第7話 師匠
あたりは赤い空から藍色に染まる空に変わり、暗い夜を照らす黄色い月が出ている。
電柱の灯りはチカチカと点滅を初め今にも消えそうなまである。
両サイドにつらなる古びた家からは夕飯の美味しそうな匂いを鼻で吸いながら目的地まで歩いた。
歩くこと20分程。初めの方は家がぽつぽつと見えていたが今は一軒も見当たらない。
見えるのは生暖かい風でフサフサと揺れる草々と阿修羅を囲むように立つ山だけ。
かろうじて見える月から反射される光が自分の影をつくり黒い阿修羅がもう1人いるようだった。
阿修羅は何かを考えようとするといつもここに来る。
今日考える事は凛の事。母親は手紙が届いたから戻ってきたのであってここにずっと滞在する訳では無い。阿修羅が行った後か行く前には元いた場所に戻るだろう。
これが阿修羅であれば何も言うことはない。しかしこれは凛だ。凛は女の子だ。女の子1人が、あの大きな家にいる事は危険が起こる可能性もある。
凛が母親について行くと言うのならそれでいい。が、凛にも付き合いがある。簡単に離れようとは思えないだろう…。
「ったくどうすりゃいいんだ──」
「私がいるだろ」
突然声をかけられ後ろを向くと、含みのある笑顔を阿修羅に向ける七瀬がいた。
「私がいるだろって…あんた俺ん家族にあったことないじゃん」
阿修羅は自分の頭に手を置いて困ったような顔をした。
「私を誰だと思ってる。お前の師匠の七瀬だぞ?」
ほれほれ〜と阿修羅の頭をくしゃくしゃと撫で回し髪の毛をボサボサにした。阿修羅はその手を払いのけ、恥ずかしくて赤くなった顔を隠すように下を向きながら髪を直した。
それを悟ったかのように七瀬は笑い話し始めた。
「海外の学校に行くらしいな」
「まあな。訳あって行かなきゃならん」
「ほほー、訳ありねぇ。
まあいいや。それで妹君をどうするか悩んでると……」
なんで海外に行くことを知っているのかなんて事はこいつに聞いてもなんの意味もない。
阿修羅の考えてることはほとんどわかってしまう。それが七瀬だ。
「私は大歓迎なんだけどなぁ…。まあ妹くんは嫌だろうね。初めて会う人と一緒に住むって普通やだもんな」
「俺も七瀬が良いならありがたいけど…凛がどう思うかはわからん」
母親は師匠と言えば良いと言ってくれるだろう。そこの心配は全くないが凛の方は魔術や魔法の事は知らない。
「まあ1回会いに行ってみるわ」
「悪いな」
「ガキがそんなに気使ってんじゃねぇよ」
七瀬はそう言って阿修羅の前から姿を消した。
つくづく七瀬には感謝することが多い。阿修羅にとって七瀬はとても大切な存在に変わり初めていた。
七瀬と離れる事もここに来た理由の一つでもあった。この感情をなんと言うかは阿修羅には分からない。
七瀬と別れて40分くらい立ってから阿修羅も家に戻った。玄関の前まで来ると明かりの中に3つの影が映っていた。さっき言っていたことについて話しているのだろう。
凛が七瀬と話している時点で母親はこの話について賛成の意見なんだろう。あとは凛だけか…
阿修羅が戸に手をかけると同時に内側から開かれた。黒くて長い髪と白くてすべすべの顔が俺の目に大きくうつる。七瀬だ。
七瀬は小さく微笑み右手でオッケーだ!と阿修羅にしめした。
「すぐに話がついたんだな七瀬」
「さすが私って感じだろ?」
「別に」と言うとまた七瀬は阿修羅の髪をクシャクシャに笑いながら撫で回した。
「兄さんこんな美人さんとも知り合いだったなんて…アルトリウスさんもめちゃめちゃ綺麗だし、ずるい」
「ずるい」とは対称的にニマニマと笑みを浮かべながら阿修羅の目を覗き込んでくる。てゆーかいつエルのことを見たんだ…。
「んでいつから母さんは向こうに戻るんだ」
「阿修羅が行ってから戻るつもりよ。七瀬さんとも色々と話もしてみたいしね」
随分と母親にも気に入られたもんだな七瀬。そう思い七瀬を横目で見るとドヤ顔で阿修羅の方を見ていた。
「なんだその顔」
「なんでもないさ」
腕を組みながら嬉しそうに笑い母親と七瀬と凛は居間の方に歩いていった。反対に俺は庭の方にまた出ていった。
凛がエルを見たって事は敷地内にはいるだろう。そして玄関にエルの靴がないって事は庭にいるだろうと思った。
広いにはを縁側にそいながら歩いていき角で曲がる。今日眠っていた木の下に目を向けると生ぬるい風でなびく金色の髪が目に入った。
きっとこれは人間の本能なのだろう。綺麗なものが目に入れば無意識に目で追ってしまうんだろう。そう思うくらいエルの姿は綺麗に写った。
阿修羅はエルに近づこうと音を消して近づいた。なんで静かに近づいたのかは自分でも分からない。多分その綺麗で美しい芸術のようなものを壊したくないと思ったんだろう。
自分の事は
一番自分がわかると言う。
しかし俺は自分の事は一番自分が分からないと思っている。本当に今思っている事が本当に自分が思っている事なのか、人には分からない。
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