第26話 生き甲斐

「セルゲヌ、この皿を洗っておいてくれ。」

「はい!おやっさん!。」


ゴシゴシ

遥か遠い銀河から地球まではるばるラーメン修行にきた惑星人(ネヴィト)セルゲヌはとある名もなきラーメン屋で修行していた。

特に名店という店ではないが。その地方ならではの親しませれてよいラーメン店であった。そこに遠方の銀河からきたセルゲヌはラーメン修行しにきていた。


ゴシゴシ

セルゲヌは真剣に皿を洗っていく。


「相変わらずせいがでるな。他の銀河からきた宇宙人と聞いて。直ぐに根を上げると思っていたが····。」


セルゲヌのラーメンの師であるおやじさんは深く感心する。


「俺の惑星レイケットは貧しくて。やっすい鉱石で生計を立てているんですけど。だからせめて上手いもんだけでもうちの惑星(ほし)の住人に食べさせたくて······。」


セルゲヌはラーメン鉢を一生懸命みがく。


「それで俺の店でラーメン修行にきたんかい?。変わっているな。故郷が貧しいなら材料とかどうするんだ?。特に豚とかの調達は別の銀河は難しいだろう?。うちは根っからの豚骨ラーメンだからな。」


おやじ自慢のラーメンは熟成に熟成させた豚骨スープが自慢の豚骨ラーメンであった。

セルゲヌの銀河にも豚という家畜はいるのだろうか?。似たような家畜がいても同じ種類出なければ極端にラーメンの味は変わってしまうものである。


「それに関しては大丈夫です!。式部組という組織が支援や後ろ楯になってくれたんです!。なんでも故郷がここ地球の日本のようで。店の資金や豚の調達。その養殖の場も故郷の北西銀河ラビングに設けてくれるそうです。借金や担保とかもなくて。ただ作ったラーメンを組のものに差し入れして欲しいというのが条件でしたけど。」

「式部組(しきぶぐみ)?。確か宇宙に旅立った日本のヤクザがいたな。確かそこの組の名が式部組だったような······。」


式部組はヤクザに対する警察の法制がより厳しくなり。日本の地でまともに仕事や会社を立ちあげることが叶わぬと知ると。そこの組長は早々に日本(地球)を見限り。組一家総出で宇宙に旅たったときいている。てっきりどっかの銀河での垂れ死んでいるかとおもっていたが。どうやらその宇宙ビジネスというものは成功したようである。


「俺、絶対上手いラーメンを作って故郷のみんなを喜ばせるんです!。」

「そうか····頑張れや!」


親方はそんな熱意のあるセルゲヌを深く応援する。

グツグツ

豚骨スープの入った圧力鍋をじっセルゲヌと見つめる。


「あんた?。」


そんなセルゲヌの様子を家内は不思議そうに首を傾げる。

グツグツ煮だつ豚骨スープが入った圧力鍋に近づき。煮だつスープをお玉ですくい。小皿に移しそれをセルゲヌはそっと口に含む。


「·········。」



「いいか、セルゲヌ。ラーメンてのは日々鍛練が必要なんだ。怠ければ怠けるほどそれはラーメンの味に出てくるものだ。客には些細な味加減かもしれねえが、俺達ラーメン職人にはそれが直ぐに舌で解っちまう。日々鍛錬を怠るなよ!。」

「はい、おやっさん!。」


·········

豚楽亭の建物から微かな豚骨スープに匂いが立ち込める。

セレブの生活を満喫し。自堕落な生活に酔いしれていたレイケットの住人中でとある一部の人間なその匂いにきづく。


「ん?何か匂わねえか?。」


二階の椅子で葉巻とワインを嗜む男が呟く。



「さあ、私の香水の匂いじゃないの。ねえそれよりもどう?私が新調した香水。ヘクサ-ギャラクシィでー番のブランド会社であるレケテアの新作の香水よ。」


身体を香水に振りかけた妻が夫である男に感想を求める。


「それよりもこの匂いだ!。何だか気になるだよなあ~。」

「もう!。」


夫の連れない姿に妻は不機嫌になる。

くんくん

「この匂いは何処から····。」


男が匂いを辿るととある看板が目に入る。看板の名には豚楽亭と書かれていた。


「そうか!豚楽亭のラーメンかっ!?。そう言えばあれ以来全然食っていなかったなあ···。」


男は昔レイケットの元坑夫であった。昔は仕事帰りによく豚楽亭のラーメンを食べにいったものである。

暫く豚楽亭のラーメンを食っていなかったことに男は気付く。惑星レイケット出身のS級宇宙冒険者ネガイミ・シルヴァーミのあかげで惑星レイケットは豊かになった。やすい鉱石を掘ることも無くなり。男は贅沢三昧の生活を送ることができた。しかし元坑夫の男は何処か満たされなかった。美味い酒や上手い料理。欲しいものならヘクサ-ギャラクシィ内ならな幾らでも手にすることができた。しかしそれでも彼は何処か物足りなさと虚しさを感じていた。贅沢な生活を満喫出来てもそれが己の幸せかと問えば男は正直にそれは答えらなかった。


「久しぶりに豚楽亭のラーメンを食いに行くか·····。」


元坑夫の男は久しぶり豚楽亭のラーメンの味恋しくなりが食べに行くことを決める。昔食べた豚骨のきいた懐かしい味再び味わいたいと思い至ったからである。


わいわい がやがや

豚骨亭のラーメン店の目の前で人集りが出来ていた。皆見知った顔であり。昔よく一緒に鉱石を掘っていた仕事仲間である。


「おう、おめえも来たのか?。」

「ああ、豚楽亭から懐かしい匂いがしてからなた。久しぶりに豚楽亭のラーメンを食べに来たんだよ。」

「おう、俺もだ!。あの濃厚な豚骨のだしが効いたスープ。ジュルり久しぶり涎が出るぜ。」

「家にいてもすることねえしなあ。」


坑夫達は豚楽亭の玄関扉に手をやる。


「親父!ラーメンを頼む!」

ガラガラ

坑夫達は意気揚々と玄関扉を開け亭主に注文する。

店内はガラリと空いており。すでに大翔とムムが店を出た後であった。


「········。」


豚楽亭の主人は気難しそうに豚骨スープの入った圧力鍋をじっと見つめている。


「悪いが帰ってくれ····。」

「おいおいおい、何でだよ。」


突然豚楽亭の亭主セルゲヌは断りの返事をする。元坑夫達は注文を拒否されるとは思わなかったので皆動揺し困惑する。



「ラーメンの匂いがしたのは知ってるんだ。」

「亭主。またあんたのラーメンが食いたくなったんだ。」

「頼むよ!。」


それでも折角食べに坑夫のお客達はセルゲヌにラーメンの作って欲しいとせがむ。


「悪いが半端もんを出すわけにはいかねえんだ!。今すぐ帰(けえ)ってくれ!!。」

「あ、あんた!?。」


ガラガラ 

セルゲヌはお客であるお客の坑夫達はそのまま店の外へと追い出してしまう。

全員が豚楽亭の玄関外へと追いやられてしまった。


「何でだよ?。セルゲヌ。」

「俺達はこれからどうすればいいんだあ?。」

「何を楽しみにして生きればいいんだ?。」


元坑夫達は口々にセルゲヌに文句を言う。


「知るかっ!。おめぇら坑夫だろうが!?。仕事しろやっ!!。」


びしゃ

セルゲヌは有無も言わさず坑夫達を冷たくあしらい。玄関扉を強く閉めてしまう。


「あ、あんた·····。」


そんなセルゲヌの様子に妻は困惑する。


「もう一度、もう一度ラーメンを作りなおすぞ!。完全に腕が落ちた!。こんな半端もん店に出すわけにはいかねえ!!。こんなんじゃおやっさんに顔向け出来ねえ!。」


地球での修行時代にお世話になったセルゲヌの師であった地球のラーメン職人のおやっさんは既に亡くなっていた。師の教え忠実に守っていたセルゲヌは半端なラーメンを出すことを己自身許せなかったのである。何より唯一のヘクサ-ギャラクシィの中でたった一人のラーメン職人であることに誇りを持っていた。

元坑夫達は豚楽亭の玄関前で途方に暮れる。


「たく、何だよ。折角久しぶりセルゲヌのラーメンを食いにきたのによ~。」

「全くだよ···。」


店から追い返された坑夫達は口々に文句を言いながら後も糞を垂れ出す。


「そう言えばセルゲヌは俺らの為に毎日深夜まで店を営業させてくれてたよなあ~。」


一人の元坑夫はふと昔の坑夫時代の頃を思い出す。


「うちらは確かに貧しかったが。それでもセルゲヌがいつも安価なラーメンを作ってくれたから次も頑張れたんだよなあ~。」

「俺は毎日毎日仕事帰りに食べるセルゲヌのラーメンを楽しみにしていたんだ。」

「·········。」

「·········。」

「·········。」

「·········。」


坑夫達の間に深い沈黙が流れる。


「···········仕事するか?。」

「そうだな。」

「俺、家に仕事道具に取りに行ってくるよ。」

「俺も。」

「俺も。」

「俺も。」


次々にレイケットの元坑夫達は各々の自分の家へとで戻る。


自分の家に置いてある仕事道具を取りに行く。

元坑夫達は物置や倉庫、二階の押し入れなどを漁り己の仕事道具を探す。


「あんた、何やってんの?。」


二階の押し入れを漁る夫に高価な化粧を趣味にする妻は顔を高級パックに覆いながら訪ねる。


「おい、俺の仕事道具どこだ?。つるはしとスコップを何処にやった!?。」

「つるはし?それなら離れの小屋に押し込めてあるけれど。」

「よっしゃー!。そこに有るんだな!。」


夫はドタドタと勢いよく二階かけおりてあっという間に離れの小屋に行ってしまう。

そんな意味不明な行動に化粧パック顔の妻は首を傾げる。

ガサゴソガサゴソ


「あなた、何しているの?。」


元坑夫の男が物置でガサゴソと漁る姿に妻は困惑する。


「おっと、あったあった。」


男の手には使い古されたつるはしが握られていた。


「御免よう。マイ、ルクセンブル。お前を放ったらかして。寂しかったろう···。」

スリスリスリ


昔の坑夫時代に使っていた愛用のつるはしであるルクセンブルという名のつるはしに愛おしそうに元坑夫の男は頬擦りする。

そんなことするその夫の妻はかなりドン引きしていた。


各々自分家に仕事道具を見つけた村の元坑夫達は次々と村の広場に集まり出す。服装も身なりのよい服装を脱ぎ捨て。軽装なヘルメット被り。作業ズボンと白シャツなどのシンプルな姿をしていた。




「身体鈍ってなきゃいいがな。」

「よっしゃー!久々に汗水垂らして働くぞい!。」

「何か仕事をしながら待つのが楽しみになってきたよ。この感覚はいつ以来だったか?。」

「久方ぶりだが。俺達にとっては苦にもならんさ。」


坑夫達は広場で勝手に盛り上がる。


ワイワイ ガヤガヤ


「何だ?何だ?。」


広場で仕事道具を担ぎ坑夫達が活気づく姿に店や家でだらけきっていたレイケットの住民達が物珍しげに見に来る。


「そんじゃ、行くか!」

「おーーーーー!」[坑夫一同]


坑夫達は掛け声をあげぞろぞろと行列を成して鉱山へと歩んでいく。


「ちょ、ちょっと!。みんな何してるの!!。」


そんな坑夫達の前に通せんぼするかのように一人の女性が立ちふさがる。貧しかった惑星レイケットに莫大な資金を援助してくれたこの惑星(ほし)出身のS級宇宙冒険者、ネガイミ・シルヴァーミである。後ろでネガイミの妹も現れる。


「何って、鉱山で鉱石を掘りにいくのさ。」


元坑夫の一人が迷いもなくあっけらかんとネガイミにそうこたえる。


「掘るって·····何を考えているのっ!?。もうそんなことしなくていいの!。もうあんな辛くて苦しい重労働なんてしなくていいのよ!。もう昔のように貧しい想いしてまで価値の無い鉱石を掘る必要性はないの!。みんな自由なのよ!!。」


ネガイミは激しく反発する。

ネガイミは援助前はどれだけ貧しく。レイケットの住民達が重労働を課せられていたか知っている。だからこそ前のような労働を強いいることは許せなかった。


「違うんだよ。ネガイミ。これは俺達がすすんでやりたいとおもったことなんだ。」

「おお、俺達はもう一度鉱山を掘りたいと本気でそう想ったんだ。」

「ネガイミには悪いと思ってる。この村に尽力してくれて。多大な援助してくれたんだからな。それに関しては本当に感謝している。」

「なら何で!、もう貴方達は無理して働かなくていいの!。もう無理する必要性はないのよ!。」

「俺たち全然無理していねえよ。寧ろ清々しい気分だ。」

「ああ、こんな晴れ晴れとした気分はいつ以来だったかな·····。」


坑夫達は目を輝かせ口々に語らう。


「ネガイミ。俺達は仕事するよ。それが俺達坑夫の相違なんだ。」


真剣な眼差しでレイケットの元坑夫達はネガイミを見る。


「何で····そんな意味ないことを。お金も充分にあるでしょうに。」


ネガイミが坑夫達の意味不明な行動が理解できなかった。

レイケットの坑夫達は皆ニカッと何の迷いもない笑顔を振り撒く。


「そりゃあ決まってるよなあ。」



坑夫達は皆踵を返すように相づちをうつ。


「仕事帰りの一杯のラーメンが最高なんだ!。」


ネガイミの見た坑夫は目が輝きに満ちていた。


「ラ····メン?。」

「そんじゃ行くぞ!おめぇら!。」

「「「おうーーーーーーーーっ!。」」」


ぞろぞろぞろ

元坑夫達はネガイミの静止も聞かずそのまま村の鉱山目指していってしまう。

ネガイミは膝をついていきいきと鉱山に向かうレイケットの元坑夫の姿を力なくみいいる。


「何で·····。」


ネガイミは働く必要性がないほどの財力を手にしたのにレイケットの元坑夫達の働く行動の意味が解らなかった。


「姉さん。もういいから。」


妹が姉の前にたち優しく声をかける。



「リミッテ···。」


ネガイミは妹の顔を見上げ。妹の名を口にする。


「姉さんは充分にこのレイケットの為に支援してくれたわ。でももう充分だから。私達はもう大丈夫だから。もう充分やっていけるから。だからもう心配しないで。」


妹リミッテの言葉につるはしやスコップを担ぐレイケットの元坑夫達の後ろ姿に視線を移す。



「私は間違っていたのかな····。」


ネガイミはこの村の為に充分に支援をしていた。しかしあれほどいきいきしたレイケットの住民達をネガイミはみたことがない。


「ラーメン····か。そう言えば私も暫く食べていなかったな·····。」


ネガイミもまた駆け出しの新米の宇宙冒険者の頃にセルゲヌの豚楽亭のラーメンを食べていた。それほど有名でもなかった頃に唯一ヘクサ-ギャラクシィ内で開店するラーメンが好きだった。


「また食べてみたいな···。」


ネガイミはふとそう呟く。




わいわいわいわい

こじんまりした店に活気のある客の声が沸く。

ずるずる ずるずる


麺の啜る音が店内に木霊する。

酒を飲みかうものもいる。


「おっちゃん。替え玉一つ。」

「あいよ。」


ざっざっ


沸騰したお湯に網で麺を水切りする。

夜が更けるまで惑星レイケットの唯一ラーメン店である豚楽亭の店内は笑顔と笑いが止むことはなかった。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


満足に目的のラーメンを食べることができたが。そのかわり罰として大翔は薬草摘みを強制的に手伝わされた。そこに思わぬ人物が来訪する。


次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第27話

     『突然の来訪者』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······

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