第23話 ラーメンの想い

ガランと静まり返った店内で今の時代には珍しい紙製の新聞を広げ。その店の亭主は椅子に腰掛け。唇をへの字に曲げて気難しそうにその紙製の新聞紙を眺めている。

そんな態度をみせる亭主に家内と思われる妻がは複雑そうに眉を寄せる。


「あんた、もうラーメンは作らないんかい?。」


豚楽亭の亭主である彼はラーメン屋でありながらラーメンを作ることをやめていた。


「け、てやんでい。この惑星の客はもう誰も家(うち)のラーメンを食いにきやしねえよ!。なんせ、この惑星(ホシ)の住人は働かずとも食っていけるようになったんだ。どうせレイケットの住人は自分家(じぶんち)でヘクサーギャラクシー(六角銀河)中から取り寄せた上手い食材を駆使した高級料理を食ってるさ。今のご時世、北西銀河ラビンクからも宇宙出前で飯を手軽に取り寄せることもできる。わざわざ庶民の飯でもあるラーメンを喰いにくる物好きいねえよ。け、うちはもう廃業廃業だ。」


豚楽亭の亭主は吐き捨てるように投げ槍な言葉をかける。


「でも、あんた····。」


ラーメンの亭主の妻は何か言いたげに声を詰まらせる。


「それに、別にうちらもラーメン作らなくても食っていけるほど裕福になったんだ。構やしねえだろう。」


バサッ

豚楽亭の亭主は無造作に紙製の新聞紙を広げ。不機嫌にそっぽを向く。


「あんた····」


家内はそんな亭主の姿に何処か哀しげな眼差しを送る。

ガラガラ


「あら?いらっしゃい。」


久しぶりに店の玄関扉が開き。思わずラーメン亭主の家内は返事をしてしまう。

確かに店は閉店とは看板として置かれていなかったが。実際店内ではラーメンさえも作っていなかった。


「ラーメンを頼む。」

「キィ。」

「あら?」


家内は二人の姿をみて驚く。黒髪の肌色の青年はおそらく地球の惑星人(ネヴィト)だろう。夫からラーメンの修行時代によく地球の惑星人(ネヴィト)のことを聞かされていた。そしてもう一人はコジョ族のようだ。白い胴体にくりくりとした黒目に小さな白い耳がちょこんと頭部の左右についている。


「悪いが。もう、うちはラーメンをつくってないだ。帰(け)えんな。」

「あ、あんた····。」


豚楽亭の亭主は入ってきたのが地球の惑星人(ネヴィト)とか確かめもせずただ冷たくあしらい追い返そうとする。


「ご免なさいねえ、うちの亭主が。うちはラーメン屋だけど今はラーメンをつくっていないのよ。店を閉めている訳じゃないだけどね····。」


妻は申し訳なさげに地球の惑星人(ネヴィト)と思われる青年とコジョ族に深く謝罪する。


スッ ガタッ

「なっ!何だっ!?。」


突然青年は飛び出し。ラーメンの亭主が腰掛けている椅子の前で膝をつく。その時初めてこの青年が地球の惑星人(ネヴィト)だと豚楽亭の主人は知る。


「お願いだ!!。俺に!俺にラーメンを喰わせてくれえーー!!。頼む!。」

「キィ、お願い!。」


大翔は両手を前につきだし。ひれ伏すように頭を深くさげる。それになぞってムムも大翔の隣で同じ真似事をする。


「こ、こいつはまさかっ!?地球の日本の国に伝わる伝統的な謝罪とお願いの両方の意味を持つ究極の礼儀作法、DoGeZa,!。」


豚骨亭の亭主はラーメンの修行時代に日本にいたので大翔の行った礼儀作法がどんなものか充分に理解していた。


「俺はあんたのラーメンを食べるためにはるばるこの銀河までやって来たんだ。このまま食べれないまま帰れない!。お願いだ!!俺にラーメンを!ラーメンを食べさせてくれええーーー!。頼む!」

「キィ、お願い。」



大翔は一心不乱にもう一度土下座したまま頭を下げる。

豚骨亭の亭主はそんな大翔の姿に大いに狼狽える。

ガバッ


「もうネテリークの植物だらけの料理は嫌なんだ!。頼む‼️」

「キィ、キィっ!?。」


ムムは大翔の発言にキョドる。

大翔がネテリークの植物だらけの料理が嫌と本心で言われ。ムムは困った顔でどう対応すべきか困り果てる。


「わ、解ったから!。もう土下座はやめてくれ!。ラーメンはつくってやるから!。」


あまりにも必死にラーメンを懇願する大翔の姿に豚楽亭の亭主は根負けしてまう。


「本当か!?感謝する!。」


大翔は目を輝かせ何度も亭主にお礼を言う。


「だが、ラーメンをつくるのにも3日は懸かる。まだスープの仕込みもしてないからな。家は豚の豚骨を使った正真正銘の豚骨ラーメンだ。豚も地球の日本から譲り受けて。北西銀河ラビンクにある万能養殖地である牧場惑星アラマキバで養殖している。


「本当か!?。この銀河で豚骨ラーメンが食えるのか!。」


大翔は豚楽亭の亭主がつくるラーメンが豚骨ラーメンである事実に更に目を輝かせる。


「なら俺がその豚をとりにいくよ。」

「でも、まだ生息しているか解らねえぞ。暫くほったらかしにして放置していたからな。」


亭主は渋い顔を浮かべる。


惑星レイケットが安価な鉱物資源に頼らずとも食っていけるようになり。豚楽亭のラーメン亭主は牧場惑星アラマキバに養殖していた地球産の豚の様子を一度も確認してはいなかった。

正直まともなエサも与えていないからもうとっくの昔に垂れ死んでいるか。野生化してるのではないかと思われる。


「それでも豚骨ラーメンが食えるなら何だってやるさ!。」


大翔は力強く意気込んで断言する。


「変わった地球の惑星人(ネヴィト)の小僧だな。何でそんなにラーメンに固執する。地球の惑星人(ネヴィト)と言えどもたかだかラーメンだろ?。庶民の食べ物だろ?そこまで必死に食べにくるような飯ではないだろうに?。」


ラーメンがこの北西銀河ラビンクにとって珍しい料理でも。地球の惑星人(ネヴィト)にとっては何処にでもある庶民的な料理の筈。必死に食べに行くような代物ではないはずだ。


「なに言ってるんだ?。そこにラーメンがあるから決まっているだろうが。」

「はっ?。」


亭主は大翔の素っ頓狂の返答に鳩が豆鉄砲喰らったように固まる。


「俺は宇宙冒険者だ。だからこの銀河体系の物の価値も理解している。俺にとってラーメンの価値はこの銀河の価値にも勝るものなんだよ。確かにラーメンの価値は地球にとってはそれほど高くはない。だがそのラーメンの価値も俺が勝手に決めているだけだ。俺が芯から食べたいと思うものならそれが宝石だろうが。遺物だろうが。未開惑星を買えるだけの資源だろうが。それに勝るものはないのさ。何故なら俺がそのラーメンの価値を俺が勝手に決めているからだ。誰が何を言われようとも俺にとって、そのラーメンはそれだけの価値があるのさ。」

「·········。」


大翔の言葉に豚楽亭の主人は衝撃を覚える。歳が半場も生きていない若造にそんな大事に啖呵を切るほど堂々と言い放ったのだ。そこに何の迷い揺るぎもない。正真正銘、本心に言い放ったのだ。



「じゃ、俺は豚をとりいくよ。惑星の座標を教えてくれ。」

「なら、サーチマーカーを持っていますか?。」


ラーメン亭主の家内は嬉しそうに前に出る。


「キィ、サーチマーカーは持ってる。」

「では牧場惑星アラマキバの座標を記録しますね。」

「キィ。」


ムムはラーメンの亭主の家内から牧場惑星アラマキバに座標を教えて貰う。


「それじゃ、牧場惑星アラマキバで豚を取りに行ってくる。待っててくれ。」

「キィ。」


大翔はラーメンの亭主の返事も聞かずに店を飛び出す。

二人はポツンと取り残されてしまった。


「······。」


豚楽亭の亭主は暫く黙り込む。

そして何か覚ったようにいそいそと厨房へと向かっていく。


「あ、あんた?。」


そんな夫の様子に妻は不思議そうな顔を浮かべる。


「何してる?。仕込みの準備をするぞ。豚骨だけがうちのラーメンの強みじゃないからな。他の材料も取り寄せんと。」

「あ、あんた。」


家内は嬉しさのあまりぐっと涙を堪える。足早に厨房の洗い場へと向かう。

久々に豚楽亭の厨房に活気が満ち溢れていた。


「さて、それじゃ、銀龍号に戻ろう。ムムは牧場惑星アラマキバの位置は解ったか?。」

「キィ、サーチマーカーに記録した。北西銀河ラビンクの宇宙空間を航行すれば解る。」

「よし!ならば急ごう!。」


大翔とムムは銀龍号の着陸地まで家々をすり抜け集落を出ようとする。



「もう、姉さん!。いい加減にして!。これ以上この村に支援しないで!。」

「ん?。」


門に向かい村の集落に出ようとすると丁度村の出入口の門前で姉妹と思われるレイケットの惑星人(ネヴィト)が激しく口論していた。惑星レイケットの惑星人(ネヴィト)はエルフのような長耳と額にνのような刻印なようなマークがついている。

姉の方は成人した女性かなり引き締まった身体をしている。妹の方はまだ年若い活発そうな少女である。口喧嘩してるというよりは妹の方が一方的に姉を責めているようであった。


「何故解らないの?。私達レイケット人は単価の安い鉱物の収入源のせいで。どれだけ辛い想いをしたことか。もう私達はみんな無理して働く必要性がないの。自由なのよ。ずっと楽に暮らせるのよ。」

「それが大きなお世話だっていうのよ!。姉さんは私達を充分に支援して貰ったわ。好きなことや。好きなもの好きなだけ村の人達は買えるようになった。感謝はしてる。でもそれだげじゃ駄目なの!。村の人達はそれだけじゃ幸せにはなれないのよ!。」

「何を言っているの?。レイケットのみんなはあんなに豊かで裕福になったじゃない。もう安価な鉱物資源を地道に掘って暮らす必要性がないの!頑張らなくていいのよ!。」



どうやら姉妹喧嘩の修羅場の真っ最中のようである。ここはスルーして素通りすべきだろう。豚楽亭の亭主にやっとラーメンをつくって貰えることになったのだ。余計なトラブルに巻き込まれたくはない。

村の集落の門前で喧嘩する姉妹に気付かれないように大翔とムムは村の門の脇で素通りしようとする。


「貴方達···。」


姉の方が大翔達の存在に気付いてしまう。

姉は大翔を見て怪訝な顔で睨み付ける。

大翔が腰ベルトについた拳銃が入ったホルスターを見て警戒したようだ。相手の姉の方も腰ベルトに銃の入ったホルスターを身に付けている。どうやら同業者のようである。

ここは穏便にすますためにも素直に身分を明かして通ることにした方がよい。同業者の対応によっては会話したいでドンパチする羽目になりかねないからだ。

大翔は渋々自分の身分をあかす。


「俺は小田切大翔。地球の惑星人(ネヴィト)の新米の宇宙冒険者。こっちがムム。ライセンス持ちの正式な宇宙冒険者だ。」

「キィ。」


ムムはえっへんという感じで白い長い胴体の胸元を張る。


「コジョ族に地球の惑星人(ネヴィト)。珍しい取り合わせね····。生体が貧弱な地球の惑星人(ネヴィト)が宇宙冒険者になるなんて。」


カチン

俺は少し頭にきた。

確かに惑星環境に耐えられない生体的にも貧弱とされる地球の惑星人(ネヴィト)が宇宙冒険者をやるのはおかしいとはおもうが。それでも面と前で言うことか?。


「ちょ、ちょっと姉さん失礼よ!。姉さんが失礼なことを言ってご免なさい。」


妹は素直に謝罪する。

どうやら妹の方か礼儀正しいようである。


『貴方達。宇宙冒険者だと解ったけど。何しにレイケットにきたの?。ここの資源も何もない惑星よ。あるのは価値ない鉱物だけ。探索したところで金目になるものなんてないわよ!。』


宇宙冒険者の姉は俺達がこの惑星レイケットを資源探索しに来たと思い込んでいるようだ。

別にここエヴェルティア(未確宙領域)ではないだろうに。


「ここの住人であるエネベという人に植物を送り届る仕事をすませて帰るところだ。エネベという人を知っているか?。」

「エネベ?ああ····ガーデニング好きのエネベさんね。ええ、知っているわ。」


エネベという名に宇宙冒険者である姉の警戒が和らぐ。取り敢えず誤解は解かれたようだ。



「失礼したわ。私は宇宙冒険者のネガイミ・シルヴァーミよ。宇宙冒険者をしているわ。」



どうやらこの姉が噂のレイケット出身のS級宇宙冒険者、ネガイミ・シルヴァーミのようである。

戦闘行わないのは正解だった。

S級なら絶対勝ち目なんてない。


「それじゃ、俺達は別の用があるから帰っていいか?。」


大翔はS級宇宙冒険者ネガイミに帰る了承を得ようとする。

別の事情であるラーメンの材料を牧場惑星アラマキバに取りにいく話は伏せて置いた方がよさそうだ。会話からしてこの村のものに作業させることを嫌っているようだし。


「ええ、お使いの邪魔してご免なさいさいね。同業者がこの惑星にくるのは珍しいから。」


誤解は解けたようでS級宇宙冒険者ネガイミは素直に謝罪してくれた。


「いいえ、では俺はここで失礼します。」

「キィ。」



大翔とムムは軽く会釈する。村の集落の門を通る。

その後ろ姿を二人の姉妹が眺める。


「エネベさんがガーデニングを趣味しているのわかるけど。何でいつもわざわざ手作業でしてるいるのかしら?。農作業ロボットやガーデニングロボットとか使えばすむ話なのに。」

「姉さん·····。」


S級宇宙冒険者はネガイミは趣味のガーデニングが解るが。何故わざわざ手作業するのか疑問に思っていた。

そんな姉の様子に妹は何とも言えない複雑な顔を浮かべる。


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豚骨ラーメンの材料でもある豚骨を入手するため。あらゆる家畜を育成できる万能養殖地、牧場惑星アラマキバに大翔は向かう。



次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第23話

     『牧場惑星アラマキバ』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······

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