Side Story〈Airi〉episode XVII

本話は、本編22話の話になります。

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 盛り上がったオフ会は、気づけば4時間が過ぎてて、さすがに明日もあるってことで、あたしたちはTalkの連絡先を交換して解散することになった。

 次回の予定も決めたし、また会えるのは正直楽しみ。

 

 だいはあたしとゆめと違って部活でもゼロやんと会えるみたいだし、これでこいつら少しは進んでくれるかなー?


 店を出たあたしたちは、桜木町の駅への道のりを歩く。まだ20時過ぎだから、それなりに駅周辺にも人はいる。イチャイチャするカップルとか、愉快に大声だす大学生とか、そういう光景は、嫌いじゃない。

 みんが世の中を満喫してる感じっつーのかな?

 うん、嫌いじゃないんだ。

 ほんとだぞ?


 快晴だった今日の空は、今は夜を示すきれいな月を浮かべてる。

 今日は楽しい日だったなぁ。


「みんなはどうやって帰るの~? わたしはバスだけど」

「あたしは町田だから横浜線」


 でも楽しい時間はずっとは続かない。

 ずっと続いたら、楽しいが分からなくなっちゃうだろうし、これでいいのだ。

 人生楽ありゃ苦もあるさって言うじゃん?

 楽があるから苦があって、苦があるから楽もあるが、正解だよなー。


「俺は横浜から新宿行って、そっから中央線だよ」

「え!?」

「どしたの~?」

「あ、いや、私も同じだから……びっくりしただけ」

「うわ、お前ら最後にまた奇跡もってきやがったな!」

「ここまでくると、もう何も言えないね~」

「じゃ、横浜までは一緒だけど、そっから先はだいのこと任せたぞ?」

「お、おう」


 新宿出るならそうなるけど、まぁまさかご近所さんじゃあないだろうし、頑張って新宿までエスコートしろよー?


「じゃ~今日はありがとねっ。楽しかった~、次楽しみにしてるよ~」

「おー、ばいばーい」

「うん、私も楽しかった。またね」

「じゃあまたLAで」


 バス停までゆめを送って、あたしたちは3人になった。

 あたしの隣を、だいが歩いて、1歩後ろにゼロやんがいる。


「……帰り道、がんばれよー?」

「え?」


 後ろには聞こえないくらいの小声であたしはだいに話しかける。

 さぁこの言葉の意図はくみ取ってくれるかなー?

 照れてるから、大丈夫とは思うけど。


「よかったな、ゼロやん悪い奴じゃなさそうで」

「……うん」

「やっぱ、好きなんだろ?」

「……うん」

「バレバレだもんなぁ」

「え、そ、そんなに?」

「気づいてないのは、当の本人だけじゃねーかな」


 素直に認めてくれたのは、ちょっと嬉しかった。

 あ、あたし信用されてんだなーって分かったから。

 

 だから素直にだいを応援したいって、思った。


「あたしは応援するよ」

「え?」

「初恋?」

「え、ううん。昔、気になる人はいたことはあるけど……」

「ほうほう」

「でも、好きって思うのは、初めて……」

「なるほどね」

「だ、誰にも言わないでね?」

「言わねーよ」

「……でも、ゆめもゼロやん好きになったのかなぁ?」

「確証あることは言えないけど、ゆめは大丈夫じゃないかなー」

「そう?」

「うん。流石にそこまで野暮じゃないと思うし」

「野暮?」

「ま、その辺はあたしに任せとけ」

「う、うん」


 完全に恋する乙女じゃん。

 まぁ7年近い片想いってことだろ?

 そんなのもう、天然記念物レベルだよなー。




 桜木町から電車に乗って、フォーメーションが変わる。

 ドアを背にするゼロやんとだいの正面に立つあたしって形な。


「いやー、ゆめのやつ元気なってよかったわー」

「そうね、あの様子ならもう大丈夫そう」

「あれなら合コンでも行きゃ、すぐ次の男見つかんだろ」

「あー、そうね。そんな感じがするわ」

「結局男はああいうタイプが好きなんだろー?」


 さっきまでのだいとの小声の会話を改めて、今度は3人で話せる声量にして、ニヤニヤした顔でゼロやんに聞いてみる。

 この質問は、あたしの中では真理を問うに等しいものだ。


「黙秘権を行使する」


 くそ野郎め。

 もう少しだいに優しいこと言えよなー。


「可愛いは正義、っていうものね」


 でも、だいの表情がさっぱりしてたから、ま、大丈夫そうか。


 まもなく横浜駅到着のアナウンスが流れ出す。

 ほんと1駅って一瞬だな。


「困ったら何でも相談していいからな?」

「……うん、ありがと」


 最後に小さくだいにそう伝える。

 頷くだいは、可愛かった。


「ほんじゃま、またなー。帰り道だいのこと襲ったりすんなよ?」

「しねーよ!」

「ぴょんもまたね」


 あっという間に横浜駅につき、だいとゼロやんが乗り換えのためあたしを残して電車を降りる。

 二人してあたしが見えなくなるまで立ち止まって手を振ってた。


 並んだ二人を見てると、やっぱりお前ら付き合えよって気になってくる。

 見た目だけならだいはもっと上を狙えそうだけど、あんなに分かりやすく目で追ったりするほど恋する女を見たのは初めてだった。


 そんな恋、あたしはしたことねーや。

 というか、自分から好きになったのって、いつが最後だ……?

 ちょっと思い出せない。


 あたしの恋はいつも、男の方から来て始まり、男の方が去っていく。

 この繰り返し。


 ずっと変わらないってことは、あたしにも問題あるんだろうけど。


 二人がいなくなって一人になったあたしは、ちょっとだけそんなことも考えたりした。


 あー、疲れた。

 でも、寂しいよう、なんて思うほどもう若くないし。

 一人になった瞬間どっと押し寄せるのは変な考えと疲労感くらいだ。



 横浜駅の隣、東神奈川駅に着いてあたしは町田に行く電車を待つ間、スマホを開き、Talkの新規友達のとこに出てる3人を確認した。


 素直じゃない恋するツンデレ美人に、自由気ままなお嬢様に、鈍感残念イケメン。

 リアルで会ったのは初めてだったけど、みんな個性的な奴ら。

 ま、そういう性格してなきゃ教師なんて仕事選ぶはずねーんだけど。


 とりあえず帰ったら、だいとゆめにTalk送ろう。


 やってきた電車に乗り込んだあたしは、そう決意して空いてる席に腰かけ、ちょっとだけ目を閉じる。


 もちろん、ちょっとだけって思ってたはずが、起きたら町田を通過し、八王子駅から折り返すことになったのは、あたしだけの秘密だからな。


 Talkの連絡? できたわけねーだろバーカ。

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