『20』 探偵指南

        1つ前のページ⤴『53』



 調査を始める前に腹ごしらえだ。

 席に戻って、ゴマ団子を一つ頬張った。

 食べる前から香ばしい胡麻餡の香りがしていた。それが口を開け、頬張った瞬間に鼻腔を抜けて脳にまで芳醇な甘さが突き抜ける。

 うんまい。

 普通のゴマ団子の時点でこのうまさ。

 UGDのうまさは想像を絶するだろう。

 俺がゴマ団子を食べている間、門崎さんの鋭い目に睨まれていたが、あさっての方向に目を逸らしてやり過ごした。

 やべ、これ門崎さんの団子だったっけ。


「ま、私レベルになってくると、こんな事件朝飯前なんだけど、『習うよりやれよ』って言うじゃない?」


「言いたいことはわかりました」

 門崎さんの場合は知っててわざと間違えているに決まっている。


淘汰着地天とうたつちてん』。俺の師匠である門崎 紫外の推理戦術の一つだ。

 犯人の目線に立つ。被害者の目線に立つ。目撃者の目線に立つ。捜査員の目線に立つ。様々な目線に立つと、事象が多角的に構築され、実際に起きた事件の筋道が浮き彫りになる。

 起こったこと『事実』と起こしたかった『発端』。その点と点とを結び、実際に起きたことを物証で補うと、犯人の思考が完成する。犯罪が計画性に富んだものであればあるほど、犯人の思考のトレースもしやすい。


 今回はダンゴ盗難事件における犯人の思考をトレースをする必要があるだろう。

『淘汰着地天』をモノにする絶好の機会だ。


「犯行時間はその盗まれたダンゴが配膳された時点から、席を離れていた被害者が再び席に戻るまで。その間に、一番最後に席を離れた、配膳されたダンゴと2人きりになる時間があった人が1番怪しい。私は周りを見ていたから知っているけど、あなたはプリンがどーたらこーたらっていうゲームに夢中で見てないわよね?」


 不覚!

 確かに俺はこのお店に入り席につき、あのイケメンが門崎さんをナンパしにやってくるまでの間、ゲームに夢中だった。ナンパしに来てからも、店内の状況は注意して見ていなかった。探偵のタマゴなるもの、少しは周りにも注意を向けていなければならなかった。


「じゃ、そこんとこを詳しく話を聞いてきなさい。で、怪しい人物を絞り込めたら、次は証拠でガツンと追い詰めてやるの」


「証拠って言ったって、何が証拠になるんだかわからないじゃないですか」


「それはあなたが、『手がかり』を集めるのよ!」




 →『25』ページへすすむ


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