第26話 大華連邦、惑星破壊兵器『五芒星』


 先の剣星系における戦闘により鹵獲ろかくした給兵艦を無事竜宮星系に回航することができた。この艦は高速輸送艦であったため、第3艦隊専用工作艦により若干の改装を施すだけで、われわれの戦力として機能することが可能になった。内部に蓄えられていた大量の砲弾は、皇国とは規格が異なるため、これも工作艦により鋳つぶされ、皇国規格の砲弾に生まれ変わりつつある。



 これまでの一連の艦隊戦により、皇国、大華連邦、スラビア共和国の艦隊戦力がその他列強諸国と比べ、大きく低下していた。特に、大華連邦の艦隊戦力の低下は自国の領域の大きさから言って危険なレベルであり、過去武力併合した星系国家や周辺属国などが動揺している。



 そして、過去に大華連邦により武力併合されたとある星系内の惑星において、ついに大規模な反乱が起こり、現地行政府が最新式の武器で武装した反乱軍に降伏。反乱軍は大華連邦からの独立を宣言した。


 大華連邦政府は、この反乱を鎮圧するため、なけなしの強襲揚陸艦の派遣を決定していたのだが、予想以上のスピードで、現地行政府が反乱軍に降伏してしまったため強襲揚陸艦の派遣を取りやめ、今後のことも踏まえ、さらに強硬な手段をとることを決定した。





 大華連邦宇宙軍、無人特殊艦『五芒星ごぼうせい』。運用は宇宙軍の管轄だが、この特殊艦『五芒星ごぼうせい』は大華連邦内務省がその使用権限を持ち使用命令を宇宙軍に発令できる。これは宇宙軍将兵に精神的な負担をかけないための措置と言われている。




 ここは『五芒星』を回航した軽巡洋艦の中央指令室内。


 同乗した内務省の担当官が艦長に指示を出した。


「それでは、観測機を出した後、『五芒星』を惑星に向け発進させてください」


 

「全観測機射出、目標惑星」


「全観測機射出完了しました」


「『五芒星』発進せよ。目標、惑星首都」 


「『五芒星』発進! 最大戦速まで加速」


『安全回路を閉鎖しますと、一切の制御が不能となります。「五芒星」安全回路閉鎖まで30秒、29、……、3、2、1、「五芒星」安全回路閉鎖しました』


 中央指令室内に、機械音が響いた。



五芒星ごぼうせい』とは超高速で惑星圏内に突入し、隔壁で仕切られ直列配置された5段の大型核融合ジェネレーターを人為的に暴走させ爆発させる核融合誘導弾だ。無防備な惑星を一撃で沈黙させるために内務省の委託の元、大華連邦宇宙軍の技術研究所で開発された惑星破壊兵器である。



五芒星ごぼうせい』は惑星に接近すると、先端部から全5段に分裂し、各々225キロの間隔を保って惑星に接近する。突入速度と、核融合ジェネレーターの暴走タイミングを調節することにより、先端部である第一段が惑星上空100キロに到達した瞬間、一列に並んだ全段が爆発する。従って最後端の第五段は地表上空1000キロで爆発することになる。また、各段の後方には前方に向かってひらいた重金属性の大型ダンパーが設けられており、核融合のエネルギーで蒸発する間に、前方へ指向性を持った高速の粒子ビームがコーン状に発生する。


 12000キロの直径を持つ惑星の場合、『五芒星ごぼうせい』による直接被害半径は4000キロに及ぶ。直接被害半径内の気体は宇宙空間に吹き飛ばされるため、可燃物は発火することなく一瞬で炭化するが一部は溶融する。また水分を一定量以上持つ生物などは急激な温度上昇により個体単位で水蒸気爆発を起こす。露出した金属や岩石などは一部蒸発し、ほとんどは溶融する。


 被害半径内の河川などの水層では表面が一気に蒸発することで巨大な水蒸気爆発が発生し、海洋ではさらに大規模な水蒸気爆発が起こることで巨大津波が発生する。


 さらに爆心点では、巨大な大穴が出来る。


 爆心点からの距離が4000キロからその先数千キロの範囲では、真空地帯となった直接被害半径内に向け突風が吹き、地形も含めてあらゆるものが薙ぎ払らわれる。その突風も波のように何度も寄せては返し、文明の痕跡を跡形もなく消し去り拭い去る。



 反乱惑星の住人約3億の生活圏は、首都およびその周辺に集中していたため、首都直上での『五芒星』の爆発により一瞬にして全住人の99.9%の人命が失われた。


 爆発により、惑星大気の10%ほどが宇宙空間に吹き飛んだが、水蒸気や有害ガスなどで補完されたため、気圧の低下は目立ったほどではない。発生した水蒸気により惑星の大気は急速に厚い雲に覆われ、雷鳴を伴った大雨が地表を打ち、今度はあらゆるものを洗い流していった。


 この爆発により、惑星は人にとって非常に住みにくい環境になり、最初の爆発による高温の放射線と衝撃波から生き残った0.01%の住人も2時間後には人知れず死を迎えている。



『五芒星』の爆発からの一連の惑星の生活圏の破壊を逐一記録した観測機がやがて惑星の衛星軌道を離れ飛び去っていった。



 大華連邦は惑星破壊兵器の使用を記録動画とともに連邦内に発表した。この情報を非常に早い・・・・・段階で得た各国はこれに対し非難声明を出したが、大華連邦は誹謗中傷であるとそれら非難を一蹴した。


 一次活発化していた大華連邦外周領域の反政府運動・独立運動についても、テロなどの発生件数も激減し大華連邦政府の思惑通り沈静化したかに見えた。





[あとがき]

宇宙空間での核爆発がそこまで威力があるものなのか、核融合がそもそも暴走するのかというご指摘もあるでしょうが、そういうものだと思ってください。

核融合により高速中性子などが発生し、重金属ダンパーが破壊される過程で有害放射性物質が生成されると思いますが、表記は割愛しました。








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