第42話 大華連邦、星遷


 スラビア共和国の突然の自国領への侵入に対する大華連邦。


 このたびのスラビア共和国軍の侵入は大華連邦中央の指導層および軍部にとっては寝耳に水の出来事だった。スラビア共和国の侵攻軍に対して、二線、三線級の艦船からなる駐留艦隊を犠牲にしつつ入手したスラビア侵攻艦隊の情報は、主力艦8、巡洋艦20、その他艦艇多数というものと、侵攻軍は不遜にもスラビア共和国大華連邦人民解放軍・・・・・と自称していることだけだった。この侵攻軍の名称は、スラビア共和国第二方面軍司令官ミハイル・アントーノフ大将がつけた名称で、本人は皮肉の利いたこの名称を大いに気に入っている。


 主力艦を欠く現状では、大華連邦では迎撃のため会戦を企図するわけにもいかず、一星系、一星系と有人星系がスラビア軍の侵攻の前に陥落していく。駐留艦隊、陸上防衛部隊、住民に徹底抗戦指示を出すとともに最終段階においては主要施設の破壊を命じているため、陥落した星系内の有人惑星では降伏前の陸上防衛部隊により組織的に社会資本が軒並み破壊されていたため、惑星上の一般住民の生活は困難なものになっている。また、地下に潜伏した陸上防衛部隊の残存部隊がテロ行為を続け、多くの惑星が極めて劣悪な治安状況に陥っている。



 大華連邦の首脳部は、主力艦を欠き会戦を放棄している以上、首都星系の防衛は早々に不可能と判断しており、連邦外周部に犠牲を強いつつ時間を稼いでいる一方、首都の移転を開始した。移転先の星系は、スラビアからも皇国からも遠い辺境部に位置する一有人星系だった。


 ここ数カ月輸送艦、輸送船が皇国のものと思われる通商破壊艦により多数撃沈されているため、宇宙船輸送力がひっ迫する中、民間輸送を犠牲にして、首都移転が決行された。また、首都移転に際し、スラビアに占領された他の惑星同様、人工惑星や大型人口衛星、軌道エレベーターなどの宇宙空間構造物のほか、地上の各種施設をスラビア軍に再利用させないよう、完全破壊しており、さらに複数の地上部隊を地下に潜伏させている。


 遷都先の星系は数十年前に大華連邦に併合された小国の首都星系だったが、星系名はそれまでの名称から、エンアン星系と変更された。また、先住居住民は、旧首都星系から移り住む新たな主人たちのため、土地を接収され、他星系の僻地へきちに追いやられるか、収容施設に収容されていった。先住居住民の反発は、もちろん軍事力を背景とした警察力で押さえつけられており、すでに多数が犠牲となっている。





「予想通りの展開といえばいつもと変わらないが、大華連邦は自国の外周部に対して、ひどい仕打ちだな」


『連邦とは名ばかりの、中央政権に併合された小国が警察力というノリでくっ付いているだけの国ですから、こんなものでしょう。いずれにせよ連邦の崩壊の秒読みは始まっています。われわれの大戦略のために犠牲になっていただかねばなりません』


「大戦略か。言葉はあれだが、わが国だけ・・の繁栄は約束されるな」


『皇国千年の繁栄、村田家千年の繁栄のためです』


「そうだったな。完全緩衝かんぜんかんしょう星域か。対象となる星域群の住民には気の毒だが、俺も確かに有効だと思う」


『現在、修理中の艦船についてはそのまま修理を続けていますが、ワンセブンマイナーを装備させませんので、基本は二線級の艦船となります」


「戦闘艦の方はそうするより仕方ないな」


『巡洋艦以下の補助艦は地方の駐留艦隊として使うことができますが、主力艦を地方に配備する意味はありませんので、保管艦モスボール扱いにします』


「乗員たちはどうなる? 今は乗る艦がないので、地上での再訓練中だろ?」


『優秀者から順に、今後就役する巡洋駆逐艦に搭乗させていきます。それでも当面余剰が出ますが、国内での民間宇宙船造船所も含め船渠ドックが空き次第、民間用輸送船の建造に取りかかっていますので、余剰人員は、この新たに就役する輸送船の乗組員として活用します』


「実際、いまでも決戦戦力は十分だしな。ところで輸送船はそこまで必要なのか? 皇国国内の宇宙船輸送力に問題はないと思っていたが」


『崩壊後の大華連邦を見据みすえたものです。今現在でも、大華連邦では首都移転とわが方の通商破壊で宇宙船輸送力が極端に低下していますので、かなりの需要があると思われます』


「そうか。食料の方の増産も必要になりそうだな」


『食料工場衛星など各所で新規に建造を始めていますが、到底かの国の国家崩壊後の需要は賄いきれません』


「大勢が飢えるわけか」


『完全緩衝かんしょう星域対象の星系に対しては、宇宙船を筆頭に宇宙空間の使用を実力で制限します。そのため、惑星上での食糧増産が間に合わなければ飢餓が発生します』


「どうせ、おまえのことだから、どの程度の餓死者が出るくらい見積もっているんだろ?」


『もちろんです。お話ししましょうか?』


「そういったことを知るのも俺の義務だろうから、大まかに教えてくれ」


『スラビア侵攻前の大華連邦の有人惑星のうち7割で飢餓が発生し、飢餓が発生した惑星についていえば、平均して住人の3割が餓死します』


「まさに地獄だな」


『外周星域での惑星上のインフラ整備を軽視したうえでの極端な拡張政策のツケでしょう。こちらからすれば、そのようにし向けはしましたが、いいタイミングで皇国にちょっかいを出してくれました』


「まかり間違っていれば、皇国もあの国の属国ないしは、スラビアと分割されていたろうからな。おまえと、X-71が皇国に間に合ってよかったよ」


『ありがとうございます。対大華連邦作戦が一段落すれば、スラビアに対して同様の作戦を展開します』


「今回の通商破壊には、大華連邦の惑星破壊兵器使用という大義名分があったが、スラビアに対してはどういった手立てがあるんだ?」


『大華連邦に侵入したスラビア軍を立ち枯れさせる過程において、スラビア軍は駐留惑星で、必ず蛮行を繰り返します。その証拠を人類宇宙に喧伝しスラビアへの近隣国による軍事的制裁やむなしの機運を人類宇宙に醸成します』




 スラビア共和国の占領軍は、占領惑星の住民を慰撫するため、食料を中心とした民生品の供給を行っていたため、ある程度占領政策は順調だったが、供給された食料が実は家畜のエサだったことが住民の間に広がり一気に惑星住民の不満が膨らんだ。また、地下に潜んでいた大華連邦陸上防衛部隊の部隊員によるテロ行為なども頻発するようになり、占領軍はおおむねどこの惑星においても強硬策をとるようになっていき、見せしめのための惑星上の一都市程度、百万、二百万は簡単に虐殺していった。



 もちろん、その状況は、惑星内の住民に抵抗を断念するよう配信されていたが、そのデータをワンセブンはどこからか入手しているようで、列強諸国に配信されて行った。



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