第30話 試験前
『チュンチュンチュン』
と鳥のさえずりは聞こえず、寝なれないベッドで深い眠りに付けなかったせいか六時に目を覚ました。
昨日は全く気づかなかったがこの部屋にも窓はあるみたいだ。
朝日が部屋を照らし、阿修羅は伸びをして筋肉を解した。まだ少しぼやける視界を擦り、周りを見渡すと一人異物が混じりこんでいる。
「おはようございます、阿修羅」
「うわっっ!!!!」
目をかっぴらき異物であったエルを凝視する。
『なんでここに?』『どうやって入ったんだ』
『スペアキーでもあるのか』『早過ぎないか』
などめちゃめちゃ言いたいことが頭の中に浮かんだが驚きで声が出ない。
「昨晩、朝の時間を言い忘れていたので起こしに来たのですが大丈夫のようですね」
では15分後に食堂で、と言い残して阿修羅が何も喋ることないままエルは部屋を後にした。
「…………」
◇
阿修羅が最後のようだった。
組全員が食堂に集まっていた。
そこには昨日見た人も見なかった人も。
先頭にはエルとアスキスがいる。
「全員集まりましたか、それでは行きましょう」
阿修羅は何処に行くとも知らずに寝癖が着いていた濡れてる髪を触った。
真っ直ぐ行ったり曲がったり、くねくねしたりと昨日こんな道を通ったかと疑問を抱きながら雛鳥のようについて行く。
目的地は昨日入学式をした場所、ではなく三階にある教室のような部屋だ。
まだ空いてない教室の外には行列ができていた。
「お、おぉ…そんな人気なのか…」
「まあ、治安も強さも全部一級品だからな」
とつい昨日聞いた声が耳に入った。
勢いよく後ろに振り返るとそこに居たのはローガンだ。おっすとも言うように軽い敬礼ポーズをしている。
「お前もここ志望なのか」
「そりゃあこの組は段違いやからな。ただ受かるかどうかは別やで……ここは少数精鋭で作られてるからな…」
「少数精鋭…」
まだ他のところを見たことがないからか全くそうとは感じ取れなかった。
でも確かに入学者の人数に対してエルたちの組は少ない気もする。
この行列はガヤガヤしている所もあれば静かにしているところもある。
ローガンはその後者で静かに周りを伺っている。
「いっかい1000人近い入団者がここに来て残ったんは十数名らしい…全く気が滅入るで」
素直にヤベーなと呟いて今の行列を見渡した。
今もかなり多いがそれでも1000人はいないはずだ。
「今はざっと500ちょいやな」
「随分希望者が減ったんだな」
「他の組が力をあげてきたからやな。その1000人の年のせいで他の組はその年、あらゆる行事で惨敗したって聞いてる。良い奴全部もってかれとるからな、仕方ないっちゃ仕方ないんやが」
阿修羅と同じように長蛇の列を見る。
「まあその影響もあって他の組ももっと進化するぞってなったらしい。だからやな、受かりにくいここを受けるよ他で楽に受かっときたいってやつもおるから年々希望者は減ってったんや」
まあ変わらず多いがな、と苦笑混じりにため息をついた。これを聞いてやっぱり…俺はすごいとこにコネで入ってしまったんだと阿修羅は改めて実感した。
「……阿修羅、一人抜け出さないでください」
また後ろから声をかけられるがこの声はもう聞きなれた。振り向く前に誰かがわかる。いや、周りの視線がその人に釘付けになっている時点で限られては来るんだが…
「おー、すまん」
行きますよ、と背中をエルに押された。
「またな!」とローガンに手を振りながら人形のように押されるがまま歩き、行列の目的地へ入っていく。
中は黄土色の薄汚れたレンガが床に敷き詰められ、それを囲うように背の高い壁の上にズラっと観客席が並べられている。
「闘技場か?」
「ええ、ここは第二闘技場ですよ」
「第二って事は第一もあるってことか」
「第一は入学案内にもかいていたでしょう?コロセアムと言う二年から使える闘技場です」
そんなのも書いてたっけな、と怪しい記憶を辿りながら言葉を有耶無耶にした。
エルはそれに気づいてか話を区切り、阿修羅を押して離れた集団に追いつく。
阿修羅たちは闘技場の観客席に腰を下ろした。
場所はバラバラで最前列にいる人も真ん中にいる人も。ハナから見る気がないのか1番後ろで横になって寝ている人までいる。
当の阿修羅は魔法とやらを知らないしがない元学生。そんなもの気になって仕方がないに決まっている。最前列、一人でまだ誰もいない闘技場を見つめた。
エルたち上級生はまた別のところで見てる見たいだがどこにいるのかは見渡す限り分からない。
エルがいないとガチで一人の阿修羅は少し寂しい気持ちを感じながらも試験が始まるのを誰よりも期待の眼差しを向けて待った。
なんたって熱田阿修羅はまだ魔法も使ったことがないど素人ですから。
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