文芸部にて


「……睦月さん、その子に何をしたの?」

「いや、違うからね」


文芸部の部室に入ると、ソファで小難しい純文学の作品を読んでいた優依が俺達、いや俺を見て疑いの目を向けてきた。


「ほら、そこのパイプ椅子に座れ」


俺がそう言うと、半泣き状態の富澤を文芸部のパイプ椅子に座らせる。


「睦月さん、説明を」

「分かってる。実はな」


俺は富澤が落としたケースとmicroSDのことを話す。


富澤が盗撮の犯人、もしくは関係者の可能性があると。


すると優依はなるほどと呟き、泣きそうな表情の富澤を見て小さく溜め息をついた。


「色々言いたいことがあるけれど、睦月さんはどうするつもり?」

「まずは、事情を聞いてから。優依に確認しようかな、と」

「確認?」

「警察に通報するかどうか」


俺の言葉に優依は微妙な表情をした。

富澤は俯いて震えている。


「私が決めていいことなの? 他に被害者いるけど」

「まあ、そうだけど。学校側はもう有耶無耶にしたいみたいだしな」


そう言いながら、俺は富澤に目を向ける。

少しは落ち着いたのか、俺と優依を交互に見ている。


「富澤さん」

「は、はい」

「貴女が盗撮の犯人なの?」

「…………」


優依の問いに富澤は沈黙した。

それから、数分待っても富沢はなにも言わない。


「確認だが、誰かに脅されている訳じゃないよな?」


俺の問いに富澤は微かに首を横に振る。

優依を見ると優依は富澤を心底どうでも良いって目で見ていた。


「はぁ……睦月さん」

「ん?」

「埒があかないから、警察を呼んでください」


優依の言葉にバッと富澤が顔を上げたが、その表情は怯えきっていた。


「いいのか?」

「はい」


「お、お願いです! 通報しないでください! 誰にも言わないでください!!」


優依の言葉に富澤はパイプ椅子から降りて、その場に土下座する。


「何でもします! 何でも! だから、誰にも言わないで!」


泣きじゃくりながら、赦しを請う富澤。

優依に出会う前なら、俺は確実にエロゲみたいなことをしていたな。


「何でもって、私女だし」


優依の言葉に顔を上げて何か言おうとした富澤だが、なにも言えずに俺に助けを求めるようにこちらを見た。


「ごめん、彼女が出来る前ならともかく、ペッタンコはちょっと」


俺がペッタンコと言って数秒、富澤は「うわあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっん!!!!」と号泣し始めた。


「睦月さん!!」

「わ、悪い!!」


そこから、富澤を宥めるのにかなり時間が掛かった。


優依が慰め、俺はお茶を買いに走り。

小一時間くらいして、ようやく富澤は落ち着いた。


文芸部のソファに俺は優依、富澤の順に座る。正面から話すと威圧感を与えると優依に言われてこうなった。


「わたしの両親は離婚しているんです」


富澤は話し始めた。今までのことを。


富澤の父親はかなり猫被りが上手らしく、女を食い物にするタイプの男だったらしい。


それを知った富澤の母は離婚したのだが、富澤の母は仕事をあまり出来ない弱い身体だった。更に親族などのコネも弱く、富澤は父に引き取られた。


「そこから、私はあの男の金を稼ぐ道具になったの」


富澤の父は芸能活動という名目で彼女をジュニアアイドルにして、作品を出させまくった。


しかも、表向きは清楚路線だが、裏ではかなりギリギリのことをさせられていたらしい。


個人撮影とか。握手会みたいなものを。


「握手券みたいな感じのイベントで、個室でファンと二人きりで写真を撮られたの。下からとか、かなり密着して撮影されて……」


幼い彼女は意味が分からなかったが、徐々に意味を理解し始め。


そんな時だった。母が風の噂などで娘がジュニアアイドルをしていると聞いて、母の兄が富澤の様子を見に来た。


成長した富澤は自分の身に起こっていることを伝え、兄から話を聞いた富澤の母は富澤を引き取る為に裁判を起こした。


結果的に富澤の父は裁判の途中で別件で捕まり、親権は富澤の母に。だが、それがきっかけで、ジュニアアイドルのことなどが中学で話題になってしまった。


過激な画像と共に。


「髪型を変えたり、母の名字を名乗ったり大変だった……」

「で、それがどうして、盗撮に繋がるのかしら?」

「…………」

「睦月さん」


黙り込む富澤に、優依は即座に俺に声をかけるすると「待って、言うから!」と叫び。


「たまたま、野良猫の写真をスマホで撮っていたら偶然、同じくらいの歳の女の子が近づいてきて、一緒に猫を撫でて、話をして猫を写真を撮ったのその時に、たまたま一枚だけ、座っている正面からのパンチラ写真が撮れたの」


俺と優依は黙って富澤の話を聞く。うつ向く富澤は淡々と告げた。


「わたし、そのパンチラの写真を家の自室でじっくり見て、凄く興奮したの。自分が撮られているだけじゃ、分からない感覚だった……」


優依がこっちを見て、「勘弁して」って表情をする。


「それから、わたし何となく目で追うようになったの」

「……なにをだ?」


俺の問いに富澤は少し興奮したように、


「女の子の身体を」


優依が顔を両手で覆った。


更に富澤は「わたしは撮られるよりも撮る方が好きだと分かったの」と言った。


「……盗撮画像を売った理由は?」

「そ、それは……」

「それは?」

「腹いせ……」


腹いせという言葉に俺と優依は首を傾げた。聞いている限り富澤は周りと仲良くやっている筈だった。


「イジメでもあったのか?」

「ううん、違う。でも、忘れない」

「何を?」

「あの女、相葉七海はわたしの胸の大きさを馬鹿にしたの、他の子もわたしの身体を馬鹿にして」


そこで、怒りを堪えるように黙り込む富澤。

俺は何か知ってるか? と優依を見るが優依は首を横に振った。


「盗撮画像を売ったのは腹いせ……、なにが、アナタにはブラ要らなくていいよねぇ。よっ!! ふざけんな!!」


大人しそうな富澤から驚くような声が出ていた。


それから、しばらく富澤は自分より大きい胸の女子生徒にたいして、かなりの文句を言っていたが、


「……ごめんなさい取り乱しました」


我に返ると再び泣きそうな表情になって黙り込んだ。チラチラと優依の胸元を見ているところを考えると優依が隠れ巨乳だと分かったのかな?


「それじゃあ、……どうすっかな、優依」


俺が聞くと優依は何事か考えて、「盗撮画像を見せて」と言い出した。


そして、宮澤は恐る恐るmicroSDの入ったケースを取り出して優依に渡し、優依はmicroSDを自分のスマホに入れて中身を確認した。


少しして、優依は俺を見た。そこから、俺と優依は冨澤のことを話し合ったのだった。

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