第2話 赤手の厄病神ー2

 3人は自らの胸に手を重ねてゆっくりと天へ掌を向けたまま肩幅に広げた。衣と同じ漆黒の輝きを契機にその姿は武人のそれへと変貌する。各々で異なる武器と鎧を身に着けていた。実用には適していないと思われるほどに複雑な装飾がされて鮮やかな色合いであった。

 少女が毒づいて3人へわざわざ向き直りながら中指を立てる。

「『プラウ・ジャ』の連中って大嫌いです!」

「マスター、危ないから下がって……」

 ガインが言い切る前に少女は彼の髪の毛を引っ張り上げて憤慨した。耳まで紅潮してわなわなと体全体が震えていた。

「なんですかマスターにその言い方は⁉」

「ごめんごめん……いい加減引っ張るなよ痛いだろ‼」

 怒っていた割に怒鳴られると弱く彼女は慌てて髪の毛から手を離した。咳払いと顔を手拭い3人へ決して気おされてはいないと訴え、数度視線のみで彼が怒っていないかと確認してからようやく唾をのんで語り出した。

「わかればいいんです……それで、どうするんですか?」

「マスターが手を下すまでもない、弟子の俺がこの程度片づけますよ」

 気のこもらないただ吐き出しただけの言葉でガインは答えた。息切れ以上に繰り返したやり取りに対する疲弊がうかがえる調子だった。

 それを合図にして3人は一斉に襲い掛かった。武器も鎧も尋常のものではなく奇々怪々の様相を露にしていた。形状が変化するもの、巨大化するもの、倍化して宙を舞うもの。まさしく絶技であった。3人きりで100人力の戦力を有しているのだ。だがその顔には高揚や戦意はうかがえない。ただ恐怖が引きつらせていた。

 対するガインは片手を己が胸にたたきつけるとそれを眼前に運んで強く握りこんだ。純白の輝きと共に彼も3人と等しく変化を迎えた。その姿は村の終焉に立ち会ったあの青い鳥を模したそれであり片手には燃え盛る炎が生えていた。

 3人は再びはっきりと恐怖を現わした。目に見えて動きが鈍り逃走を選びたいと言に出さずとも主張していた。襲撃を解除し距離を取り誰かがこの場を放棄するのを待ちかねるのだった。

 不意に1人が激しくせき込んだ。あとの2人がおののくよりも早く伝染したそれに包み込まれてしまった。立つことさえかなわず発熱と痛みに苛まれ武器と鎧が消失し黒装束へと姿を戻していた。3人共が恐怖と共に装束を脱ぎ捨てて肉体に浮かんだ赤いあざが無いかを死に物狂いで探った。

「いやだ! 死にたくない!」

「やめてくれ!」

「『ホワン・カオ』にくだる! 情報も全て渡す!」

 答えはもたらされなかった。ガインはただ3人のあがくさまを眺め気絶すると同時に鎧と炎とを消した。勝利の誉は浮かんでいなかった。悔いと嘆きだけが彼に得られるものだった。

「生きてますよ⁉」

「殺すことはないよ」

 マスターの忠告に力なく答えたガインは天を仰いだ。神が与えたもうた力と人はを言う。ならば何故自分によりによって病魔をしもべとし炎を操る技をくださったのか。力を振るわねばならなくなるたびに自問せざるを得ない。

「甘い弟子です!」

「あ、こら」

 止めを刺さんと飛び出したマスターを羽交い絞めにしてガインは苦闘した。

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