第9話 涙

「ただいまー」

「おかえりー」


よく考えると、玄関を潜ると自然と『ただいま』と言う習慣のついてしまったな。

 玄関には俺の服を着たリナが出迎えてくれる。


「お風呂にする?それとも わ、た、し?」

「何で2択何だよっ」

「だって、ご飯はまだ野菜炒めしか作れないからねっ」


リナはプクーっと頬を膨らませる。


「丁度よかったよ、今日の夕ご飯はカレーライスにしようと思ってたんだ」

「カレーライス??」


リナはまだ食べたことないもんな。


「ああ、作ってみてのお楽しみだ。と、その前に…」

「わ、た、し?」


俺はリナの額に軽くチョップする。


「いや風呂だ」

「も〜〜」


やはり、リナは頬を膨らませる。

 今日の夕飯はカレーライスだ!


 


「「いただきます!!」」


食卓にはカレーライスが用意された。今日はリナに手伝ってもらいながら、一緒にカレーを作ったのだ。


「成!これ見た目以上に美味しい!!」

「だろっ?これがカレーライスだっ!」


リナは幸せそうにスプーンを持つ手を進める。リナがやってきて3日目というのに、この雰囲気にすっかり慣れてしまった。


でも、この光景にもいずれかは終わりが来るんだ…

 俺の頭の中では今日の一芽との話が何度も繰り返される。

 

早く自分の中で考えをまとめなければ…


笑顔で会話しながらも、俺は広大で先の見えない世界で独り、迷子になっていた。



* * *



あっという間にカレーを完食してしまった俺たちはソファに腰を下ろす。



外では雨が降り始めた。室内は薄暗く、ザーザーと雨音が入ってくる。

 今夜はリナのことについてしっかり話し合わなければ…


「リナ、大事な話があるんだが…」


俺は、姿勢を整え真面目な表情でリナを見つめる。


「告白でもするつもりっ?」

「ちげーよ」


リナもくつろいでいた姿勢を正す。

 1つの笑みも見せないところから、きっと俺たちのことについての大事な話だと察したのだろう。


「リナの話なんだが、お前にはいつかは必ずこの家を出てもらいたいんだ」

「えっ?」


リナの顔がはっきりと曇る。

 やはり社会に出ることに抵抗があるのだろうか。 

 だが、いずれは出て行ってもらわなければいけないんだ。お互いのためにも。


「それで、リナはいつまでここに居たいのか聞こうと思ってな」


リナの反応を見て、俺はなるべく彼女の意見を尊重しようと伝える。

 そうすれば、彼女も分かってくれると思ったからだ…


「そ、そんな…」


リナの呼吸が乱れる。膝の上に作った彼女の拳が震える。


俺の考えは甘かったんだ。

 そして俺の目には衝撃的な状況が飛び込んで来た。


「うっ、うう…」


リナは目尻から一筋の滴をながしていたのだ。

 リナは嗚咽を我慢しながら、涙を溢れさせている。

 その表情からは「驚き」や「悲しい」とはかけ離れた感情を連想させる。

 

そう、「絶望」だ。


「ちょっ、どうしたんだよ!リナが望む時間ここにいていいって言ってるんだぞ?」


涙を流すリナを見て、俺の気が動転する。


「ずっと…は?」


リナは、何か訴えてくるように問いかける。


「そ、それは…」

「そっか…そうだよね。迷惑よね…」


リナは表情を変えずに俯き、息を荒くする。


ザーザーザーザー


雨は勢いを増し、部屋の沈黙をかき消す。


一体何が、こうまで彼女を社会から遠ざけようとするのか。


「怖いのか?不安なのか?」

「分からない…何も」


リナはグチャグチャの顔で俺を見る。彼女からは普段からは全く想像もできない様な弱々しい声が。


『分からない』たった一言が俺にはとても重く、心に突き刺さるように感じた。


「そ、そうか…」


体が彼女を包み込もうと反応する。


こういう状況なら許されるかもしれない。逆にしてあげなければいけないのかもしれない。彼女を安心させるため、励ますために。


でも………



俺は彼女を包み込んであげられなかった。



俺の手は震え、正解を見失ってしまった。

 もっと話を聞くべき、手だけでも握るべき、励ますべきだったかもしれない。 

 だが、俺に出来ることが何かは分からなかった。


俺はこの夜、彼女の涙を止められなかった。


「気持ちがまとまったら、また相談してくれ」としか言うことができなかった。


彼女の気持ちも自分のするべきことも、


今日初めて俺達の間に壁ができてしまったのかもしれない。





【余談】

皆さんここまで読んでいただきありがとうございます!!

昨日は星をいただき、興奮してます!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

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