銀河をこの手に！－試製事象蓋然性演算装置X-PC17－

第35話 皇都防衛艦隊２

　さきほどの星系内へのジャンプアウトと今回の安定宙域封鎖艦群との戦闘で、三隻の有力艦が光輝星系に出現したことは、クーデター政権の総本山である旧首都惑星出雲の航宙軍本部に知れたわけだ。先ほど撃破はしたが、その前に封鎖艦からのわれわれの観測結果が航宙軍本部に送られているので、直（じき）に皇都防衛艦隊に動きがあるはずだ。

　封鎖艦群を撃破後、低速で出雲方向に向かうわれわれ第１艦隊の三艦に対し、皇国防衛艦隊の旧式戦艦四隻と旧式重巡洋艦四隻からなる変則艦隊が、同じように低速で出雲近傍のラグランジュ点Ｌ１にある艦隊泊地より出撃したことが、広域探査システムからの情報で確認された。

　わが方は速度を調整し、皇都防衛艦隊と想定迎撃宙域で会敵（かいてき）できるよう誘導する。

　われわれの想定する迎撃宙域は、光輝星系の小惑星帯、アステロイドベルト。以前よりアステロイドベルトの全小惑星の自転、公転データは取得積みだったが、再度確定情報としてデータを更新している。アステロイドベルトをかすめるように航行する皇都防衛艦隊を、小惑星を遮蔽物として順次撃破していくいつも通りの作戦だが、今回はこちらは三隻、旧式戦艦数隻とその他の旧式艦の寄せ集めの防衛艦隊など簡単に殲滅（せんめつ）可能だ。

「ワンセブン、降伏勧告もせず、本当に皇都防衛艦隊を文字通り殲滅（・・）するのか？」

『現在皇都防衛艦隊の巡洋艦以上の大型艦では、艦長以下の艦の首脳部は航宙軍から送られた将官で固められています。皇都防衛艦隊は一概に反乱軍とはいいきれないため、降伏後は反乱軍として軍法会議で十把一絡げ（じっぱひとからげ）的に処理（しょけい）できません。一般兵には気の毒ですが、将来へ禍根を残さないためここで殲滅します』

　敵の各艦は旧式艦ということなので、それなりに搭乗人員も多いのだろうがやむを得まい。

「了解した。速やかに殲滅し、そのほかの障害も迷うことなく排除していこう」

　今の会話は、吉田中尉にも聞こえるようにワンセブンと交わしたものだが、吉田中尉からはこれについて、何もなかった。本人も腹をくくったと言っていたが、嘘ではなかったようだ。

　出雲を守る皇都防衛艦隊とその他若干の連中には気の毒だが、俺たちの未来のための礎（いしずえ）になってもらう。

　わが方と皇都防衛艦隊が小惑星帯を間に挟み、その距離を徐々に詰めていく。

「艦長、敵艦より通信入っています」

「吉田中尉、無視しろ」

　旗艦であるＴＵＫＵＢＡ以外の艦は外部との通信はできないように設定しているため、僚艦二隻が勝手に敵艦と通話することはない。

　どこのどういった艦が攻めてきたのかは知りたいだろうが、教えてやる義理はない。実験艦Ｘ－７１のときなら光学観測により艦形から判断できたかもしれないが、ＴＵＫＵＢＡ型についてのデータはクーデター政権側にはないだろう。正体不明の敵艦と思っていてくれればそれでいいし、こちらも心おきなく殲滅できる。

『敵（・・）艦隊、想定宙域に入ります』

「全艦、全兵装使用自由」

　これまでの戦闘であまり意識したことはなかったが、ＴＵＫＵＢＡ内のジェネレーターの低い振動が指令室内の艦長席にも伝わってくる。今の指令室の座席の構造からいって艦の振動が伝わってくることはないはずなので、気のせいかもしれない。

　これから行われる戦闘は、われわれを介さずワンセブンが進めていく。部外者と化したわれわれには何もすることはない。ただ結果の責任を取るだけだ。

　そんなことを思っていても、艦内ではいつものように主砲の発射態勢が整えられて行く。これと同じことが、僚艦のＩＫＯＭＡとＫＵＲＡＭＡでも行われているはずだ。

『１番、特殊砲弾装填、反物質充填開始。……充填完了』

『２番、特殊砲弾装填、反物質充填開始』

『ＴＵＫＵＢＡ、ジャンプ３０秒前、２８、２７、……、３、２、１、ジャンプ』

　いつもの一瞬の軽いめまいと同時に、モニター上のＴＵＫＵＢＡの至近に赤い点が８点映し出されていた。

『ＴＵＫＵＢＡ、ジャンプ３０秒前、２８、２７、……』

『２番、充填完了』

『３番、特殊砲弾装填、反物質充填開始』

『１番。目標、敵１番艦。照準良し。第１射、発射』

『２番。目標、敵４番艦。……照準良し。第２射、発射』

『……、３、２、１、ジャンプ』

　……。

　ＴＵＫＵＢＡ艦内にワンセブンの戦闘状況報告が続き、それが終わった時、皇都防衛艦隊は、砲弾をただの一発も撃ち出すことなく、無数の破片と残骸となり小惑星帯（アステロイド）を構成する小惑星となっていた。