第29話 遷都、陞爵、観艦式


 皇王ご一家が居を構えるところがすなわち皇国の中心、皇都である。


 陛下のご内諾を得たうえで、乙姫への遷都と新政府の発足を皇国国内外に発表した。名実ともにと言いたいところだが、新政府とは名ばかりでいまのところ実は何もない。


 これまでの皇都だった惑星出雲のクーデター政府は必死に否定したが、『燎原りょうげんの火』のごとく、新皇都乙姫は現在係争中の大華連邦、スラビア共和国を除き全人類宇宙に認知されて行き、出雲政府の正当性が否定されて行った。


 旧皇都のある輝玉星系と、北条家と北条家に近い月島家、工藤家の三家に何らかのつながりがある星系を除き、皇国の地方政府はほとんど新皇都を中央政府と認め、不足している官僚団の形成のため人を寄こすと言ってきている。もちろんこれには、皇国の宇宙戦力のかなめである第3艦隊と、対惑星制圧戦のかなめの陸戦隊の実働部隊である強襲艦が乙姫についていることが大きいというのは事実だ。



 地方政府から受け入れた人材の人物を見て地位や役割分担を行っていく必要があり悩ましいところだと思っていたのだが、そこは全くの杞憂きゆうで、全てワンセブンが収まるべき人材を収まるべき役職、職務に当てはめて行った。見た目、降格になるような人事も発生したが、降格人事の対象とされた本人自身が特に気にすることもなく仕事に取り組んでいる。ワンセブンが本人にとってやりがいのある仕事を与えたのだろう。


 地方政府からの人材の受け入れのためのインフラはすでに手当てしているのでハード的な問題もなかった。


 金融経済の中心は、依然旧皇都の惑星出雲ではあるが、出雲政府もその部分についてはうちと吉田家の関係を除いて手を出していないようだ。いや、手を出せないようだ。こちらもいまのところ・・・・・、そこをどうこうする予定はない。したがって、地方政府が徴収した租税などは、これまで惑星出雲の中央銀行へ収めていたが、いったん送金手続きを停止している。乙姫側は、その金額相当の手形を発行し、決済などを行っている。



 軍事面では、航宙軍本部とたもとをかった第3艦隊と、陸戦隊主力である二隻の強襲揚陸艦を受け入れるため、URASIMAのある第2ラグランジュ点L2ではなく、工廠建設中のL1に艦隊泊地を指定した。連絡艇で、URASIMAないし、乙姫と行き来することになる。補給物資については、当面は艦隊内の物資で自給できるようだが、乙姫上に船乗組員用の宿舎や陸戦隊員用の訓練場を兼ねた駐屯地の設置を急いでいる。




『第三艦隊と陸戦隊の揚陸艦部隊がわれわれ竜宮に合流しましたが、完全に指揮権を掌握する必要があります。方法論としては、のちに禍根かこんを残しますが第三艦隊と陸戦隊上層部の逮捕。もう一つの方法は、皇王による序列の確認となります』


「一つ目は冗談なんだろ。それで、二つ目はどういうことだ?」


『手順としてはまず、艦長は大佐として現役復帰し皇王一家救出の功により慣例通り二階級特進で中将に昇進します。第三艦隊司令長官も陸戦隊司令官も同じく中将ですので、これでは先任にはなれません。そこで、皇王に観艦式を提案します。このTUKUBAが名目上のお召艦となり、第三艦隊および陸戦隊の強襲艦を観閲します。これではっきり艦長が上位であることが内外に認められます。TUKUBAには一般人が乗艦する設備が整っていませんから、観艦式の間は陛下には、URASIMA内の寓居ぐうきょにいていただく必要があります』


「なかなか良い作戦だな」


『実際は、第三艦隊および陸戦隊どちらの司令官も艦長のもとに就くことを良しとしてインフラが整いつつあるわれわれに合流したはずですので問題はないのでしょうが、全将兵に周知させるためにも必要なセレモニーとご理解ください』


「了解した」




 観艦式の提案をさっそくURASIMA内の御所ごしょを訪れ、陛下に奏上した結果、問題なく執り行うことが許されたのだが、その際俺には・・・予想外の展開があった。


「村田、日々の皇室への忠勤大儀である。村田への礼の意味もかねて・・・、わが親王良子よしこを村田の養女にしてもらえぬか? その際は、村田は陞爵しょうしゃくし、公爵となるな」


 断れるはずもなく、良子よしこ親王が俺の養女となることが決まり、村田良子となった。


不束者ふつつかものですがよろしくお願いします」


 いや、夫婦になるわけじゃないんだから。


「こちらこそよろしくお願いします」


 とはいっても、戸籍上のことだけで、実際良子親王、いや、村田良子はそのまま、陛下のご家族と生活することになっている。



 中将昇進と陞爵しょうしゃくについては、儀典官ぎてんかんが不在のため、略式で簡単に行われたが、俺が公爵となったことは、内外に大々的に発表された。これで、名前だけではあるが皇国12家での最上位となったわけである。同時に、北条家は公式に爵位をはく奪されている。



 観艦式では、俺が第三艦隊司令長官と陸戦隊司令官を引き連れ、陛下の前に進み出て、観艦式をこれから執り行うむねを奏上し、式が無事開始された。


 TUKUBAは陛下不在ではあるがお召し艦として、第1ラグランジュ点L1で整然と停泊する艦船群を一周し、その後停止したTUKUBAの前を、全艦が縦列で行進した。陛下はURASIMA内で各艦をモニターでご覧になっているはずだ。




『第三艦隊を得たことは予定通りでしたが、陸戦隊を得たことは予想外でした。これは将棋で言うなら盤面の好きなところに打ち込める飛車と角を同時に得たようなものです』


「おまえでも予想外があるのか?」


『はい、喉から手が出るほど陸戦隊は欲しかったのですが、どのようなオペレーションを行っても、陸戦隊を得る蓋然性は70%を超えることが出来ませんでしたので望外の成功です。まだ先の話しですが、こちらの準備が整いしだい、皇王陛下に出雲の賊軍の討伐命令を出していただく手はずです』





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