非接触の信頼

七田つぐみ

01


 一週間以内に別れよう。


 つぐみは、沙惠の顔に残ったゴム弾の跡を見てそう決めた。沙惠はろくすっぽ銃も持てないつぐみのために大人たちに対抗してくれていたが、いかんせん相手の数が多すぎた。


「大江さん! そこに居るのは分かっています。私たちの団体に身を寄せてくれたら、親御さん共々生活を保障できます!」


 「どうか出てきてください」と続ける言葉を、つぐみは頭の中で嘘だと切って捨てた。大江家はつぐみ以外それぞれ民間団体に連れ去られた。今は所在も知れない。それもこれも、つぐみに抗体が発見されたせいだ。


「つぐみ」


「分かってる」


 沙惠の声に応える。簡素なやりとり。しかしつぐみ達にはそれで十分だった。沙惠が籠城に使っていた洗面所を飛び出し、大人達に身をさらした。沙惠の実弾の銃に怯んだのだろう。大人達のゴム弾を撃つ音が止まる。


 沙惠の足止めは十数秒もたないだろう。それで十分だった。


 つぐみは浴槽の戸を開け、シャワーヘッドで窓を叩き割った。音は大人たちも聞こえただろう。彼ら彼女らが部隊を分ける音がした。


(のってきた!)


 彼らが浴室に来るためにはこの広い家屋の裏手に回り込まねばならない。チャンスだった。洗面所の扉を叩いて沙惠に合図を送る。沙惠は大人達を撃つ手をとめたのだろう。扉越しの音が止んだ。


「つぐみ」


 声の意図に応じる。彼女の小指のない、四本指の左手に自分の指を絡める。絶対に離れないように。洗面所の入って右側、外に通じる扉を開ける。まだ大人は来ていない。つぐみはそう思っていた。


 側頭部をゆさぶられるような衝撃で、視界が揺れる。頭が真っ白になる。


 そのままつぐみの意識は、深く深く沈んでいった。


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