第6話 リナの◯分クッキング

それは俺が夕食を作ろうとした時の出来事だった。


俺は手を洗い、自炊の準備を始める。

 昨日はカップラーメンで済ませたが、女子と暮らしているのにカップラーメンやコンビニ弁当ばかりだと悪いからな。


「ねぇ成、私も料理のお手伝いしていい?」


「当たり前だ」


なんとリナが料理をしたいと申し出てきたのだ。これからリナが一人で生きて行く上で、料理は必須なスキルだろうからな。


この一言で、カオスな料理教室の幕が開けたのだ。




「じゃ、始めるぞー」

「はーいっ!」


狭いキッチンに二人並んで準備をする。リナはまな板の上に用意された食材や調理器具に目を輝かせる。ワクワクが溢れ出ているな。


「今日は冷蔵庫に余ってた野菜を使った、「野菜炒め」を作るからな」

 

お好み焼きを作るつもりだったのだが、リナが覚えやすく、自分で作れそうな野菜炒めに変更した。


「リナは前の世界でも料理したことがあるって言ってたが、なんか得意料理とかあったのか?」


リナのいた世界はどんな料理があったのだろうか。

 昨日はクモを食ってたとか言ってたが、流石に肉や魚が主流だろう。


「そうね、強いて言うなら『レッドビートルの活け作り』ね!」


ビートル=カブトムシ


うん、ヤバい予感しかしない。

「活け作り」ということは名前的にカブトムシを生きたまま捌いて、そのまま盛り付けるような料理だが。

 そもそもカブトムシを「捌く」という言葉だけでもパワーワードだ。


「あはは、そっ、それは赤いカブトムシのお刺身で大丈夫か?」


念のため、確認してみる。


「そうね!」


『そうね!』じゃねーよっ!

 クモの唐揚げにカブトムシの刺身って、お前の前世はカラスですかっ!?


「まっ、まぁ早速取り掛かるか」


リナは鼻歌を歌いながら包丁を片手に材料の準備をする。

 これは相当ご機嫌だな。こんなに自分から手伝いたいと言ってくれたのに、注意ばかりだと料理を嫌いかねないので、ある程度のことは口をつむぐことにした。

 俺は作り方を教えるだけだ。


「じゃまずはこのキャベツを切っ…」



スバーーーーーーンッ



は?


リナは包丁を高々と振り上げて全力でキャベツに叩きつける。


「これでどうよっ!」


リナは自信満々な表情で、二等分になったキャベツを見ながらご満月のようだ。

 これには俺も引いてしまう。というかもう怖くて仕方がない。


「そ、それは、キャベツのオーバーキルだが大丈夫か?」


あまりにも大胆かつ、力強い包丁捌きに目を疑う。それは一周回って冷静な声が出てしまうほど。


「大丈夫じゃないわね」


そうか、そう考えられるなら良かったが…


「包丁が小さいかな」


「いや、そこじゃないだろっ!!今の切り方でまだデカい刃物を振り回す気かっ!?お前、キャベツはモンスターじゃないぞっ。ほら、包丁貸して」


 俺はリナから包丁を受け取り、リナの真横で実際に切りながら説明をする。


「まず手はこう、猫の手だにゃー」

「フッ」

「なんだその冷めた笑いは」

「何でもない、そのまま続けてにゃー」


こいつっ、注意したばかりで気を落としているかと思って気を使ったのに。

 俺は軽い怒りを覚えるが、リナもこちらをいじってばかりでなく、説明や動きを真剣に観察しているので怒りは簡単に治まった。

 

「次に包丁は軽くだ。切れ味は十分だから力を入れなくても刃はしっかり入るぞ」

「やってみるっ!」


早く切りたくてたまらなそうに隣でムズムズしているので練習してもらう。

 リナは包丁を持つと、予想以上に丁寧な包丁捌きを披露する。

なんだよ、案外上手いじゃないか。


目線は包丁から離れず、下を向いていることで、銀色のカーテンがフワフワと揺れている。

 こういうところを隣から見ると、やはり外面が抜群だよな。


「これで終わりね」

「おっ、綺麗に切れてるな!。この調子で豚肉も切るぞ」


リナを褒めると、分かりやすく調子に乗るのでこちらも口元が緩む。


「了解!」


俺は掃除や手伝いなど彼女が真剣にしてくれたことには必ず褒めるように意識している。

 人に物事の教えを施す時に最も大事なこと、それは「褒める」ことだからな。リナには色んなことに意欲を持って、この世界について学んでほしいから。


リナは早くも包丁に慣れたようで、あっという間に材料の下準備を終わらせてしまった。

 

「よし、次はいよいよこいつらを炒めるぞ。うちはIHっていう炎を使わないやつだけど、熱いのに変わりはないから気を付けろよ」

「うん」


油をひいたフライパンにキャベツと豚肉、もやしを投入する。リナは慎重な面持ちで箸を使って具材を炒める。


「味付けはこの「塩胡椒」ってのを使うんだ」


フライパンを持っているリナの視界の前まで塩胡椒のボトルを移動させる。


「他にも色々あるけどこれでいいの?」

「他のは別の味がするんだ。料理によって調味料を使い分けるんだ」

「なるほどっ!」


どうやら料理に関心を持ってくれたみたいだな。俺は彼女の成長に一安心する。


「もういい感じに火が通ったな。盛り付けよう」


こうして、初めての自炊が無事終わったのだった。




「「いただきまーす」」


食卓にはリナの作った野菜炒めと、リナの作業している横で俺が作っていたお味噌汁が並ぶ。

 野菜炒めと一緒にご飯を頬張る。味付けもちょうどよく、なかなかに美味しいものが出来上がっていた。


「リナ、美味しいぞ!」

「やっぱ私が作ったからかな!」

「そうだな、今日は手伝いありがとな」


リナは俺の言葉にポカンとしている。


「口を開けてなんかおかしいこと言ったか?」

「そうじゃなくて、てっきりツッこんでくると思ったから」

「別に、リナが作った料理だからな。美味しかったらお前のおかげだろ」

「そ、そうね」


リナはなぜか表情をなごませて、ちょびちょびとお米を口に運んでいる。

本当に俺変なこと言ってないよな?少し気まずくなってしまう。


「「ごちそうさまでした…」」




 

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