第15話 反撃の狼煙

 雲が星の光を遮り、深夜のフスティシア王国の城下街は真の闇に包まれた。明かりがなくては足下の確認もおぼつかない闇の中、姿勢を低くし足音を殺して歩き回る集団があった。




 その集団は訓練された機敏さで街の各所に大型の爆弾を設置していく。そう、反乱軍はその決戦を今夜と見定めたのだ。




 所定の位置に爆弾を設置し終えた反乱軍の工作員は、導火線に火をつけてその場から離れる。ボマーから大量に買い付けた爆弾が反撃ののろしとなるのだ。




「ついに・・・この日が来たか」




 反乱軍の軍団長、半巨人のバースはその強面をさらに引き締め、鋭い眼光を王城へ向ける。




「最大の障害は王国騎士団、そして騎士長のアルフレートだ。まずは爆発の混乱時即座に衛兵団を叩き、後顧の憂いを絶つ。そして騎士アルフレートは俺が押さえるからその間に城に攻め込むんだ」




 バースの指示に部下達は重々しく頷いた。




 騎士の中の騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。彼の実力は周知の事、軍団長であるバースとて勝ち目は薄い。




 バースは己が身を犠牲にして反乱を完遂しようとしているのだ。




「なあに、心配すんな。お前達が国王を討つ時間くらいは稼いでやるさ。それに俺も負けるつもりで戦う訳じゃねえ・・・あいつには借りがあるしな」




 にやりと肉食の獣を思わせるどう猛な獣を思わせる笑顔を見せるバース。




 次の瞬間、大きな爆発音が響きあがる。開戦の狼煙だ。




「いくぞ野郎どもぉ! てめえらの命はここで無くなる物と思え!」




 バースの雄叫びにときの声を上げて進軍する反乱軍の猛者たち。目標は衛兵団の兵舎。最短最速で叩きつぶす。
























「おぉぉ! そこをどけぃ!」




 バースの豪腕が唸りをあげる。その剛力で振るわれたバトルアクスは敵の纏った鎧ごと叩きつぶし絶命に至らしめた。




 速攻。




 それこそ数で劣る反乱軍が王国に勝ち得る唯一の手段。




「軍団長! 兵舎の制圧を終えました!」




 部下からの報告に頷くと次の指示を出す。




「よし、燃やせ。武器庫には爆弾を設置して念入りに壊すんだ。それが終わり次第王城へと進軍する。ここからが本番だ、気を引き締めろよ」




 部下にそう言い残してバースはいち早く兵舎から出た。




 通りには逃げ惑う民衆を何とか避難させようと必死な衛兵たちの姿。そこに人員を割いた為か兵舎の制圧は容易であった。




 計画は概ね順調といえる。バースは鋭く息を吐き出した。




 ここからだ。




 すべてはこの後、バースがどれだけ騎士アルフレートを押さえていられるかにかかっている。




 爆発が起こってからすでに数十分。そろそろ王国の猛者達が支度を終えて動き出すころだろう。




 背後で制圧した兵舎が爆音と供に燃え上がった。




 中から出てきた反乱軍の兵士たちは迷い無い動きで王城へと進軍を開始する。




(見ていてくれクリサリダ・・・オレは必ず王国を落とす)
























 やはりと言うべきか、城門へたどり着いた反乱軍を待っていたのは王国最強の騎士アルフレートの率いる騎士団であった。




 爆破から数十分しか経過していないというのに、完全武装で整列をしている。




「やってくれたね反乱軍。だけどこの騎士アルフレートがいるかぎり、君たちがこの先に進むことはできない」




 先頭に立ったアルフレートが最強の自負に満ちた言葉を投げかける。その多大なるプレッシャーで、バースは知らずの内に一筋の汗が頬を伝うのを感じた。




(落ち着けオレ。わかっていただろコイツの強さなんて)




 一呼吸置いて、バースは最強の騎士アルフレートの眼前に進み出る。




「久しぶりだな騎士の中の騎士。オレの顔を覚えているか」




 バースの巨体にアルフレートの周囲を固めていた騎士達はざわめきを見せるが、アルフレートはバースの顔を見上げるとニヤリと笑みを深めた。




「ああ、やはり反乱軍の頭は君だったのか。亡ドロア帝国の将軍バース・アロガンシア。懐かしいね、また私に負けに来たのかい?」




「ふん、挑発に乗ってやろうじゃねえか。そもそもオレの目的はお前だけだ・・・さあ、存分に殺し合おうぜ」




 バースは右手のバトルアクスを高らかに掲げ、地を振るわすような大声で咆哮を上げる。




 鼓舞された反乱軍の兵士たちが突撃を開始した。狙うは国王の首ただ一つ。




「おっと、ここは通さないと言っただろう?」




 先行した反乱軍の一人を、アルフレートは疾風の速さで剣を煌めかせて斬り付ける。その剣線はまさに教本通りの美しさ。しかし剣先に込められた威力は教本に載せるには荒々しすぎるほどに凄まじい。




 兵士の右肩から袈裟懸けに一線されたその剣は、まるで鎧など問題にならないとばかりに人体を真っ二つに両断した。




「てめえの相手は、オレだっつってんだろぅがぁ!」




 遙か上空から振り下ろされたバースのバトルアクスが、アルフレートの脳天に飛来する。野生の獣さえ即死させるその一撃を、アルフレートは涼しい顔をしてその聖剣で受け止めた。




 バースとアルフレート、その身長差は大人と子供ほどもあるが、つばぜりあったその刃の力は拮抗していた。




 バースの禿げ頭に汗が流れ出る。




「ほら、どうしたんだい力自慢。その自慢の筋力で私を押しつぶしてみせてくれよ」




 余裕の表情で挑発をするアルフレートに、しかしバースは心の中で笑みを浮かべた。




(オレがお前に勝てない事なんてわかっている。余裕ぶっこいてやがれ、その間にオレたちは先へ進ませてもらう)












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