第13話 囚われの少女


「これは一体どういことだ·····。」


全く状況が掴めなかった。

確かにクレフト夫妻からテントを借りて眠ったはず。それなのに俺とムムは銀龍号の船内にいて操縦していたのだ。普通ならあり得ないことだ。宇宙なのだから不思議なことが起こっても不思議ではないとよくいうが。これはどうみてもおかし過ぎる。俺は頭が可笑しく或いは錯覚幻覚を見ているんじゃないかと疑ってしまう。しかしこれは夢でも幻覚でもなくまぎれもない事実なのである。


「アウレさん。本当に俺のこと解りませんか?。」


家族連れの父親である宇宙冒険者は首を傾げる。


「いえ、矢張初対面ですよね?。私は貴方と初めて逢ったと思うのですが····。」


本当に覚えていないのか。惚けているわけでも茶化されているわけでもない。本当に俺のことを知らないようだ。昨日のあったことがなかったことにされている?。何故こんな状況になっているか理解出来ない。

俺は少し動揺する。

惑星探索でトラブルは付き物だが。これに関しては常軌を逸してる。

こんなとき俺はベテランの宇宙冒険者ザークの言葉を思いだした

宇宙冒険者は如何なる時もその状況を冷静に対処する。焦りは思考を停止させるどんな時も冷静さを保てと。俺はその言葉を喉に押し込み冷静さを保つ。

心を沈め冷静に事を対処する。先ずは現状の把握である。この事態が何なのか理解する必要性がある。


「すみません。どうやら人違いのようです。知人の男性に似ていたものでつい。」


俺は最初は素直に謝罪することにした。知っている知らないの押し問答の発展するよりは勘違いということですました方が得策だからだ。

ここで時間を潰しても埒があかない。俺の勘違いということで会話を進めることにした。


「そうですか。いや~、名前が同性同名でしかも似ているとは実際にいるんですね。まあ、確かに自分のそっくりな人は惑星で二三人いるといいますし。宇宙に同性同名でそっくりさんがいても可笑しくありませんからね。」

「そうですね······。」


大翔は少し言葉を濁すように返す。


「では改めて私はアウレ・クレフト。隣の彼女は私の愛妻ネウシ・クレフトです。」


アウレの妻はいつも通りの隣で丁寧に一礼する。


「どうも、アウレの妻のネウシです。宜しく。」


少し自己紹介が変わってしまったのは俺が先に口を出した結果か?。俺は一礼し挨拶する。

ムムは俺の隣でぴんと長い胴体を倒立させ。じっと夫妻を見ながら会話を聞いていた。

そういえばムムは昨日の記憶があるのだろうか?。会話の後確かめないと。


「俺は宇宙冒険者見習いの小田切大翔だ。この隣にいらのはコジョ族のムムだ。」

「·········。」


ムムが返事をしなかった。矢張昨日の記憶があるのか?。ムムはじっと夫妻を見るばかりである。


「この惑星には補給で?。」

「はい、そうです。」


本来ならこの異常な状況にさっさとこの惑星をおさらばすればすむに越したことがないが。しかし今は現状把握が優先だろう。そのまま惑星から脱出してもこの現象が続くなら意味がない。まずはこの現象が俺達の問題か。或いはこの惑星に問題があるのか確かめなくてはならない。


「補給ということはこの惑星で一夜過ごすつもりなのですかな?。」

「そのつもりです。」

「ならば私達のテントをどうぞ。予備もありますし。」

「お言葉に甘えさせて頂きます。」 


俺は素直にお礼を言って承諾する。

いつもの流れを変えるのは得策ではない。現状把握の為にもいつも通り振る舞い。


俺とムムはクレフト夫妻の簡易テントに入っている。


「さて、ムム。率直に聞くけど昨日のこと覚えているか?。」


ムムが覚えているか覚えてないかで行動が限定される。覚えていなければ実質俺だけでこの状況を対処しなくてはならないからだ。できれば覚えていて欲しい。宇宙冒険者としてまだ未熟の俺にはこの状況は荷が重すぎる。


「キィ、覚えている。大翔と一緒借りたテントで寝た。」


俺はホッと胸を撫で下ろす。どうやらムムは昨日の記憶があるようだ。だからクレフト夫妻の会話にも無言を貫いていたのか。


「ムム、この状況解るか?。俺には全然わからないんだが。宇宙では普通にこんなことが起こりうることなのか?。」


俺は疑問を投げかける。

俺よりもムムの方が宇宙冒険者として経験豊富だ。ライセンスも所持しているし。

ムムは白い頭をふるふると頭を振る。


「キィ、こんな現象一度も経験がない。ただ原因があるとしたら時間と空間だと思う。」

「時間と空間·····。」


俺は眉を寄せて顔をしかめる。

ムムが言ったように時間と空間がもし関係しているというのならそれは俺にとってはかなりの専門外である。ほぼ物理学の理科学の部類だろう。宇宙学、学問はほぼネテリークから教わっているが(ほぼ薬草学、植物学)。物理学、理科学は宇宙冒険者として必要最低限しか教わっていない。更にきりつめるなら研究者、教授、博士並みの知識が必要となる。宇宙冒険者にそれほど知識は求めていない。ならず者でもある宇宙冒険者には生き残る知性や知識があれば充分なのである。しかしこんな状況に陥るのならやっぱり物理学、理科学を学ばねばならないというのならばかなり頭が痛い。


「ムムは物理学、理科学は解るか?。」

「キィ、物理学?理科学?。」


ムムは知らなそうな単語に白い長い胴体が一緒になって首を曲げ傾げる。


「すまん。聞いた俺が馬鹿だったよ。」


こんな未開惑星に専門家なんているはずもないだろうが·····。さてどうしたものか。

パサ


「誰だっ!?。」


俺は咄嗟に腰ベルトのホルスターにおさめられた銃に手をやり身構える。

テントの外に気配がしたのだ。

テントの入り口からスッと入ってきたのはあの血の気のない全て諦め絶望を宿した瞳をした少女だった。クレフト夫妻の1人娘で確かルースリだったか?。

昨日は夫妻と一緒だったが今の出迎え時にはいなかったな。

俺は手にかけた銃を放した。

ルースリという少女は俺が銃に手をやり身構えても茂もしなかった。まるで全てのことに興味が無いと言ったような感じである。


「早くこの惑星から出て行った方が身のためよ。」


昨日と似たような会話ではあるが弱冠違う。最初に遭遇した会話が違ったからか。

俺はじっとルースリを睨む。

睨まれているのにルースリという少女それさえも興味がなさそうに振る舞う。


「何か知っているのか?。」


俺は問いかける。

しつこく惑星を出ていけというのだからこの状況に何か知っている可能性がある。


「記憶があるの?。」


ルースリという少女は少し驚いた様子で此方を見ていた。


「記憶があるっと言うことは昨日の俺達のことを知っているんだな。」


俺は警戒を強める。

相手は少女だが。もしかしたらこの現象を引き起こした元凶かも知れないのだ。相手が幼い少女でも宇宙では危険な存在になりえる。宇宙は未知である。どんなことを起こってもおかしくはない。


「昨日じゃないわよ。今日よ。」

「はあ?。」


意味不明なことを言われ。俺は間抜けな顔で聞き返してしまう。


「この惑星(ホシ)はずっと今日よ。昨日もなければ明日もない。ずっと今日。」

「何を····言っている······。」


意味不明な言葉を口にする少女に俺は少しイラっときた。


「記憶があるならさっさとこの惑星からでて行った方が身のためよ。でないと私みたいになるから。」

「おい!。」


俺の制止も聞かずルースリという少女はさっさとテントから出ていってしまった。


「何なんだよ·····。」


俺は再びテントに一夜に過ごすことになった。これで1日何も無ければその惑星をさっさとおさらばすればいい。あの少女の発した今日という言葉がずっと引っ掛かる。まあ、また1日この惑星に過ごせば解ることだ。

俺は再びクレフト夫妻から借りたテントの中で眠りにつく。


ぶおーん! ぶおーん!

警告音が鳴る。


「大翔!大翔!。」


ムムの声に俺はパッと瞼を開く。

視界が銀龍号のコックピットである。


「またかよ!。」


俺は吐き捨てるようにハンドルを掴み。ペダルを踏み船の航行を安定させる。

一度は混乱したが。二度目なので直ぐに対応できた。

ふおおおおおおお


ピー ピー

受信確認

発信元はクレフト夫妻だろう。

これではっきりした。

俺達は1日を繰り返している。

夜寝て明日の朝ではなく。夜寝て今日の朝に戻っているのだ。家族連れの宇宙冒険者クレフト夫妻にからかわれている可能性もあるが。それは無いだろう。実際イタズラに朝になったら宇宙探索船内の操縦席で操縦しているなんて手のこみ過ぎである。

原因は何なのか未だはっきりしないが。俺達はどうやらこの未開惑星で思わぬトラブルに遭遇したらしい。


「やっぱあいつが何か知っていそうだな。」


あの諦めと絶望を宿す死人のような瞳をした少女。原因を知るのか或いは彼女そのものが元凶なのか。はっきりさせなくてわ。


発信元である場所に到着する。

案の定コックピットの窓からテントを張っているクレフト夫妻が確認できる。娘はいないテントの中だろう。


バサッ

銀翼のはね地面に着陸する。

ハッチ扉が開き俺とムムは外に出る。


「やあやあやあ、君達も冒険ですかなあ?。」


家族連れの冒険者の父親アウレ・クレフトが出迎える。

この会話何度目だろう。いや、三度目だけどさ。

俺は同じ会話に段々ウンザリしてきた。


「俺は宇宙冒険者見習い小田切大翔だ。隣はコジョ族のムム。」


俺は早めに自己紹介を終わらせて。クレフト夫妻の娘であるルースリに問い詰めなければならないのだ。

いつも通りクレフト夫妻からテントを借りて一泊する。


「今日、テントに来ないならこっちから出向くしかないが。」


親しい間柄でもないのでルースリという少女にどうコンタクトをとるか悩んだ。矢張挨拶して此方から出向くしかないか。俺はそう思いムムと一緒にテントを出ようとしたが。そこに丁度クレフト夫妻の娘ルースリと出会す。


「やあ、また逢ったな。」

「またいたの?。」


死人のような諦めと絶望を宿した瞳をした少女は少し面倒臭そうな態度をとる。


「事情をしりたい。」

「事情?。」

「そうだ。二度体験して解った。この惑星は1日を繰り返している。テントで一夜を過ごしたら今日の朝になっていた。いや、昨日の朝か?。何だか混乱してきた。」


1日をサイクルしているのだから今日の朝とか昨日の朝とかもうどうでもいい気がする。


「今日の朝であっているわよ。この惑星は明日なんて来ないんだから。やっぱり記憶があるのね。だったらこの惑星からとっとと出て行くといいわ!。私とこの惑星に関わらなければ何度も続く。1日のサイクルし続けるこのループ生活を直ぐにおさらばできるわよ。」


ルースリという少女は何処か自暴自棄にふて腐れていた。


「矢張原因はこの惑星かお前に原因があるのか!?。」


俺は少女に警戒満ちた眼差しで睨みを効かしガンを飛ばす。親切心の家族連れの宇宙冒険者ではあるが。その娘の少女がこの現象の元凶であるなら話は別だ。

俺は警戒する。


「だったら何?。私を殺すつもり?。言っとくけど私は死なないわよ!。何度も何度も何度も何度も自殺しようとしたわ!。それでもまたあの1日の朝に引き戻されるのよ!。偶然通りかかった宇宙冒険者達に家族に内緒でこの惑星を出たこともあったわ!。だけどそれでもまたこの惑星(ホシ)の1日の朝に引き戻されるの!。親切に私を船に乗せてくれた宇宙冒険者達も私のことを忘れ。また最初から初めから同じやり取りをするのよ!。何度も!何度も!何度も!。私の家族にもこの惑星から出ようと何度も説得したけれど駄目だった!。何かの強制力が働いてるのか。この惑星から出ようとしなかった!。私はこの惑星に五年もすごしているのよ。五年よ!五年!。同じ1日を五年間も繰り返しているのよ!。もう私は頭がおかしくなりそうよ!。私はこの牢獄というなの惑星から一生出られないのよーーーーーーー!。」


ルースリという少女はヒステリック起こし。血走った目に涙をため。たかが外れたかのように悲痛と怒りと慟哭の激情をぶちまける。あまりにもの彼女の剣幕に俺は気圧されてしまった。


「貴方達さっさとこの惑星から出ていきなさい。そうすれば普通に時間が流れるから。この惑星や私に関わらなければ普通に1日が過ぎる日常に戻るから·····。」


ルースリは声のトーンを落ち着いていた。五年以上もこの惑星で生きてきたから全て諦めいるのだと察した。1日のサイクルを何度も繰り返し。ある意味孤独の中を彼女は生きてきたのだ。その絶望感と喪失感は計り知れないものがある。


「原因は解っているのか?。」


俺はそれだけを呟く。

五年もこの未開惑星ですごしたというなら原因が解っているのではないかと俺は推察した。


「ええ、私は何故この惑星を何度も1日サイクル繰り返す羽目になったか五年間の間に原因をやっと突き止めたわ。」


彼女の死人のような瞳が地面に落ちる。


「運が良かった。いえ、運が悪かったのね。エヴェルティアのこの未開惑星は一周忌に一回数秒単位で自転が逆回転するの。私達家族はそれに巻き込まれた。更に運が悪いのは私だけが昨日今日の記憶を引き継いでいることよ。私も父と母のように昨日の記憶がなくて1日を人形のようにすごせればどんなに良かったか····。私はもう何処にも行けないのよ。宇宙冒険者なのに。何処にも·····。」


ルースリは悲痛な顔を浮かべ唇が歪む。

俺は悲惨な境遇の彼女にこれ以上何も言えなかった。



俺はテントの中で横になっていた。原因は解った。この未開惑星とあのルースリという少女が原因である。俺は天文学が物理学はよく解らないが。同じ1日を繰り返すのはこの惑星の自転が逆回転したことにより。その1日の時間のサイクルをあの家族連れ宇宙冒険者が巻き込ま囚われた結果なのだろう。どういう原理かは俺には解らないが。そもそも原因は解っていても解決しようがないのだ。

この惑星の1日サイクルに巻き込まれた彼女を解放する術など俺は知らない。


俺の横でムムで無言のまま蹲っている。


「ムム、どうしたらいいか?。やっぱこのまま見捨てて見ないふりした方がいいか?。」


ムムに答えが返ってくることを期待してはいない。だが不良である俺でもこれに関しては結構こたえた。


「キィ。大翔がしたいようにすればいい。あの娘はこの惑星の時間の流れに同調してしまった。一周忌の一回ある自転の逆回転を経験してそうなった。」


ムムは坦々と答える。


「解放する方法はあるのか?。」

「時間の流れを同調してしまったらそう簡単に抜けだせない。抜け出すには時間にズレを生じさせないと無理。」

「時間にズレを生じさせるって例えば?。」

「コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)に何十年も入るという選択もあるけど。でもこれで時間のズレを生じさせる確証はない。後は時間の流れが違う空間に行く手もあるけど。それでも時間が足りない。その前に元の惑星の朝に戻される。時間にズレを生じさせるということは朝眠る人間を夜起こすようなもの。」

「つまり時差のようなものか。」


俺の地球で地域によって朝と夜が逆転しているところもある。

ムムはふるふると白い頭をふる。


「キィ、そんな単純なものじゃない。平たくいえば昼を夜に変えるようなもの。それほど難しい。」


昼を夜に変える。そりゃあ確かに神様の領域だな。宇宙に神がいるのか知らんけど。


「現状方法は無いと····。」

「キィ······。」


ムムは哀しげに返事を返す。

手立てが無い。

諦めるしかないのか······。

諦めと絶望を宿した少女のくしゃくしゃになった顔が浮かぶ。

俺はふと上ポケットに添えているネテリークから貰った小さな蕾のついた花首を指で一撮みして。それを高く掲げ指先でくるくる回してみる。

ネテリークの言葉が頭の奥に浮かんだ。


『研究者が調べたところではこのトキネソウの周囲にはどうやら別の空間、時間が流れているようなのだ。だからいつ花が咲いたかも解らない気付かない。』

ガバッ!


「そういうことか·····。」


俺は横になった上半身を激しくゆり起こす。


「キィ、大翔どうしたの?。」


突然大翔の行動に蹲っていたムムも白い首を伸ばす。


「突破口が見えたよ。ムム。」

「キィ?。」


ムムは白い獣耳をぴくぴくさせ首を傾げる。


大翔の口筋がニヤリと不適な笑みをつくる。


「良いスリルだ····。」


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


未開惑星で同じ1日繰り返す不遇な少女ルースリ。不良少年大翔はとある可能性をみいだし。彼女にそれを提示する。


次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第14話 『時の花』


不良少年は荒波の海へと飛び込む····

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