女一人で遺跡を調べるって、何調べるんだろうな」


「あら?別に一人じゃないでしょ?私達ワルキューレも一緒なんだから」


「いやまあ、そりゃそうだけども。そういう事じゃなくってだな」


私達はワルキューレという名でパーティーを組んでいる。

女性だけの3人パーティー。

冒険者は圧倒的に男性が多い中、私達が女性だけでパーティーを組んでいるのには2つの理由がある。


一つは色恋で揉めない為だ。

色恋で揉めて、駄目になるパーティーというのは案外多い。

短期の仕事ならまだいいが、長期の仕事の最中に揉めだしたら目も当てられないだろう。


二つ目は、女性が気軽に依頼できる点を考慮しての事だった。

今回の様に依頼主が女性単独の場合、ムキムキマッチョのむさ苦しい男だらけの護衛だと、依頼が非常に出しづらい物だ。

それに極端な話、男だけだと遺跡で乱暴される――ないとは思いたいが――可能性だってない訳じゃない。


そういった諸々の部分をケアして、一定の需要を確保できると考えて私達は女だけでパーティーを組んでいる。

実際、女性からの指名も多かった。


編成は武闘家である私と大剣使いのハイネの二人が前衛を務め。

魔導師であるアーニュが後衛だ。


因みに、以前私が罵られた魔女と魔導師は別物扱いになる。

その違いは、禁術に手を染めたかそうでないかの差でしかなかった。

まあそこが大きいと言われればそうなのかもしれないが。


「気になるんなら直接聞けばいいじゃない?待たせてはいけないし、さっさと行きましょ」


取り留めのないやり取りを始めようとする二人を制止した。

遅刻などしたら、信用に関わってしまう。

私は二人が席から立ちあがる様促し、手にしたトレーを食堂の出入り口で返して、依頼主との待ち合わせ場所へと向かう。

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