弐――トッカ、うるさい。

 七月後半。世間はさらさらの夏休み。きらきら八月の一歩手前だ。

 その少し前に何だか夢のような、でも夢ではない不思議な体験をした。

 河童の干物を発見し、車で爆走して推理して、銃で撃って、空を飛んで、戦って。

 ――その存在すら知らなかった「はらい者」とかいう職業。

 あの世とこの世を繋ぎ、頼もしい相棒達と戦う。

 俺はそれになって、困ってる妖達を救おうって決めたんだ。

「あああああ金花きんかああああ」

「うるっさい!!」

「ぐえ!」

「決まった! アックスボンバーだ!!」

 さて紹介しよう。こいつらがその頼りになる相棒達。

 まずは――。

「でもざああああ、ぎんが金花があああああ! だああああああ、へるぷはあああああher!」

「このっ、うるっさいっての!」

「ぐほっ!」

「おおっ!! これは中々! 延髄斬りだ!」

「ぶっ、物騒……」

 ……。

「かーらーの! コブラツイスト!!」

「ぐええ」

ワン! ツー! スリー! ……」

 ……、……。


 カーンカーンカーン……!!


「ナナシの勝利ー!!」

「わーい!! 夢ちゃんありがとうー!!」


 ――え、ええい!!


「煩い!! プロローグ位大人しく出来ないのか!!」


 瞬間静寂が広間に広がる。

 ええ、そうです! ここに居る騒がしいのが俺の仲間達です!!

 この話は全体的に騒がしい人達で構成されています!! 文句あっか!

 ……、……。

 ……ところで彼らは一体何に明るいのだろうか。


 さて、気を取り直して。


 俺は山草和樹。代々立石神社の神主をやってる家の子どもで霊感が滅茶苦茶強いだけの普通の中学一年生! 本作の主人公です! 文句あっか!

「霊感が強い、しかも『はらい者』をやっている中学一年生を本当に『普通』と呼んで良いのでしょうか。解説のナナシさん、どう思われますか」

「まあその他は本当に取り柄のない平々凡々だから仕方ないんじゃない?」

「それなのに偉そうに主人公とか自称して……」

「よよよ、彼には主人公という座しかその身を確立できるものがないというのか」

「まあ影が薄いですからね、この人」

「そう言えば第一話も美味しい所を作者の推しに全部持って行かれてたよね」

「しかもその間はこの人ぽっくんと気絶してたんですって?」

「「まあお可哀想」」

 ぎろりと睨むとすぐにそっぽをふいと向く二人。

「「いちゃちゃちゃ!!」」

 直ぐに無言で頭ぐりぐりをしてやった。

 先に話し始めたのがの「夢丸」。

 高い鼻、くりくりの目、赤みがかったかわいらしい丸いほお。神様らしい大げさな白い豊かな髪。

 毎朝一緒におまんじゅうを食べる仲だ。彼は風を司る門田町の守り神様でもある。勿論立石神社のご神体。

 可愛いんだけどたまに怖い。そして悪ふざけも大好き。

 で、それに乗っかってきたのがの「ナナシ」。

 黒い直毛のグラデーションボブに、黒い黒耀石のような瞳、整った顔立ち、暑苦しい学ラン。黒ばっかりの彼はいわゆる神秘的な美少年ってやつだ。チャームポイントは水色の硝子の耳飾り。厚い短冊形のそれの表面には川の流水と水飛沫が絡まり合うような模様が描かれていてこれもとても神秘的。

 そんな彼にはもう一人の「自分」がいて、気分で中身だけが入れ替わる。――それが「黒耀」という人格。それを見分けるポイントは顔つきや一人称、口調、性格の変化、そして耳飾りの変化だ。「黒耀」になった時、水色が桃色に変化し、その表面の模様も桜の花びらと桃色の蝶が舞っている模様に変化する。

 彼の基本スタイルは本当は「黒耀」の方なんだけどここに来ると「ナナシ」になる事が多い。

 同じく悪ふざけが大好きな神様がいるからだ。

 まあ、仲が良いなら俺は何とも言わないよ、うん。

 で、そこでプロレス技の数々を受けて撃沈しているのがのトッカ。うるさい。沸点が低い。でも偶に優しくて格好良い憎めない奴。


 ――と、ここで少し気になった人もいるかもしれない。


 天狗? 座敷童? 河童? はらい者?

 そんなお前は何者だ、と。

 簡単に説明しよう。

 はらい者とは簡単に言うと「この世とあの世の調和を保つ陰陽師みたいな人」のこと。代々俺らの家が継承してきた仕事だ。

 元々「あの世」はこの世界にはないものだった。その世界との境目、即ち「境界」を開いたのが俺達のご先祖様で、それがはらい者の始まり。

 それ以降はあの世の悪霊が「この世」に悪さをしないように(逆も然り)、またお互いがお互いの世界に迷い込んだりしないように境界を守るのが俺達の主な役目となった。でもそればかりじゃなくて妖関係で困っている者達を助けたりもしてる。――前回の「通り魔事件」はそっちの方が大きかったかもしれない。これが最終的に仕事の主たる内容に直結するのならそれも大事な仕事なんだろう。

 さて。そのはらい者だけど……それを担う家は何も「山草家」だけではない。他にもう一つ、「長良家」も初代はらい者の血を引く家系だという。俺達の一家は古くから伝わる「お札」を使ったり、この札で契約をした通称「使い魔」と協力したりする。「長良家」は鬼道と呼ばれる、いわゆる魔術を使う攻撃に特化した家。指噛み切ったりしてから鬼道を展開するんだって。……う、羨ましいとか、思ってないぞ! 思ってないからな!!

 ……。

 ごほん。

 で、今の俺の使い魔は「黒耀」と「トッカ」の二人(一人と一匹?)。因みに夢丸は守り神だから契約するの駄目だって。フウさんも契約に関しては何かそれっぽかったし、そういう事もあるらしい。(ちょっと惜しい気もする)


 そんな俺らの今の最大の敵は名前も分からない謎の黒魔術師、通称「奴」。目的も出生も、ついでに言うと嫌いな食べ物も趣味さえ一切不明。長い黒毛の三つ編み、白いゆったりとした服、黒いパンツにブーツが彼のチャームポイントだ。簡単に言うと、キモイ、ドが付く変態、しつこい。――酷い言い方に見えて意外とガチ。一話見て来てごらん、ヤバいから、色々。

 そいつはかなりの強敵で一度世界を危機に飲み込んだり、名のある神を操ったり今目の前にいる黒耀を限界まで戦わせてその命と体を手に入れようとした。――今一番「境界」に干渉しようとしている者でもある。

 更にはそいつとは別に俺の命を狙っている奴がいる。前回の通り魔事件を裏で糸引いていたのはそいつだった。全然関係ない一般人の姿に擬態していた為、そいつは名前どころか容姿すら謎のままだ。


『少年。良い事教えてあげようか? ――俺はなァ、『はらい者』が大ッ嫌いなんだよ。綺麗ごとで飾り立てた正義のミカタって奴。胸糞悪い』


『だから全部消してやる。お前の存在意義から何から全部全部』


 命を狙うその真意、理由は分からない。

 でも彼は確かにそう言った。それに俺は抗うしかない。


 俺はそいつらを倒すまではらい者をやめるわけにはいかない。


 ――さて、話を戻そう。

「終わったー?」

「所要文字数、二一四三字。おしゃべり、お疲れさまでした」

 ……。

「「いちゃちゃちゃ!!」」

 ふん! 大事な作業なんだよ!

「それにしても……。トッカは何について騒いでたんだろう」

「うーん、伸びてるから聞きようがないね」

「困ったねぇ」

 誰のせいだと思ってるんだ。

「水とかかけてみる?」

「池に投げてみる?」

「やめろやめろ」

「「えー」」

「やるなら外!」

「外だろうが何だろうがやっちゃ駄目だろ、お前ら!!」

 ――あ、起きた。

「「おはよう! トッカ!」」

「お前ら日に日に邪悪度が増してきてないか?」

「「ぜーんぜん?」」

 そう言ってそっぽを向く二人。

 何も言えんよ、俺は。

 取り敢えず音にもなっていないカスカスの口笛を吹く二人を放っておいてトッカに向き直る。

「で、トッカ。起きた所で聞きたいんだけどさ」

「ん」

「さっきから騒いでどうしたの?」

 それを言った瞬間地雷でも踏んだのかサッと顔色を変え――


「そうだよ! 金花が、金花があああああああ!!!」

「うるっさあああい!!」


 バキッ――。


 * * *


「で? その金花ちゃんってのは?」

「音葉池のそれはそれは可愛い人魚ちゃんのことです!」

「人魚……」

……?」

 あれ。こいつこういうキャラだったっけ。

「あれか、恋する子の事になると途端にぽんこつになる系のキャラか」

「なるほど」

「作者みたいだねぇ」

「好きな人にお手紙書いたけど内容が大爆死もので、しかもそれを高らかに友人に朗読されたんだっけ?」

 おい、そこ。(by作者)

(突如勝手に首を突っ込んできた作者含めて)彼らを無視して話を進める。

「音葉池って……あれだよね? 明治街郊外の」

「そうそう、そこだ。俺の住んでるせせらぎ川がここにあるだろ?」

 地図を開いて指し示す。川の中流から下流とでも言った所か。住所的には湯羽目村に住んでることになるんだなぁ。

「その上流の……ほら! ここにあります!」

 先程指し示した所からぐいーっ! とかなり上流の池に指を滑らせるトッカ。

 ……結構遠いな!?

「圧倒的近さ! 会いに行けるアイドル!!」

「え、こいつ、感覚狂ってない……?」

 ご覧ください。ナナシも呆れてこの表情です。――いや、寧ろ恐怖に近いかもしれない。

「まあ元干物とはいえ一応河童だからさ、トッカの感覚的には近いんじゃない?」

「な、なるほど?」

「一時期三時間かけて急流を上り、一日中そこで彼女の歌を聞いたこともあった……!」

「「やっぱ遠いんじゃん!」」

 思わず全員でツッコんだ。往復半日は普通に遠いよ?

「それで? その金花ちゃんがどうしたの?」

 ナナシが頬杖を突きながらぶっきらぼうに聞いた。

 それに呼応するようにトッカの顔がくしゃりと縦につぶれる。


「歌を歌えなくなっちゃったんだよぉぉ」


 そう言ってまためそめそ泣き始める。

 二人の妖の目が大きく見開かれた。

「和樹……」

「え、な、何?」

「これ、意外とヤバいかもしれない」

 ――え、そうなの?

(つづく)

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