Side Story〈Airi〉episode XIV

本話は、本編19話の話になります。

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 ゆめの案内で到着した居酒屋は、いわゆるコンセプト居酒屋という奴で、海底をイメージした可愛い居酒屋だった。個室席の背中側には観賞魚たちが泳ぐ水槽になっており、かなりおしゃれ。

 こんなとこ、あたしのセンスじゃ選べない。

 さすがだなー。


「保護者とかもしいたらやだからさー。ちょっと暗いけど、いいよね?」

「さすが横浜、おしゃれだなー」

「うん、綺麗で素敵」

「でしょでしょ~」


 ゆめが奥の席に座り、その向かい側にだいが座った。

 あたしはどっちに座ろうかなーと思ったら、まさかのゼロやんが先にゆめの隣に座りよった。

 なるほど、だいを常に見える位置にしたいってわけね。

 いやー、先にそっち行っとけばよかった。


 しかしゆめよ、ちょっとゼロやんと近くないかー?

 ま、いいんだけど。


「何飲む~?」


 ゆめがゼロやんにメニュー見せてあげてた。

 あたしとすれば飲み物のオーダーに迷うことはない。

 乾杯はビール! 一択!


「あ、席だけの予約だから、飲み放題とかじゃないからね~」

「OK、ま、最初はビールで」

「あたしも!」

「わ、私はウーロンハイで」

「はーい、わたしはサングリアにするね。ゼロやん注文よろしく~」

「え、ああ、わかった」


 注文ゼロやんにさせんのかよ。

 この子はほんと、すげーなー。

 お姉さんびっくりだよ。


 オーダーして割とすぐに飲み物はやってきた。

 ま、さすがにまだ17時前だし、お客さんも少ないみたいだねー。


「はいは~い、じゃあ、【Teachers】の出会いに、かんぱーい」

「「「かんぱーい」」」

「って、失恋記念じゃねぇのかよっ」

「そんなのもう忘れました~」

「一応心配で来たのに、そんな必要なかったのね」

「みんなに会えたら元気なっちゃった」

「ま、楽しい気分のほうが酒もうまいさっ」


 黒一点のゼロやんは「かんぱーい」って言っただけで、あとはだんまり。

 ま、無理やり喋らせるのもなんだし、とりあえずほっとこ。


「いやー、しかしだいがこんな美人だとは思わなかったぜ」

「そ、そんなことないわよっ」

「しかも、これ何カップだよ?」

「二人並ぶとぴょんはまな板だね~」

「そう言われれば……え、ついてるのよね?」

「お前ら……殺すぞ?」


 まぁ言われ慣れてるけど。

 でもこれでずっとだんまりな奴に話題を振るチャンスがきた。

 ったく、感謝しろよー?


「おい、ゼロやん、どこを見て、何と比べてんのかなー?」

「えー、ゼロやんセクハラ~」

「最低」

「だったらせめて男がいるって考えた話題にしてくれよ……」

「わがままだな~」

「まぁでも、あんまゼロやん男って感じはしねぇんだよなー、悪い意味じゃなく」

「そうだね~、可愛い系男子だね~」

「男子って年じゃねぇよもう」


 よし、会話に入ってきた。

 これでゼロやんのターンを始められる。


 だいの応援もしてやりたいけど、やっぱあの話を乗り越えておくべき話題だろうし。

 とりあえずさっさと話させとくか。


 あたしは作戦を思いつき、ニヤっと笑った。


「セシルの好みはこういうやつだったのか」

「え、何その話?」

「あ、ゆめはいなかったんだっけか!」

「え、今その話する!?」

「ゼロやん、あのセシルの元カレなんだってよっ」

「え! うっそ~、びっくり!」


 ちらっと横目でだいの方を伺えば、案の定だいの表情は少し暗くなってた。


 ほんとわっかりやすいねー。

 でも、お前が本気ならこの話題を越えなきゃなんだぞー?


 そうこれは優しさなのだ。

 ゼロやんとだいの愛の試練。


 別に、面白がってるわけじゃない……わけでもないけどな!






「ほほ~、そんな過去がね~」

「その別れ方、ゆめの元カレと同じじゃない?」

「あっ、たしかに! だい鋭いっ」

「いや、絶対ゆめの比じゃなかったからな? ゆめくらいの頻度なら、俺だってゲームするんだし何も言わなかっただろうさ」

「いや~、やっぱ廃神って言われるプレイヤーってすげーんだなー」


 この話を聞くのが1回目じゃなく、2回目だからか、だいはちゃんとガードできていた。

 しかもちゃっかりカウンターも決めて。いいぞ、お姉さんは安心だぞ。


「え、もうほんとずっと、LAやってる感じだったん?」

「ああ、そうだね。大学の課題とか、俺が代わりにやることもあったし、基本飯は俺が作ってた」

「うわ、ゼロやん一家に一台欲しいタイプか」

「尽くす系なんだね~」

「昔の話な?」

「え、でもさ」


 尽くす系かぁ。うーん、それはちょっとあたしの好みとは……って、あたしの好みは関係ないか。

 まぁあたしはどっちかっていうと世話焼いちゃう方なんだけど……あれ、もしかしてこれがくそ男ホイホイになってる……?

 いやいや、そんな馬鹿な。


 うん、ここは話題を変えよう!

 せっかくいい気分なんだし!


「そんなずっとゲームされてたら、男として寂しかったんじゃないのー?」

「え、それどういうこと~?」

「夜の方とか、かまってもらえたのかー?」


 ここは得意のコースへ話題転換!

 さぁ、これにはだいよどう出る!?


「おいっ」

「ぴょん……破廉恥」

「うわ~、おっさんノリじゃん」


 あ、真顔かーい。

 そしてゆめよ、お前裏切ったな!? LA終わりにホテルデートとかするとか言ってたくせに、清楚系装うのか!?

 

 でも、あたしはこのくらいじゃめげないぜ!!


「セシルったらレイヤーとしても有名じゃん? え、そういうプレイもしてたんかー?」

「深掘りすんな!」

「ぴょん、それは最低」

「うん、さすがに引くね……」

「えー、なんだよお前らノリわりいなー」


 いや、こいつ絶対やってたな、間違いねぇ。

 でもしょうがない、多勢に無勢じゃ、ちょっと引っ込むか……。


「ちょっとお花詰んでくるわー」

「あ、私も行こうかな」

「いってらっしゃ~い」


 あたしがトイレに立ったら、だいもついてきた。

 おいおい連れションとかJKノリかよ。

 別にいいけど。



 ゼロやんとゆめを置いてく形になり、あたしは薄暗い店内をだいと歩く。


「……で、どうなん?」

「え?」

「愛しのゼロやんと会って、だいの気持ちは?」

「は、な、何言ってるのよ!?」

「あれー? 違ったかー?」


 あたしの言葉を受けて恥じらう美人は、めちゃくちゃ可愛かった。

 でも、顔真っ赤になるほど、お前酒飲んでねーの知ってっからなー?

 

「ゲーム内で一緒にいるからって、リアルは別よ……!」

「ふーん?」


 とてもそうは見えないけど。

 あー、ニヤニヤが止まんねぇ。


 そこまで話したとこで、個室が一つだったからあたしはだいを先に行かせた。

 

 少し待って、だいと交代する時。


「後悔はしないようにすんだぞ?」

「え?」

「べっつにー?」


 そう言ってあたしは個室に入る。

 さぁだいは何を思っただろう?


 ほんとあたしは優しいなぁ。

 そう思うだろ?


 用を足して個室を出ると、流石にだいは待っていなかった。

 いや、待たれてても困るんだけど、あたしの言葉に、何か思うところはあったのかなって、ちょっと期待もしたりする。


 そんなことを思いながらあたしも席に戻る。

 さぁ、今度は何の話しよっかなー。

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