第3話 顔面パンチ

「見つけたぞ!魔女め!」


国境に差し掛かる辺りで、兵士達に取り囲まれる。

どうやら待ち伏せされていた様だ。


「換金したのは失敗だったみたいね 」


地下牢から脱出する際、当座の資金として色々と失敬してきた。

冤罪で私の私物――結構高価――な物が国には抑えられてしまっているので、その代わりだ。

文句を言われる筋合いはない。


のだが――どうやら換金した物から足が付いた様だ。

これから向かう隣国の状況――物の相場――が分からなかったので、どの国でも一定の価値のある金に変えたのだが。

完全に失敗だった。


「ふん、魔女め!どうやって逃げ出したのか知らないが、せめてもの情けだ。この俺手ずから始末してやろう」


兵士達をかき分け、一人の男が前に出る。

かつて私の許嫁だった男、ガルザスだ。


彼とは戦略結婚であったため、それ程深い思い入れがある訳ではない。

だが、仮にも婚約者だった男だ。

そんな相手に真っ先に裏切られた事実は――やはり癪に障る。


「貴方では無理よ。婚約者を平然と切り捨てる小物に私は殺せないわ」


「黙れ!反魂の儀式によって生まれた魔女が!」


激高した彼は剣を抜き、私に切りかかる。

私の足枷は付いたままだ。

魔法が無ければ容易いと考えたのだろう。


馬鹿な人だ。


私は堅牢な警備を抜けて脱獄し。

一人で国境付近までやって来ているのだ。

そんな私が、一筋縄でない事ぐらい少し考えたら分かるでしょうに。


「がぁっ!?」


私は彼の剣を容易く躱し、その顔面に拳を叩きつけた。

彼はその場でひっくり返り、潰れた鼻からはぼたぼたと血が滴る。

止めの蹴りを叩き込もうかと思ったが、止めておく。


逃げた魔女ぐらいの肩書なら、隣国に逃げ込んでしまえば追手を撒くのも難しくは無いだろう。

だがそこに王族殺しまで加われば、追及の手が相当厳しくなるのは目に見えていた。

腹の立つ相手ではあるが、ここはぐっと堪えるとしよう。


王子がやられて兵士達が一斉にかかって来る。

流石に同時に相手はきついので、時間を止めて対応する。


取り囲む兵士の数は20人。

その全ての顎に素早くパンチを決める。


能力を解き、時間が動き出すと「ぎゃっ!?」「ぐわっ!」と叫び声が響き、全ての兵士が吹き飛び、倒れ込んだ。

冷静に考えて、このチート能力が出鱈目だと再認識させられる。

まあ体力をそこそこ消耗するので、ずっと止めっぱなしというわけには行かないが。

それでも短期決戦においては完全に無敵に近い性能だった。


「では御機嫌よう。王子」


私は厭味ったらしくそう挨拶すると、駆け足でその場を離れる。

背後からは「誰かあの者を捉えよ!大罪者を殺せ!」というガルザス王子の叫び声が聞こえたが、それは無理という物だ。

なにせ追って来れない様にするために全員ぶちのめしたのだから。



こうして私はガレーン国を飛び出し。

隣国へと逃げ込んだのだった。

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