第37話 出雲奪還


 旧皇都惑星出雲の防御網を無力化したわれわれは、クーデター政権に対し降伏勧告を再度送った。


『こちらは瑞穂皇国第1艦隊、旗艦TUKUBA

 反乱軍に告ぐ。降伏せよ。これが最後の勧告である。

 勧告に従わない場合は、容赦なく艦砲をもって排除する。

 猶予は30分。降伏方法は、……』


 こちらは陸戦隊を引き連れていないため、陸上戦はできないが、艦砲で吹っ飛ばす気で臨めば、地上では対応ができない。大気中で高エネルギー兵器の使用は自殺行為であるため、そういったものは出雲には当然配備されていない。実体弾による近接防御兵器も大気中では本来性能を発揮できない。惑星表面から発射した場合、初速が非常に遅いうえ高価な誘導弾も配備されてはいない。ようは、上空の防御衛星なりが排除された現在、惑星出雲は丸裸の状態になっている。



「艦長、反乱軍より通信が入りました」


『発信元は航宙軍本部のようです。内容は予想通り録画です』



『こちら、皇国臨時内閣代表、月島周作。わが方はただいまをもって降伏する。今後わが方の関係者について国際戦時協定に基づく処遇を要求する』


 反乱軍に戦時協定とは笑わせる。ただ回答にはその件については何も触れず、降伏を受け入れることのみ伝えた。


『反乱軍は、ただちに皇宮警備隊員を開放し、その指示に従うこと』


 皇宮警備隊の司令官には皇王ご一家の皇都脱出時、この時のための指示書を渡している。指示書はすでに処分されているだろうが、今の現状でなすべきことを行ってくれるはずだ。


 こちらの掴んでいる情報では、皇宮警備隊員たちは司令官も含め全員、旧皇居内の警備隊専用宿舎内に軟禁されているので、反乱政府のメンバーや航宙軍本部の武装解除および主だった連中の逮捕は速やかに行われるだろう。



 また、反乱軍の降伏をうけ、各地の皇都防衛軍の地上軍基地や陸戦隊留守部隊、士官学校では、航宙軍から派遣された指揮官や将校たちが次々と逮捕されていった。


 ただ、航宙軍の地上実戦部隊である航宙軍特殊戦部隊員たちは姿をくらませたようで、逮捕には至っていない。とはいえ、これもこちらの想定通り。



『予想通り、三隻の民間船が民間軌道エレベータープラットフォームから発進しました。航宙軍幹部および航宙軍特殊戦部隊員が搭乗しているものと思われます』


「しかし、度胸があるよな、民間船など簡単に撃沈できるのにな」


『こちらからすれば、地上で処理しょけいするか、宇宙でデブリにするかだけの違いしかないわけですが、生き残れる可能性に賭けて、後者を選んだのでしょう』


「航宙軍特殊戦部隊も一緒だというところがありがたいな。連中を地上で一々逮捕するにはこちらも被害が出てしまうからな」


『抜かりはありませんから安心していただいて大丈夫です』





「痛ましい事故・・であります。皇王を擁する、瑞穂皇国により皇都出雲は反乱軍から解放されましたが、戦闘により破壊された防衛衛星の残骸の直撃を受けた政治犯収容所が全壊し、生存者は今のところただ一人として見つかっておりません。この政治犯収容所には、反乱軍によって逮捕されていた旧皇国の全閣僚および主要な官僚、国政議員の多数が収容されてたようですが、安否は絶望視されています。以下が犠牲者の名前です。前内閣代表、○○〇、前副代表、……」


 問題の孤島の近くまで飛んだ航空機から中央部が無残にえぐられた島の全景を映したパネルをバックに、メディアのレポーターがレポートしている。


 まあ、痛ましい事故であることは認める。



 今回の一連のクーデター騒ぎが収束していく中でメディアに報道されない部分も当然ある。反乱軍の将官たちの処遇である。本人たちは、降伏時の要求である国際戦時協定での処遇、つまり捕虜ほりょとしての処遇を求めていたようだが、誰もそのような約束はしていないし、そういった記録は一切存在しない・・・・・・・・・・


 そしていま出雲内では、逮捕された元航宙軍将官の簡易軍法会議が開かれている。軍法会議の判事はワンセブンがあえて全員、皇王への忠誠心の塊である皇宮警備隊士官の中から選任したものだ。結果、起訴された反乱軍将官の裁判に要した時間は、一人あたり平均3分で、ことごとく有罪が言い渡された。全て大逆罪で起訴された者たちのため、有罪の場合は死刑以外には刑の選択肢はない。刑の執行はもちろん即日である。今回処刑された者の中には当然情状酌量の余地のある者も含まれていたろうが、運が悪かったと思って、新皇国のいしずえになってくれ。


 皇国12家のうち、今回のクーデターを主導した北条家、月島家については、当主二名は予想よてい通り現在逃走中だ。二名についてはそのうち何とかするとして、すでに爵位を剥奪している北条家に対しては全財産の没収と眷属の公職からの追放。月島家に対してはこれに爵位はく奪を付け加え言い渡した。


 上記の二家に近い工藤家については爵位はく奪のうえ同じく眷属の公職からの追放を言い渡している。


 これにより、皇国12家は、以下の7家になった。中立の三家も俺が公爵に陞爵しょうしゃくされたあたりから、しきりに村田家おれのところに接近しており、名実ともに国内を固めることができた。こうなってみると、皇王陛下から見た場合、俺が名目上ではあるが良子内親王を養女として迎えたことには意味があるのだろう。


村田家:公爵

金森家:伯爵、中立、村田家より。

秋山家:伯爵、中立、村田家より。

西川家:伯爵、中立、村田家より。

吉田家:伯爵、村田家に近い。吉田・エミリア・涼子の実家

森本家:伯爵、村田家に近い。

服部家:伯爵、村田家に近い。




 さて、次は、出雲内の反乱軍に対する支援者だな。こいつらはさすがに軍法で処断できないため、一般の裁判になるが、最低でも財産の没収は免れまい。


 じきに、俺の眷属とも言うべき村田家ゆかりの面々が乙姫から出雲に移動し皇国の経済界を掌握するだろう。




 最後の仕上げは、民間船で軌道エレベーターから脱出した連中の処理か。


 ただ艦砲で破壊してしまう以上の使い道がないので困っているのが現状だ。あと数時間で、彼らの民間宇宙船は目指す安定宙域に到達する。それまでに結論を出す必要がある。



 結局結論が出なかったため、このTUKUBAから40ミリ実体弾を撃ち込み、ジャンプ機関と推進機関を破壊して取り逃がすことにした。TUKUBAはそのまま短距離ジャンプでその場から離れている。民間船では何に襲撃されたのかもわからなかったはずだ。この襲撃の際、民間船の通信装置は活かしたままである。そのうちどこかからか、お友達が助けに来るものと期待している。


 そうやってその三隻の民間船を漂流させて広域探査システムで半日ほど監視を続けていたところ、旧式揚陸艦と護衛の旧式駆逐艦数隻がこちらの管制に何も告げず安定宙域にジャンプアウトして来た。


 狙い通りその小艦隊は漂流中の民間船三隻と合流し、民間船からの人員を揚陸艦に移し替えた。すぐに輝玉星系から離脱するため、先の安定宙域へ取って返そうと転舵中のところをTUKUBAの主砲弾で撃沈した。揚陸艦については確実に生存者を残さないため特殊砲弾、その他の艦については徹甲弾を使用している。


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