俺の家の前に美少女が転移してきたんだが〜家に居たい美少女と社会に巣立ってほしい俺

面長さん

美少女が家にやって来た

第1話 同居生活

その日は雨が降っていた。


「やっべっ!?通路もビシャビシャじゃねぇかっ!」


7月の夕立ちに見舞われ、マンションの通路にも雨が振り込んでくる。そんな中、俺は通路の1番奥の自分部屋を目指していた。なんで俺の部屋はあんなに遠いんだっ。

 俺の部屋は306号室、高校生だが一人暮らしをしている。両親は共働きで今は海外で働いている。そんなわけで日本に取り残された俺は毎月両親から振り込まれるお金で生活している。


ゴロゴロ ビシャーンッ


突然大きな雷鳴と眩しい光に襲われる。


「眩しいっ!」


とっさに目を瞑ってしまう。余程近くに雷が落ちたのだろう。今までに経験したことのない大きさだった。

 目を開けると悪い視界の中、俺の目の前に少女が座り込んでいる。

 きっとまだ目がぼやけているんだろう。俺は目をこするが視界に映るものは変わらない。


やはり見慣れない少女が座り込んでいる。


俺は少女の元まで急いで駆け寄る。この雨の中あの状態はおかしい、そう頭が結論づけたのだ。


「大丈夫ですか?」


少女はずぶ濡れの銀髪にネトゲの装備を着た様な格好をしており、とても綺麗な顔立ちをしている。

 どこかのコスプレイヤーだろうか。

 そんな彼女に俺は屈んで傘を差し出しながら声をかけた。


「近づかないでっ」


しかし、彼女は荒ぶった言動で俺を払い除ける。なんなんだ!?俺がせっかく気遣ったっていうのにっ。

 更に彼女は立ち上がり何やらボソボソと唱えながらポーズをとっている。本当になんなんだっ!


「食らえっポイズンッ」


嫌な空気が漂う。

 彼女はその間も全身に力を入れてている表情を見せ、ポージングを続けている。


一方、俺の頭の中では様々な思考が飛び交っている。


コスプレ→変な呪文→アニメを真似したようなポージング→かなり真剣な表情→重度の厨二病


QED証明終了。


これは面倒な奴だっ!関わっちゃいけないやつだったぁああああ。 

 俺は心の中で酷く後悔しながら後退りする。よしっ、こいつがどっか行くまでコンビニで時間を潰すか。


「まっ、待ちなさいっ!ここどこ!?説明してっ」


が、少女は逃してくれないみたいだ。


「てっ、お前が近寄るなって言ったからだろっ」

「実を言うと私は何も覚えてないのっ」

「どういうことだよっ」


話が噛み合わなすぎる。お前、「話のキャッチボール」って知ってるか!?俺らがやってるのは話のドッチボールだっ!投げる言葉を避けるなって。


「一度話を聞いてって言ってんの!!」


彼女は半泣きになりながら俺の手を掴んでくる。その手には逃がさないという思いと力が込められる。


「痛たたたっ」


どんな力してんだよ。ゴリラですか?ゴリラなんですか?


「話をしてくれるまで離さない」


どんどん痛みが増してくる。これ以上は耐えれない。


「わーったよ、話ぐらいは聞いてやるよっ」


もちろん最初にこいつが変なことしなかったらとっくに事情は聞いていただろうがな。



*  *  *

 


雨のジメジメとした空気と一緒に部屋にもイヤーな空気が漂ったままだ。

 俺の部屋着を着た美少女がタオルを肩にかけ、ソファに座っているのである。俺も着替えを済まし、彼女の対面に座る。


「コホン、まずは自己紹介からな。俺は一ノ瀬 成いちのせ なる16歳、高校1年生だ」

「私はリナ アリアス、歳は16ね」



名前的に外国人かハーフだろう。シルクのような銀髪も染めてはいないようだ。

 そして同い年なのか。あまりにも俺の服がダボダボだったのでもっと小さく見えてしまった。まぁ、それは置いといて、さて軽い自己紹介も済んだし本題に入ろう。


「で、どうして家の前に座り込んでいたんだ?」

「それがよく覚えていないの。覚えいるのはパーティメンバーと一緒にゴブリン狩りをしていて…」

「は?」


いやいやちょっと待て、俺ん家の目の前にいたくせについさっきまでゴブリンを狩っていた?俺ん家の目の前にゴブリンがいたんですかっ。

 しかし、リナはまだ何かを言いたそうな顔をしている。とりあえず、一回全部話を聞いてみよう。


「ごめん、続けて」

「で、ゴブリンを狩っていたら、背後に忍び寄っていたボスゴブリンに棍棒で…そうして気がついたらここにいたの」


なんだそのアニメみたいな展開はっ!どこまでの厨二病重症患者ですかっ?


「なら、ゴブリンを狩っていたと証明できるものを見せてくれ」


ふんっ、この一言は強力だろう。たとえ厨二病だとしても実物の証拠を出せと言われたら困るだろう。そうして、嘘を暴いた後にしっかりと事情をきこう。


「いいわよっ!」


うそぉーん!?

 彼女は濡れた皮のショルダーバッグから巾着袋を取り出し、中身をテーブルの上に出す。


「これがゴブリンの目玉よ!」


そう言ってひっくり返した巾着袋から勢いよく飛び出した白い球が転がり出る。そのまま俺の目の前に…


「なんだこれっ!?気持ち悪っ」


俺は、思わず立ち上がってしまう。転がってきた球を見ると、緑色の瞳に血走った眼球だった。


「他にも見るでしょ?」


彼女は刀身が50センチを超えた短剣や、見たこともない石などを見せてくる。こんなもの持っていて俺に…変な対応していたら殺されたたかもしれないな。とりあえず、危ないものは回収させてもらった。

 

これではっきりしたな。


こいつ…マジで異世界転移やったんじゃねぇかぁああああ!


待て待て、この状況はどうすればいいんだ?とりあえず警察に連絡か?いや、そんなことしたってリナの話には誰も聞き耳を持とうともしないだろう。

 俺は、今後のことを考える。マジで面倒なことになったな。


「リナ、お前のいた国は?」

「ランサー王国」

「家は?」

「ランサー王国にある」


だめだぁ。リナは自分がまだ転移したとは思っていないだろう。


「リナ、聞いてくれ。少し、言いにくいんだが…ここは日本だ。俺の勝手な推測だとお前はここに転生してきたんだ」

「はっ!?じゃ、ランサー王国は?私の家は?」

「無い」


「はぁーーっ!?」


彼女は机から身を乗り出し、酷く驚いている。

 でしょうねっ。そりゃそうなりますよ。俺もそうなりましたから。

 

「問題はここからだ。お前、これからどうするんだ?」

「どうするも何も私はこの世界のことを全く知らないのよっ!」


だよなぁ、こんな奴をこのまま世に放つなんて危なすぎる。容姿は一級品だからな、変な男に狙われるのもあり得ない話ではないだろうし。

 俺は頭をフル回転させる。しかし、いい方法は見つからなかった。


「リナ、こうしよう。数日はここにいてもいい、だが未成年が一つ屋根の下で過ごすんだ。法律的にも危ないし、ある程度日本になれたらおさらばだ」


苦悩の判断だが、リナのためにもこれが今最善の方法だろう。もちろん、やらしい事は全く考えてないよ?

 彼女は意外そうな顔をしてこちらを見てくるが、数秒考えて答えを出した。


「分かったわ」



こういうことで、俺とリナの数日間の同居生活が決定したのだった。



「じゃ、お前は空いてる和室を自由に使ってくれ。俺は、いままで通りの部屋を使うから」


キッチンにリビング、プラス2部屋で俺1人だ。特に趣味という趣味がな

い俺の部屋は生活するだけのものしかない。なので、空いていた和室を使ってもらおう。


「なんで危ないって分かってるのに家に置いてくれるの?」


リナの頭上には「はてなマーク」が頭の上に浮かんでいる。


「このままお前を追い払った方がお前が危険だろうが」

「でも、私そこそこ強いよ?」

「そういうことじゃない。俺が言うのもなんだが、帰る場所もお金もないお前にとってこの世界は簡単に生きれる場所じゃない。それに、そんなことを知っていて『出て行けっ』なんて言えないだろ」


リナはきょとんとしている。

あー、なんだか超恥ずかしいこと言った気がするな。体がムズムズするような感覚に襲われる。


「後は布団と着替えだな」

「えっ、私、成の服で大丈夫よっ!それに寝るのはソファで充分よ。成が私と寝たいって言うんだったら一緒に寝てあげてもいいけど」

「外で寝たいか?」

「すいません!ソファで結構です」

「あのなぁ、これから一緒に暮らしていくうちの1人がソファで寝るとか考えられねぇだろっ」


俺から同居の提案をしたのに自分だけがベッドで寝るなんてアホなことできるわけねぇ。それに早くリナにこの世界のことを知って欲しいからな。


「よしっ買い物行くか!」


気がつけば、雨は止んでおり、窓からは暖かい太陽の光が差し込んでいる。

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