7話 クラスメイト

7話 クラスメイト


 「じゃあまた後でな!」


 「うん! またね!」


 俺たちは昼食をとってから学校についたところで別れた。

 さて、教室へと向かうか。


 特待クラスの教室へと着き、ドアを開けると既に10人近くの生徒が集まっていた。


 「ねぇ、君ってその身なりだと平民でしょ?」


 俺が教室へと入ると、1人の男子生徒が駆け寄ってきて小声で聞いてきた。

 ターナより少し高いくらいの身長で、黒髪にくりくりとした大きな瞳をもつ人族の少年だ。

 女の子みたいな可愛らしい見た目をしている。


 「そうだけど、どうかしたのか?」


 「いや、僕以外の男子がみんな貴族の人達だったからさ。同じ市民の仲間が欲しかったんだよ」


 なるほど。

 冒険者学校では平民も貴族も平等とはいっても、平民としてはなんとなく気まずいのだろう。


 「そうなのか。俺はロイだ。よろしくな!」


 俺の名前を聞いてからか、いくつかの視線がこちらを捉えたのを感じた。

 俺の名前を知っている者なんかいないはずなんだがな⋯⋯。

 幸い、人数が少ないから視線の主が誰なのかは特定できたので後で探りを入れる必要があるな。

 まぁ、なんとなく悪い感情による視線ではなさそうだから問題ないといいんだが⋯⋯。


 「僕はメルケスだよ! よろしくね!」


 それから数分ほどメルケスと自己紹介なんかをしていると、教室のドアが開き教官が入ってきた。

 40代くらいだろうか。

 黒い短髪を5対5くらいで分け、長身でどことなく怖そうな感じの人だ。


 「諸君、まずは特待クラスへの入学おめでとう。君たちは、将来この国を支える力をもつ国の宝だ。ぜひ各々が得意とする分野で好きに活動していってくれ」


 実は、特待クラスのもつ特権として学外の功績を卒業認定単位として適用できるというものがあるのだが、それは決して武功によるものだけではない。

 例えば、メルケスの父親は大商人らしく社会勉強として冒険者学校に入学させられたらしいのだが、この場合は商人としての営業成績でも認可される。

 冒険者学校という名前ではあるが、優秀な人材だったら大抵はどの分野でも受け入れるというスタンスらしい。

 まぁ最低限の戦闘はこなせないと駄目らしいのだが、そのような制度があるというのは意外だな。

 俺は知らなかったのだが、俺たちが入学試験を受けた数日前にそういった事柄をアピールする自己推薦試験があったらしい。

 メルケスはそれを受験したそうだ。


 「では、さっそくだが自己紹介を行う。私はこの特待クラスの担当教官となったハインツだ。少し前まではAランク冒険者として活動していた。まぁこんなところか。次は諸君の番だ。前に座っている者から順に自己紹介するように」


 そう促すと、教卓側からみて左手前に座っている猫耳少女が元気よく立ち上がった。

 猫人族だな。

 猫人族とは端的に言うと、犬人族の猫バージョンだ。


 「はーい! 私の名前はカヤです! 魔法はあまり得意じゃないから、剣士として頑張ろうと思ってます! みんなよろしくね!」


 次に立ち上がったのはエルフの女子生徒だ。

 メリ姉と初めて会ったときも思ったんだが、実際のエルフは民話なんかで聞いていた程には耳が尖っていないんだよな。

 髪色がプラチナブロンドなのは一緒だけど。


 「⋯⋯ラフィーナです」

 

 人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しており、その瞳に込められた感情もなんだか穏やかではなさそうだ。

 これは人見知りというやつなのだろうか?

 そんなラフィーナの次は先ほど仲良くなったメルケス。


 「僕はメルケスです。父親が商人をやっていて、知っている人もいるかもだけどスミス商会ってところです。戦闘はあまり得意じゃないので経営者としてやっていこうと思ってます」

 

 次は俺の番だな。


 「俺はロイだ。冒険者登録を早くしたかったのと、社会勉強のためにここへ入学した。田舎者だから分からないことも多いけど、これからよろしく!」


 俺の次には、何やら豪華な身なりをした人族の少年少女が数人いる。

 恐らく貴族の子どもだろう。

 そしてその中には、さっき俺に不可解な視線を向けた者もいる。


 はじめに立ち上がったのは、茶髪のなんだか少し気怠げな男子生徒だ。


 「俺はアルヴェン=クロスだ。姓があるのは一応、子爵家の四男だからだな。戦闘では主に攻撃魔法や支援魔法が得意な後衛タイプだ。よろしく」

 

 アルヴェンの次は、黒髪に年齢の割にはガタイのいい身体つきをした男子生徒。


 「俺の名前はキール=カルカフ。辺境伯家の三男だ。剣術を得意とする。切磋琢磨して共に強くなろう!」


 キールはなんだか武人気質って感じみたいだな。

 そしてキールの次は金髪の凛々しい顔立ちをしたイケメン男子生徒。


 「私はイゴール=ベルモンド。侯爵家の長男です。今日は優秀なクラスメイトの方々と出会えて本当に嬉しいです。どうぞこれからよろしく」


 俺たち――主に女子生徒に向かって――に一礼しキラリと前歯を光らせ、はにかんでみせた。

 この男、キザにも程があるだろう⋯⋯。

 女子勢の表情が少し引きつってしまっているのにも気付かず、イゴールは満足気な表情で席に着いた。


 そんなキザ男イゴールの次は、先ほど俺に視線を向けてきた2人だ。

 2人の内、はじめに立ち上がったのは桃色の髪を肩まで垂らした女子生徒。


 「はじめまして。私はルナ=ハグベリーと申します。公爵家の長女ですが、ここではただの生徒にすぎません。ぜひ仲良くしてくださいね」


 ⋯⋯なんだか嫌な予感がするぞ。

 そしてもう1人の方の女子生徒が立ち上がった。


 「私はテミス=ケージーと申します。王太子家の長女ですわ。先ほどルナが言ったように、ここでは同等の立場です。余計な気は遣わずにお互いを高め合いましょう」


 ここにきて、先ほどの視線の意図が予想できた。

 母さんの話によると、この国には隠密機動部隊というものが存在し国中のあらゆる出来事を裏で監視しているらしい。

 おそらくルナとテミスはその部隊から試験で逸脱した成績を残した俺の名前を聞いたのだろう。

 だから俺の見た目ではなく名前だけに反応したのではないだろうか。

 しかし、『入学試験も監視されているだろうから気を付けて』とは言われていたが、まさか同級生に王太子令嬢や公爵令嬢レベルがいるとは予想すらしていなかったな⋯⋯。

 

 さて、王太子令嬢が出てきて自己紹介も終わりかと思っていたら、まだもう1人いたみたいだ。

 というのも、みんなが座席の前から詰めて座っているのにも関わらずひとり離れて後ろの席に座っている女子生徒がいたのだ。


 「私はライラ。お金が欲しくてここに来た。人族と馴れ合うつもりはないよ」


 とだけ言って座ってしまった銀髪の彼女は白狼族だ。

 目つきも鋭く、なんだか不良少女みたいだな。

 白狼族は犬人族や猫人族と同じ系統の見た目をしているが、亜人族の中でもとりわけ身体能力の高い種族だとされている。

 実際、父さん達が魔王軍の幹部を倒した戦において白狼族の戦士達は多大な活躍を残したらしい。

 その一方で、少数種族である彼らにとって先の戦いで失われた命はあまりに重かった。

 そのため白狼族は人族に救援を求めた。

 父親を失った家族への見舞金や食料等の援助などだ。

 だが、なんとも不義理なことに人族の国家はこれを拒んだ。

 父さんや母さんをはじめとする一部の人族は白狼族の知り合いを通じて私財から援助を行なったそうだが、力及ばず。

 結局、人族の国家に失望した白狼族は団結し自ずから人里離れた山奥へと移り住んだらしい。



 こういった経緯があるため、彼女が人族を嫌っているのも無理ない話だ。

 せっかくクラスメイトになったのだから、少しは仲良くなりたいものだが⋯⋯。

 

***



 自己紹介が終わった後、それぞれに生徒証明書が渡されてハインツ教官から諸注意や授業についての説明を受け、解散となった。

  

 入寮の手続きを済ませようと指定された教室へと向かっていると、クラスメイトのアルヴェンが話しかけてきた。


 「よっ! ロイだっけ? お前も寮に入るのか。俺もだから、色々とよろしくな!」


 さて、クラスメイトの貴族連中についてだが、向こうがクラスメイトとして普通に接してくる内は俺もそうするつもりだ。

 基本的には深く関わりはしないけどな。

 もし変なことを企んでいるような素振りがあればこっちも対応を考えるし。


 「貴族の息子なのに寮に入るってことは、実家が遠いのか?」


 王都から離れた土地に住む貴族の子どもが冒険者学校に通うには、寮へ入るしかない。

 寮の質が悪い訳ではないから、そういった生徒の中ではむしろ寮生活を楽しみにしている人の方が多いらしい。


 「そういう訳ではないんだけど、実家は居心地が悪いんだよ。俺は四男だけど、魔法がそこそこ使えちまうから変に将来を期待されてるし、ウチは子爵家だからずっと寄親に媚びへつらい続けなきゃいけないしな」


 「そうなのか。貴族の子ってのも大変だな。まぁこれからよろしくな」


 アルヴェンは子爵家四男だったか?

 これでアルヴェンが無能であるなら、実家の爵位は長男が継ぐとして彼自身は将来的には平民になることもあり得るだろう。

 というのも、兄弟の多い貴族家では成人後に自ら廃嫡を望んで平民として暮らしていくという人もいるのだ。

 しかし特待クラスに合格する程に優秀なのだから、彼の場合は実家や他の貴族家が放っておかないだろう。

 つまり、どう転んでも貴族ってことだ。

 本当になんて面倒な仕組みなんだ⋯⋯。

 

 「それにしても、ルナ様とテミス殿下がクラスメイトなんて夢みたいだよな〜」


 俺はその後も話しかけてくるアルヴェンに適当に付き合いながら、入寮の手続きを済ませた。


 「あれ、もう出かけるのか?」

 

 「あぁ! 冒険者登録に行ってくる!」


 そう、待ちに待った冒険者デビューだ。

 貯まりに貯まった魔物の素材がいくらで売れるのかが楽しみで仕方ないな。

 そうして俺は気分上々に冒険者ギルドへと向かうのだった。

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