第6話 茶会のメンバー

 屋上での彼らとの出会いはあまりにも想像を超えていて夢でも見ていたのではないかと半信半疑だった。何故だかはっきりとさせたかった。本来ならなのに。


 彼らに対しての怯えはなく、夢でなかったならまた遭遇するかもしれないと部屋を出た。5階建てビルの中にある自分の部屋は2階なのでエレベーターは使わず階段を軽やかに駆け上る。仕事柄、体力には自信があった。


 屋上への出口の前でいったん立ち止まり息を整えたあとに重い鉄の扉を押すとギィーと不快な音が響いた。そこは錆びた鉄柵で囲まれたただけの以前と変わらないただの屋上だった。あの日と同じく星の瞬きは感じ取れない。


 「やっぱりそうだよね。」ぽつりと独り言を言って情けないような気分になる。私は何をやっているんだろう。


 祐樹のプロポーズに応えられなかった時から自分が自分でないような感覚が続いている。しっかりしようと幾度も思ってはみるが気が付くと迷子になっているような気がする。自分がこれほど未練たらしい性格だったなんて。悔しい。


 つい溜息が出てしまう。

 溜息をつくと幸せが逃げてしまうと言う人もいるが本当はストレスの軽減に効果があるのだと、少し前に誰かに教えてもらったことを思い出す。


 でも、このままここにいると更に気持ちが沈みそうなので長居はせずに部屋に戻ろうと思った。


その時だった。


「また、会えたね」としわがれた声がし私は目を見張った。先ほどまで確かに何もなかった空間に、いつの間に出現したのか例のちゃぶ台を囲む茶会ができていた。


 お婆さんの淹れてくれたほうじ茶はやっぱり美味しくて一口飲むと心が軽くなった気がした。


 そのほうじ茶に魅せられたのか、人恋しさに誘われたのか私はその日から夜の茶会の準メンバーとなった。影のない方たちとたわいない会話をしたり一緒に茶を飲むのは不思議にリラックスできた。彼らは必要以上に私のことを詮索するでも気遣うでもなく、そのことが心地良かった。


 以前にお爺さんが言っていた通り、ちゃぶ台の上にあるせんべいやミカンなどを食べても太ることはなかった。普通なら夜中に間食すると確実に太るのだけど。

 やっぱりあの世の物なんだ。私が参加する茶会はあの世とこの世のはざまなのようだと思う。

 

 影のない茶会のメンバーはお婆さん達4人とお爺さん1人だったが、本当はもう1人女性が少し前から参加しているらしい。タイミングが合わないのか私はまだ会えてはいない。お爺さんの話によるとその人はお婆さんという感じではないそうだ。どちらかというとできる女、キャリアウーマンのようだとおじいさんが言っていた。


私はその女性について興味を抱き、会えるのを期待して何度も屋上に通ったが希望は叶わなかった。私が参加するときに限ってその女性は欠席だったから。残念ではあったがと感じている。


 

 



 

 


 

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