Side Story 〈Airi〉 episode Ⅴ

 本話は、本編開始前の話になります。

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【Teachers】の活動には、行ける日もあれば行けない日もあった。

 でもほんとに急に休んでも何も言われないし、なんていうかありがたいギルドだなって印象は強い。


 ギルドでの日々を過ごす中で、あたしも色々気づいたし、みんなとも仲良くなった。


 まず気づいたのは、ジャックの異常さ。

 あいつはすごいというか、ほんとに同業者かと疑うレベルに強かった。

 活動日以外もまず確実にいるし、ギルドの活動でも要望があれば色んな武器出してた。

 何者だこいつ。


 次にゼロやんとだい。

 こいつらいつも一緒にいやがる。

 話してる感じ、だいは「俺」って言ってるけど、お礼とか挨拶とか、そういうのは欠かさないマメさがあるし、あたしと同じ意味で「俺」を使ってると見た。

 ってことはこいつら、そういう関係なのか?

 ほんとそう思えるくらいセット販売。

 まぁゼロやんはだいを男と思ってそうだけどな。

 いつか聞いてみたい。


 そしてゆきむら。

 こいつも女の子。しかも若そう。

 会話してると不思議ちゃんな感じあるし、その感じがなんか女の子っぽい。

 仕事の話とか全然入ってこないから、ギルド加入条件を満たしてるのかは怪しい気がする。

 ロールプレイってやつも中途半端だし……。

 でもあえてそこをいじるほど、あたしは嫌な奴じゃないぞ。


 この辺が、あたしが入って思ったところ。



 あと、起きた変化といえば。


 あたしの加入から5か月後の12月末。

 その日は年内最後の活動日が終わった時だった。


〈Kamome〉『今日はみんなに話があるんだ』

〈Jack〉『どうしたのーーーー?』

〈Kamome〉『リダには話してたんだけど』

〈Kamome〉『ちょっともう仕事と両立は限界だw』

〈Daikon〉『え』

〈Zero〉『そうか・・・』

〈Gen〉『リアル優先だからな』

〈Jack〉『そうだねーーーー・・・』

〈Soulking〉『おつかれさま!』

〈Kamome〉『今までありがとね!』

〈Kamome〉『みんなと会えてよかった!』

〈Kamome〉『みんなも、お仕事がんばろーね!』


 かもめが引退LAをやめる宣言をした。


 かもめとはけっこう話があったから、悲しかった。

 だから、みんなとの会話の時にあたしは何も言えなかった。


 そしたら。


〈Kamome〉『短い間だったけど、楽しかったよー』


 かもめから、個別にメッセージが送られてきた。


〈Pyonkichi〉『あたしも!』

〈Kamome〉『あたしってw素でてるよw』

〈Pyonkichi〉『あ!』

〈Pyonkichi〉『俺も!のミス!w』

〈Kamome〉『www』

〈Pyonkichi〉『てか、気づいてた?』

〈Kamome〉『あったりまえじゃーんw』

〈Pyonkichi〉『くそうw隠してたのにw』

〈Kamome〉『ふふふw』

〈Kamome〉『ぴょんさ、今海底都市これる?』

〈Pyonkichi〉『ん?行けるけど』

〈Kamome〉『あたしが最後に見る景色は、あたしが好きなここがいいんだ』

〈Pyonkichi〉『いく!』

〈Kamome〉『うん、待ってる』


 そう言われて、あたしはかもめがいる海底都市セ・ラに転移する。

 転移にともなう読み込みがじれったい。

 そして転移が終わるや否や、あたしは海底都市で一番綺麗だと思う宮殿前に移動した。

 海底にたたずむ、海の中にそびえる壮大な青の宮殿。

 本当に、綺麗な光景だった。


 そしてかもめも、そこにいた。


〈Kamome〉『おー、よくここがわかったねー』

〈Pyonkichi〉『あたしも、ここが好きだからね』

〈Kamome〉『さすがぴょん。気が合うねw』

〈Pyonkichi〉『まぁなw』

〈Kamome〉『これ、もらってくれる?』


 かもめからトレードが申し込まれる。

 承認すると、あたしに送られるアイテムボックスに、かもめが装備していた指輪が表示された。

 それは魔法攻撃力を大きく上げる、バザールで買うとけっこう値が張る指輪だった。

 いつぞや、あたしがいいなーって話したことのある、指輪だ。


〈Pyonkichi〉『いいの?』

〈Kamome〉『あたしはもういなくなるから』

〈Kamome〉『Wウィザードの相棒に託すの』

〈Pyonkichi〉『ありがとう・・・』

〈Kamome〉『そのうちそれより強い装備出ると思うけどねw』

〈Pyonkichi〉『ずっと使う!』

〈Kamome〉『それより強いの出たら新しい装備にしないとダメだよw』

〈Kamome〉『でも、この世界はほんと綺麗だったなー』

〈Kamome〉『気まぐれで始めたゲームだったけど』

〈Kamome〉『こんなに楽しめるとは思わなかったや』

〈Pyonkichi〉『いつでも帰ってきていいんだよ?』

〈Kamome〉『そうだねwその日が来たらまたよろしくねw』

〈Pyonkichi〉『うん・・・』

〈Kamome〉『ありがとね』

〈Pyonkichi〉『あたしこそ、ありがとう!』

〈Kamome〉『またあたしって言ってるw』

〈Kamome〉『ぴょんきちは男の子なんだから、びしっと胸張ってw』

〈Kamome〉『みんな天然ばっかで苦労すると思うけど』

〈Kamome〉『ツッコミ役、頼んだぞ!w』

〈Pyonkichi〉『俺に任せろ!w』

〈Kamome〉『うん、その意気だ!w』

〈Kamome〉『じゃあ、ばいばい』

〈Pyonkichi〉『またな!!』

〈Kamome〉『また、か~』

〈Kamome〉『うん、またねw』

〈Kamome〉『ぴょん大好きw』


 その言葉を最後に、かもめはこの世界から消えた。


 顔も本名も知らない相手との別れが、こんなにつらいとは。

 ログ見ながら泣いたのは、初めてだったなー。

 ほんと、まさかゲームで泣くとは思わなかったけど、これがMMOなんだなって、改めて思えた瞬間だった。




 そして、年明けからちょっとして。


〈Yume〉『ゆめで~す。よろしくおねがいしま~すっ』


 【Teachers】に後輩が入ってきた。

 女エルフの斧ファイター。

 話し方が超女の子で、男受けよさそうな感じ。


 あたしの苦手なタイプというか、天敵系。


 でもここはリアルじゃないし、かもめとあんなに仲良くなれたんだからもしかしてと思って、あえて仲良くしてみることにした。


 そしたらすごい懐いてくれた。


 もし自分がこういう感じの子だったら、あたしの人生も違ったのかなー、とか思う。

 まぁここはリアルじゃないし、本当にこういう子かも分かんないけどねー。

 

 でも、ゆめはあたしが女だって気づいたみたい。

 言われたのはかもめに続いてゆめが二人目。連続でバレて、ちょっと悔しい。


 ちなみにバレてからはフレンド登録して、個別メッセでもやり取りするようになった。

 彼氏とののろけなんかも、ギルドチャットじゃ言いづらいのかたくさんあたしにしてくれた。

 アラサー彼氏なしにはちょっとつらかったとか、言わねーけどな!




 そしてさらに、加入から9か月後の、新年度4月のちょっと過ぎ。


〈Earth〉『あーすちゃんです☆よろしくねっ☆』


 変なやつが入ってきた。

 見紛う事なきネカマの登場に、あたしは笑った。

 そしてそれと同時にいいおもちゃが入ったなーって、楽しくなった。



 こうして【Teachers】はあたしが加入後、2増1減で9人になった。


 行ける日も行けない日もあったけど、リアルでの生活のバタバタもストレスも、ギルドのみんなと遊んでると忘れられる。


 あたしはすっかり【Teachers】の〈Pyonkichi〉としての居場所を、そこに見つけたのだった。



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※こちらから読んでいる方のための補足


LAには主に3種類の戦闘コマンドがあります。


①防御系

盾&片手剣:モンスターの攻撃のタイミングで防御コマンドを入力することで、盾で攻撃を防ぎます。

刀:モンスターの攻撃のタイミングで防御コマンドを入力することで、敵の攻撃を捌きます。タイミングがシビア。

格闘:モンスターの攻撃のタイミングで防御コマンドを入力することで、カウンター攻撃を行います。タイミングが一番シビア。

その他:モンスターの攻撃のタイミングで防御コマンドを入力することで、ダメージを軽減します。


②攻撃系

近接武器:任意のモンスターに攻撃の構えをすると、ターゲットマークが点滅します。ターゲットマークが出ている時に攻撃コマンドを入力することで、敵を攻撃します。

銃&弓:任意のモンスターに攻撃の構えをすると、ターゲットマークと共に照準マークが現れます。照準マークとターゲットマークが一致すると大ダメージ。外れるとダメージが減ります。ボス級モンスターはターゲットマークが動くため、照準を合わせるのが難しくなります。また、1発撃つ毎に攻撃の構えが解除されます。


③魔法&スキル

 使用したい魔法orスキルを任意の対象に指定することで発動します。攻撃系魔法&スキルは、敵毎に設定された適正スキル次第でダメージ量が増減します。


 基本的にショートカットコマンドを入力しないと、発動が遅れるため、プレイヤーは各自使いやすいコマンドを作成してゲームをプレイしています。

 タイミングが重要なので、アクションが苦手だとけっこう苦戦するゲーム仕様なのです。


 なお、この情報はSide Storiesを読むにあたって必須知識ではありませんので、ご安心ください笑

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